インタビュー:TOYOMU

異形の新人が目指す、ジャンルからの逸脱

広告
インタビュー:三木邦洋
撮影:Keisuke Tanigawa

年の瀬となり、海外の各音楽メディアが年間ベストを発表し始めた。日本人ではDJ NOBUやSOICHI TERADAが『Resident Advisor』のランキングにその名を刻み話題を呼んでいるが、一方で『FACT Magazine』では、「バンドキャンプ年間ベスト20」というランキングに、京都のアーティストTOYOMUがランクインした。その作品は、件の『印象III:なんとなく、パブロ』である。評には「ディアハンターのブラッドフォード・コックスの手法を彷彿とさせる(中略)極めて奇妙なアルバムでそのオリジナル作とはまったく異なって聞こえるが、にもかかわらずカニエ・ウェストのパイオニアスピリットはきちんと捉えている」とある。

この『なんとなく、パブロ』を発表した2016年3月から、彼はリミックス作品をオンライン上で4作発表した上に、全曲オリジナルのデビューアルバム『ZEKKEI』を11月に全国リリースする多作ぶりを見せた。リミックス作品の最新作は宇多田ヒカルの『Fantôme』を題材にした『印象VII : 幻の気配』。ミステリアスかつ精力的な活動を展開する彼に、創作の姿勢やバックグラウンドについて語ってもらった。

みんなジャンルに寄りかかって音楽聴いているんだ

—TOYOMUさんは、今年26歳ですか。

TOYOMU:はい。1990年生まれです。Tofubeatsが同い年、Seihoさんが少し上です。

—ヒップホップだとFla$hbackSとかKANDYTOWNとかも同世代になりますね。

TOYOMU:FEBBが少し下かな(Fla$hbackSのメンバー)。彼らとは3年前に会っているんですよ。京都のイベントに来てもらったときに。


—元々、かなりヒップホップがルーツだと。

TOYOMU:そうですね。DJはUSBを使って遊びでやっている程度でしたが。

—1990年生まれ前後の世代の音楽ファンって、必ずヒップホップは通っているじゃないですか。ひとつ前の世代だと、もうちょっと、悪めの人たちのものって感じで、誰もが通るものではなかったんですが。

TOYOMU:それは、ヒップホップの人たちが頑張ったからだと思いますよ。SUMMITとか。僕自身のヒップホップの目覚めはリップスライムです。そこから、大学まで洋楽のヒップホップは聴いてなかったんですよ。

—なるほど。インタビュー前に、ジェフ・ミルズはあまり聴いてこなかったとおっしゃっていましたが、クラブに通っていた時期はありました?

TOYOMU:ありましたよ。京都の、METROとか、WHOOPEE'Sとか。ヒップホップ系ばかりを聴いていたんですけど、友達が出ているパーティーに行って、アンダーグラウンドなテクノとかを知りましたね。 

—ヒップホップ以外の音楽は、クラブで知ったと。 

TOYOMU:そう。なんだこれ?って、思って、テクノと出会ったりしてました。

—結構、世間的にはTOYOMUさんの音楽はヴェイパーウェイブ系とかインターネット系の音楽として解釈されている向きもありますが。

TOYOMU:僕自身は全然そういうジャンルの音楽は聴いてなかったんですよ。まわりに言われて、なるほどそういう聴き方もできるのかって。変なサンプリングのヒップホップとして作ったつもりなんですけど。たとえば、QuasimotoっていうMadlibの変名プロジェクトがあるんですけど、そういう感じを目指したんですけど。Quasimotoらへんの音楽って、『SP-303』っていうシークエンス機能が極端に乏しい機材を使って作っているから、譜割りがすごく自由で。だから、四つ打ちの音楽には行かなかった。とりあえず、意識的にヴェイパーウェイブなことをやろうと思ったことは一度もないんです。


—そうカテゴライズされた原因には、エレクトロニックな音楽だけれどダンサブルじゃない音楽に対するボキャブラリーが、現在は乏しいからということがあるかもしれないですね。

