SEKITOVA君は楽器的な縛りからすごく自由
都内某所の自宅兼スタジオにて
ーこのテレビは、いつも無音で『アニマル・プラネット』を映したままにしているんですか。
寺田創一:結構『アニマル・プラネット』とか『ディスカバリーチャンネル』を無音で流しっぱなしにしていることが多い。たまに音も出すけど(笑)。
ー寺田さんの柄シャツは、今回の『Sounds from the Far East』のジャケットで着ているものと同じものですか。
寺田:この写真のとき着ていたシャツはあまりにも気に入ってたくさん着過ぎてダメになってしまって、知らないうちに捨ててしまっていたんですね。でも、同じ時代に買った90年代のシャツがまだほかにも残っていたので、ライブのときはそれを着ているんです。
ーそれはハウスセットのときだけですか。
寺田:そう。今回のハウスセットのパフォーマンスをするきっかけになったのは、Rush Hourのマークと「昔の機材を使ってライブをしたら面白いんじゃないか」という話をしたことがあって。
ー『Sounds from the Far East』リリース前の話ですか。
寺田:リリースの2ヶ月くらい前かな。最初は全部昔の機材でやったら面白いんじゃないかと言っていたのですが、そうするとあまりにも不安定で、セッティングするともう絶対にそこから動かせないという状態になってしまうので、最終的にはある程度昔の機材と今の機材を混ぜてやることに決まったんですが。それで、服装も当時のものと同じにしたら良いんじゃないかということで(笑)。
ー今年初めてステージを拝見したときは、ジャケット写真と同じだと思って興奮しました。機材は、具体的に何がどう置き換わったのですか。
寺田:このハウスセットでやっているのは、音源は昔とまったく同じ物です。しかし、当時のようにハードウェアサンプラーから連続して出力しようと思うと飛行機では持ち運べない量の機材になってしまうんですね。しかも、それをセッティングする場所をクラブやライブハウスで確保するのは不可能なので、今回はその音源をオーディオ化してそれをラップトップに仕込んでいます。手で鍵盤を弾く部分などはハードウェアサンプラーを使っているというかたちです。
ー確かに、今年は国内のライブと、ヨーロッパツアーもやってらっしゃいましたね。
寺田:そうですね。最初、2015年10月に1度アムステルダムへ行って、再度11月にパリ、ロンドン、ベルリンの3ヶ所に行きました。すべてRush Hour関連のイベントで。完全に当時の機材でやれたら面白いとは思いますが、膨大な量の機材をセッティングしなくてはいけないですからね……。今はオーディオが簡単に動かせるようになりましたから、制作でもハードウェアのシンセサイザーを使わないで作ることもありますよ。
ーなるほど。10月に発表された寺田さんとSEKITOVAさんで森高千里さんをフィーチャーしたミニアルバム『百見顔(Hyamikao)/Foetus Traum』では、どんなスタイルで制作されたのですか。
寺田:この企画では本当に90年代に自分が使っていた機材をたくさん使って作りました。
ーそうしたクラシカルなハウスのスタイルで作曲するのはかなり久しぶりではなかったですか。
寺田:そう。キーボードとかはコントローラーとして今でも使っているけど、音源として使うのは久しぶりだったり、長らく電源が入っていなかったラックにスイッチを入れたり。
ーこのコラボレーションはどういったコンセプトだったのですか。
寺田:森高千里さんのシニアマネージャーの方がテックハウスなどが好きな方で、その方と『WASABEAT』(クラブミュージック専門の配信サイト)の間で生まれた企画だったんです。もともとは森高さんのセルフカバー企画に関連したリミックスの制作ということだったんですが、歌の素材を組み替えて新しいメロディーができたから、新しい曲になったという感じです。
ー昔の曲の歌声を再構築して新しい曲にしたということですか。
寺田:そうですね。
ー最初にSEKITOVAさんの『Foetus Traum』を聴いたときはどんな印象でしたか。
寺田:SEKITOVA君の曲は、非常にテックな作りになっていて、音の組み合わせ自体が曲の特徴みたいになっているから、その組み合わせを変えると、その曲じゃなくなっちゃうなと思って。だから、SEKITOVA君の曲よりも、森高さんの声にフォーカスしたリミックスを最初に作ったんですよ。でも、企画のコンセプトとしては「Feat. Chisato Moritaka」ですから、SEKITOVA君の曲にフォーカスしたものを作らなくては、ということで再度、SEKITOVA君の方を向いたトラックを作ったんです。初めに作った森高さんの方を向いた曲は別でリリースがあるみたいなんですけど。
ーSEKITOVAさんはとても若い世代のトラックメーカーで、非常に現代的な感覚に溢れていると思うのですが、実際に彼の作品をリミックスしてみて、いかがでしたか。
寺田:なんかね、すごく新鮮で……。自分はどうしても楽器っぽいアプローチになってしまうというか。和音とか、昔からある規則に縛られている部分があるんですが、彼は多分そういうところからすごく自由。普通の楽器的な感覚だとあり得ないピッチでベースが鳴っていたりするんだけど、それがものすごくトランシーな雰囲気を出していたりとか。あと、別々のパートの音が組み合わさってコードになっていたりとか、音の組み立て方がめちゃくちゃ繊細。あの、木を組み合わせて少しずつ抜いていく……。
ー『ジェンガ』のような。
寺田:そう。崩れる一手前の『ジェンガ』みたいな作りになっているので、それがすごく新鮮。曲として聴くと不思議なんだけど、リミックスで素材をバラバラにもらって聴いてみると、こんな風に鳴っているんだ!と。だから、初めは彼の曲はこれ以上いじれないと思ったんだけど、よくよく聴いてみると、彼の曲にも楽器的なアプローチしている部分が所々あって、それを探し出してやってみた感じですね。