インタビュー:The fin.

イギリスでの共同生活がバンドにもたらしたもの

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インタビュー:小田部仁/構成:多田愛美
撮影:谷川慶典

2016年9月にイギリスに拠点を移し、日本というフィールドに留まらずグローバルに活動を続ける3人組ロックバンド The fin.。今年3月には約3年ぶりのセカンドアルバム『There』をリリースした。フロントマンのYuto Uchino(Vo./Syn.)の手によってひとりで作られたという本作は、水面のような静謐さと胸の奥底に潜む熱い気持ちを揺り動かすようなグルーヴが同居する、グローバルスタンダードなポップアルバムだ。

彼らの2018年の夏は、ロンドンでワンマン公演を行った後、 7月にはウランバートルで開催された音楽フェス『Playtime Festival 2018』に出演、次いで8月には『SUMMER SONIC FESTIVAL 2018』で凱旋帰国を飾るなど、引っ張りだこの状況だった。世界中を飛び回り成長してきた彼らは自らのアイデンティティをどこに置いているのか。今という時代をどのように捉えているのか。メンバーのYuto Uchino、Kaoru Nakazawa(Ba.)、Ryosuke Odagaki(Gt.)の3人に話を聞いた。

東京いてもロンドンいても、どこいても一緒

—みなさんはイギリスのどこに住んでいるのですか。

Yuto Uchino(以下Yuto):ケントっていう、 イギリスの東の方に住んでます。  

—みなさん、元々のご出身は関西で、東京やイギリスに拠点があったわけじゃないわけですよ ね。

Yuto:そうですね。俺ら、みんな宝塚の出身なんですよ。

—1年のうち、どれぐらい日本とイギリスを行き来しているんですか。

Yuto:ほとんどロンドンですね。ライブをしに、こっちに帰ってくるみたいな。あと、3ヶ月に1回、ビザの関係で帰ってこなきゃいけなくて。

—やっぱり、拠点は東京ですか?

Yuto:いや、茨城に一軒家を借りて。  

—ケントもロンドンの郊外ですが、なぜ郊外を拠点として選ぶのですか。

Yuto:とにかく家が大きいところがいいんですよ。家の中で全部完結させるっていう制作環境にしてて。ドラムも全部組んで、マイクも立てて、レコ ーディング機材も全部置いて、リハも録音も全部できるように。だから、必然的に郊外にならざるを得ない。  

そうやってレコーディングしてる人たち、イギリスは割と多いらしくて。みんなで住んで、毎日音楽するのってやっぱり楽しいし。

—ずっと頻繁に移動しているわけですが、どこが一番しっくりきましたか。

Kaoru Nakazawa(以下Kaoru):どこだろうなぁ... 移動すること自体に慣れちゃってて、どこにいてもある程度いたら馴染んじゃうんですよね、最近は。

Yuto:そうだね。逆にホームがないっていうか...ホームって俺にとってはもう、宝塚だけやねんな。宝塚に帰っても、それはそれでアウトサイダー感はあるし。正直、宝塚いても東京いてもロンドンいても、どこいても一緒みたいな。でも、ロンドンは音楽に集中できる感じあるよね。まだ、友達も少ないし。

—外的な影響が少ないから、自分たちの音楽に集中できる。

Yuto:自分は自分、他人は他人みたいなマイペース感が俺らに合っている気がします。東京に2年ぐらい住んでたこともあったんですけど、東京っていう街やそこで生きている自分たちのことを客観的に見えなくなってきちゃって。やっぱりそこから出ると、冷静に見れる。だから、郊外とか外国が合ってるのかも。

プロフェッショナルとしても接しながら友達でもいられる

—今回のアルバム、すごく判断に困るところもあって。というのは、あまりにも独自の音楽すぎるから。「トラップ...っぽいかな?」「このチル感は...?」とか、つかめないところがある。

Yuto:あぁ、確かに。それは言われるかもですね。

Nakazawa:俺はレコーディングには参加してないから、ライブで弾いていて思ったことを言うと、やっぱりYutoの中に眠る多様性の表れなんじゃないかなって思いますね。

セカンドアルバム『There』収録

Ryosuke Odagaki(以下、Ryosuke):イギリス行ってから、 共同生活も始まったし。みんなの距離が近くなったから、僕は音楽面ですごく2人から影響を受けてるんです。例えば、誰かがアルバムを流してたらそれを一緒に聴いたりとか。話をすることも増えたので、その共有ってところも今回のアルバムには影響を与えてるのかなって思いますね。

—バンドとしてはレベルは上がった感じします?

Yuto:アメリカにSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)で行った時に気づいたことがあって。ツアー自体は良かったんですけど、このままじゃアメリカでは成功せんやろうなっていう感覚を感じたんです。ソングライティングをレベルアップしなきゃなって。それから、あまりバンドに遠慮しない曲作りをするようになったんですよ。

そうすると、バンドが曲を演奏できないという事態になって。ほんまにどん詰まりまで追い込まれたんですけど。それで、ベースが抜けたんです。パートチェンジして、新たにドラマーも迎えたりしたことで空気が変わったんです。ベースもはげるぐらいまで本当にずっと練習してて。それも本当に最近で、2018年に入ってからですけどね。

—やっとバンドと自分がやりたい曲の距離が縮まってきたわけですね。

Yuto:お互い一緒に住み始めて1年半ぐらいかな?それぐらいかけて、ようやくお互いの音楽に対する姿勢とか費やしている時間を目の当たりにして、関係性が変わってきたんですよ。俺らはもともと幼馴染の友達同士なんで、やっぱり東京にいたときは遠慮してたんですよね。でも、一緒に住むことによってより関係性が密になって、プロフェッショナルとしても接しながら友達でもいられるみたいな、次のステージにいけてんな。

—次のアルバムが楽しみになってきました。

Yuto:確かに、次ですね。でも、バンドが今良い状態にあるって空気感は、この作品にも影響していると思いますよ。俺、突っ走っちゃうところがあるから、それがバンドの推進力になってるのかなって思うことも多くて。この2人は、突っ走らせてくれるんですよ。だから、安心できる。 東京にいたときは、「よくわかんないけど気づいたらここにいた」みたいな状況が多かったんですけど。今はその過程も見えてる。

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