TOYOMU:それはすごく思っていることで、僕はジャンルで音楽を作りたくないんですよ。ハウスを作ろうとか、テクノを作ろうとか。ヴェイパーウェイブですらヴェイパーウェイブを作る、という型があるじゃないですか。なんか、みんなジャンルに寄りかかって音楽聴いているんだって、思いましたよ。

—分からないものが出てくると、どうしても誰か教えてくれよ、と。

TOYOMU:分からない方が面白いのに。そこはみんな不安になるんですよね。だから、僕はこれはどんな音楽、ってあまり言いたくない。メロディーが良ければ、どんな音楽だって良いわけですし。

—新作の『ZEKKEI』では、トラックのそれぞれの素材を一度カセットテープに録音して、またPCに戻すという工程を挟んでいるとのことですが。

TOYOMU:テープを通す理由は音質もありますけれど、テープに入れた素材って、PCに戻すと尺がそれぞれ微妙に違ってるんですよ。テープが伸縮するせいで。だから、ぴったりシンクロしていたトラックが、それぞれ微妙にずれる。それが面白いというか。

—『Ableton』(音楽制作ソフト)というシークエンシャルなソフトの縛りから逸脱したいからというのもあるんじゃないですか。

TOYOMU:だから、最近はもう『Ableton』じゃなくて、ハード機材を揃えようかなと思ってきて。この前観たGold Pandaのライブがもうめちゃくちゃに良くって。彼はMPCを2台使っているんですけど、まさかのアンコールが起きちゃったので、「今ロードするから待って」って(笑)。彼は、ハウスとか何かジャンルを押さえにいって作っている感じじゃないんですよ。近い感覚だと、Teebs。彼らは絵を描いている感じなんですよ。それはピカソを描きましょう、桜を描きましょう、ではなくて、ただフリーに描いている。だから、(モデルを探すために音楽を聴いたりしないから)有名な人しか聴いてなくて。リアーナとか、カニエ・ウエストだとか、M.I.Aとか。 

逆流してやっと入口に辿り着いた

—宇多田ヒカル『Fantôme』のリミックスの制作期間は?

TOYOMU:あれは、一週間。発売日に買いに行ったんですよ(笑)。

—聴いてから、リミックスしようと思ったわけですか。

TOYOMU:元々、したいなあとは思ってましたけれど、実際聴いて、聴き込めば聴き込むほど、これはアレンジしがいがあるなあと。

—カニエ・ウェストの件もそうですが、アルバム一作丸ごとをリミックスするというのがまず大胆ですよね。

TOYOMU:『Fantôme』の場合は、ボーカルを抽出するところからやってますから、大変でした(笑)。『Ableton』って、メインバージョンとインストバージョンを掛け合わせたらアカペラが取り出せるんですけど、そうじゃないやり方を最近見つけて。マニアックな話なんですけど、ボコーダーを利用した方法で、立体物から一部を抜き取るようなことをするわけなんですけど、その抜き取る鋳型に、自分の歌声が必要なんです。元の歌と音程が合っていないといけないから、家で大声で宇多田ヒカルを歌うということをしてました(笑)。

—それで抽出できるわけですか。前者のやり方では不満があった?

TOYOMU:そうですね、限界があるので。ボコーダーの方法も、綺麗に抜き取れるわけではないんですけど。

—アルバム単位のリミックスをするのはなぜ?

TOYOMU:だって、曲単位じゃみんな聴いてくれないじゃないですか。それだけの話ですよ。埋もれてしまうんで。埋もれないためには、ということはずっと考えているんで。

—リミックスワークと、今回リリースしたアルバム『ZEKKEI』に入っている自作曲とは、なにか制作上で意識が異なりますか。

TOYOMU:それ、色々な人に聞かれて考えていたんですけど、自分の考えが入っているかどうかの違いだと思いますね。リミックスの『印象』シリーズは、僕がやってみたい手法を試しているだけなんですよ。自分の考えとかはない。『ZEKKEI』は、(自分の考えが)入っているから、そこは大きく違う。あとは、発売できるかどうか。リミックスは、月に一度何か出そうと決めて出していた一環でもありますし。

