情熱を持っている裏方の数で、山の高さが決まる
柳樂光隆
3人はある比較対象を置くことで、日本の「音楽文化」の欠陥部を洗い出していた。それは「アメリカ」だ。
柳樂は、ニューヨークにおけるアンダーグラウンドな音楽の扱いに着目する。
「マンハッタンにあるニュースクール大学にはジョン・ゾーン(前衛ジャズ奏者)が運営していたクラブが入っていたのですが、格安料金で一流のジャズライブが見られるんですよ。そのように、ニューヨークの商業ベースに乗らない音楽を学校が保存していくという文化は、割と積み上げられています」。
さらに若林はブルックリンの音楽ホール ナショナル・ソーダストを例に挙げ、次のように続けた。
「2015年に倉庫を改造して造られたナショナル・ソーダストは、音楽家のためのキュレーションセンターで、ジョン・ゾーンや坂本龍一、ラフトレードの社長といった、ジャンルを越えた音楽家たちが行き来していて、実験と探求の場として使用されているんですね。元々、現代音楽家のために作られた施設なんですけど。商業にのらないような音楽を守っていく風潮は、確かにあるんですよ」。
若林恵
東京の現状を省みるに、羨ましい話だ。東京では騒音問題などの課題が多く、どうしても会場は地下や人口の少ない埋立地に限定されてしまう。また、2016年に風営法が改正されたのは良いものの、最近は立地規制によってクラブやバーが摘発される事案が多発している。
音楽が生まれる現場を守っていくために、何が必要なのか。鍵を握るのは、音楽に情熱を注ぐビジネスのスペシャリストの存在だ。
「ナショナル・ソーダストのファンディングが成立できた背景には、不動産開発のプロフェッショナルの存在が大きかった」と、若林は指摘する。
ナショナル・ソーダストの発起人である、ケビン・ドランは税金のスペシャリストで、税にまつわる著書も発表している。施設を設立する上で、彼は複雑な集金システムを開発し、5年間で16億円の調達を成し遂げたのだ。
「商業的でない音楽を守っていくためには、お金を集め、ビジネスのプロフェッショナルが必ず周りにいるんです。音楽やカルチャーの発展には、圧倒的な情熱を持っている裏方の数で、山の高さが決まるところはあると思う」。