—習作のような感じですか。

TOYOMU:そうかもしれないですね。習作、トレーニングに近い感じ。

ー『ZEKKEI』では、先ほどおっしゃっていたフリーハンドで描けたような手応えはありましたか。

TOYOMU:何かを参照しているところがあるので、完全にはまだですね。でもそこはプロセスを経たら。定型を死ぬほどやった身としては、もう新しいものを目指さないと、自分も楽しくないし。

—今後、客演でラッパーとかボーカリストを入れる構想は。

TOYOMU:シンガーが一番あるかもしれないですね。ラップは、言葉に意味がありすぎるから。言語を聴覚化したものを作っているつもりなので、それを感じ取ってもらいたいから。その上で、くどくならないなら、ラップも入れてみたいですね。スケッチの段階で必要を感じれば、ですね。

—ちなみに、バンドの経験もあるんですか。

TOYOMU:サンプラー担当として入っていたことはありましたけど、それくらい。WONKの、上ものがサンプラーなサウンドって感じのバンドで。WONKっぽいって、おこがましいですけど(笑)。

—なるほど。ディアンジェロとか好きな感じ。

TOYOMU:うん。J・ディラ好き、みたいな。

—今はバイトもしている?

TOYOMU:してますよ。レンタルビデオ屋で。初めてMPCを12回払いで買ったときからやってますから、目をつむってても仕事はできます(笑)。

—あれってスタッフはCDは無料で借りられたりもするんですか。

TOYOMU:何年か前に直営店になってしまったから、今は無理なんですよ。昔は大丈夫だったんで、日本語ラップやジャズを借りまくり。R&BとかWarp Records系も、そのころに。

—『The Palace』のMVが、ちょっとAphex Twinの『On』のビデオを彷彿とさせるなと思ったんですが。

TOYOMU:そうなんですか。僕そういうの言われても分からないんですけど、そう言われて後から聴くのがすごく面白い。Aphex Twinもそんなには通っていないんですよ。とはいえ、たくさん聴いていれば引き出しは増えるので。

—今年聴いた新譜で、良かったものをいくつか教えてほしいのですが。

TOYOMU:Seihoさんの『Collapse』も良かったし、あとはMETAFIVEがすごく良かったなあ。

—METAFIVEのチョイスは少し意外です。

TOYOMU:僕、YMOに目覚めたのが去年で(笑)。めっちゃ上手い!って(笑)。段々、音楽全体を好きになってきたというか。昔だったらYMOですら、モンドな電子音楽のサンプリングソースとしてしか聴けなかったと思う。

―ネタとして使えるかどうかの視点しかなかった。

TOYOMU:それが、フィジカルな演奏のすごさに耳が行くようになった。細野晴臣さんがジャクソン5の『I want you back』のベースラインの話をしているのを読んで、『同じフレーズがいっぱい出てくるし、ベースの音でかい!』って。ループ素材としてじゃなくて、音楽的に聴けるようになった。

―制作も、ハーモニーや旋律の構造を意識して作るようになった?

TOYOMU:『The Palace』なんかまさにそうで。音楽を作ることの入口って、本当はここからだと思うんですけど、完全に逆の道を辿って、逆流してやっと入口に辿り着いた。

―サンプリングから始めると、どうしてもそうなるところはありますよね。

TOYOMU:サンプリングの感覚でそのまま行ってもいいんですけども。Towa Teiさんが言っていたんですけど、「僕は特殊音楽家でいいや」と。流行を追うよりは、自分の好きな音楽を作ったほうが楽しいやってことに気付かれたと。それにすごく共感しましたね。音楽を作るってどういうことかっていうことを考えるというか。METAFIVEを聴いていたのは、メンバー全員がジャンルを考えないで作ってきた人しかいないからなんですよね。

―個性がぶつかり合う音楽、というものではないですよね。

TOYOMU:そう。良い音楽を作ろうということが根本にある人たちが、メジャーでやっているというのが、嬉しかったというか。

おすすめ
    関連情報
    関連情報
    広告