ポラリス
Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

誰もが家族のように過ごせる場所へ、神田「ポラリス」の旅は続く

バリアフリーなライブハウスの原点は?

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小川町、淡路町、新御茶ノ水など、神保町エリアのどの駅からも近く、アクセスが良いライブハウスの神田「ポラリス(POLARIS)」。2018年にグッドデザイン賞を受賞したビルの1階で、バリアフリーかつガラス張りで、開放感あふれる空間が魅力的だ。キャパシティーは着席で45人、スタンディングで70人。夜になると暖色系の明かりが漏れ、浮かび上がるような温もりのある店内で、運営代表のかとうみほにインタビューした。

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音楽に救われた青春時代、東日本大震災をきっかけにイベント開催

ー音楽の仕事に携わろうと思ったきっかけは何でしたか?

中学・高校と吹奏楽部でトランペットとホルンをやっていたのですが、高校の部活の顧問が、指揮に加えて作曲もする人でした。良いソロが取れたときなどにこちらを見てほほ笑んでくれたんです。教室にはあまり馴染めなかったのですが、音楽では認めてもらえたと感じたのが今も携わっている原点かもしれません。

大学ではバンドをやったり、レンタルレコード店でイギリスのインディーロックの仕入れをしたりしていました。卒業後は、CDのジャケットをデザインする会社で国内盤独自のジャケットの制作を担当していたのですが、27歳の時に病気になり、以前のように働けなくなってしまったんです。

その時、音楽という支えにずっと救われてきたと改めて思い、現役ミュージシャンを当て書きした映画のシナリオを書きました。それがきっかけで少しだけ元気になり、ライブに遊びに行くようになったのです。

しかし、その直後に東日本大震災が起きてしまいました。私は福島県相馬市の出身なのですが、縁があって和合亮一さん、遠藤ミチロウさん、大友良英さんによる「プロジェクトFUKUSHIMA!」を手伝うようになり、翌年の2012年に吉祥寺で、「福島」の名前を付けた相馬市へのドネーションイベントを主宰しました。

その後もイベントを続けていたのですが、音楽とは分けたいという考えのミュージシャンがいたこともあり、熟慮の結果、2015年から純粋な音楽イベント「にじのほし」としてリスタートしたのです。同時期に音楽制作事務所でマネジメントの仕事をしていたのですが、イベントとの両立が難しく、2017年からは介護の仕事に携わるようになりました。

ー神田という場所を選んだのはなぜでしょうか? ライブハウスを始めた経緯も教えてください。

コロナ禍で、下北沢の「440(four forty)」というライブハウスで「にじのつき」というイベントを開催していたのですが、延期や中止になったり、無観客配信で苦労したのです。ありがたいことに、灰野敬二さんはこんな時だからこそと定期的に出演してくれていたのですが、自分の拠点を持つべきかな、と考えるきっかけになりました。

はじめは下北沢や恵比寿、渋谷で探していましたが、なかなかいい物件に巡り合えず、不動産会社の方に神田のこの建物を紹介していただきました。元々馴染みがあったわけではなく、この場所があったから神田にしたという感じですね。オープンから4年間空いていた場所で、オーナーに趣旨などを気に入ってもらえ、入居できました。地下のような閉鎖的な空間でなかったことも気に入っています。

介護の仕事で同世代の脳性まひの方と仲良くなったのですが、車椅子だと行けるところが本当に少ないんですよ。ヘルパーさんはもちろん必須ですし、病院に行くにも介護タクシーの手配が必要なことが多い。

そんな彼女から、かとうさんのやるイベントに行ってみたいんだけど難しいと言われたんです。だからライブハウスを始める時には、絶対に彼女が来られる場所にしようと思いました。周辺の駅はエレベーターがあり、また、この建物の入り口には段差がなく、ヘルパーさんさえいれば介護タクシーなしでも来られるようになっています。

今は準備中なのですが、多目的トイレも設置予定です。Peatixでチケットを販売しているのですが、障害者手帳をお持ちの方はエントランスで見せていただけたらチケット代が半額になるよう設定しています。

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こけら落としはバンドのPolarisが出演

ーオープニング公演はバンドのPolarisでした。内橋和久、山本精一などアバンギャルドな音楽家も出演している印象です。ブッキングのこだわりや傾向はあるのでしょうか?

元々、Polarisのオオヤユウスケさんとは440(four forty)で知り合い、「ポラリス」というライブハウスを始めることを伝え、こけら落とし公演にお誘いしたところ快諾していただけました。店名には、「音楽で旅をするミュージシャンが帰る場所になるように」と、願いを込めています。

私自身の好みや、主宰していたイベントに即興音楽家が出演してくれていたこともあり、アバンギャルドな音楽をやっている人によく出演していただいているんです。私以外にもう一人、即興音楽家に知り合いが多いブッカーがいて、またPAは灰野敬二さんのアシスタントをしている人なのですが、ブッキングもしてくれています。

元々二重ガラスの建物ではあるのですが、音量の大きいバンドは難しく、即興音楽家とシンガーソングライターの2本の軸でやっていこうと思っていますね。六本木の「スーパー・デラックス(SuperDeluxe)」へよく遊びにいっていたのですが、スーパー・デラックスと、下北沢「SPREAD」の中間くらいを目指せたらと考えています。

ー今後の展望をお聞かせください。

いろいろな立場の人が来て、交流できるような場所になったらと思っています。「ここに来たら誰かがいる」と、まるで自分の家のように感じてくれたら。気軽に訪れることができるような、誰もがいていい場所にしたいです。

音楽に関しては、毎公演アーカイブを撮っていて、ミュージックマインという制作会社と協力してサブスクリプション配信のシステムを整えようと考えています。ライブ以外に、トークショーなども開催していますね。キッチン周りが出来上がったらランチ営業、ライブがない日にはバー営業を始める予定で、定期的に野菜市を開催しているのですが、周辺にお住まいの方が遊びに来てくれるようになりました。

また、ビルの2階は障がいのある方が働いているカフェなのですが、そこのコーヒーがとてもおいしいんです。ビルのオーナーにも建物内で循環するイベントができたらと言われているので、それも進められたらと思っています。

ガラス張りで、隠そうと思っても何も隠せない空間です。私自身もヘルプマークを付けていて、ヘルパーの資格を持っているので、お困りのことがあれば声をかけてくれたら。何でも見せて、気軽に入ってこられるような空間になることを願っています。

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ライブハウスというと入りづらいと思っている人も多いかもしれないが、外からでも中の様子がよく分かるポラリスは、たまたま通りかかった人がふらっと入れるような空間だ。即興演奏や音楽家たちによるセッションなども、予備知識がなくても飛び込めるようなボーダーの低さがここにはある。誰にでもオープンな、音楽への愛が詰まった場所を訪れてみては。

もっと踊りたいなら......

  • 音楽

真冬でも、身も心も温まるようなパーティーが東京には揃っている。吉祥寺のDJバー「バー チーキー」や下北沢「SPREAD」、フランス発のバンド、フェニックスの来日公演まで。小箱の濃密な夜も、大箱での圧巻の演奏のどちらも捨て難い。

豪華ゲストが発表されたSANABAGUN.の結成10周年記念ライブも必見。2023年の野外フェスのラインアップも徐々に発表されはじめているが、まずは目前に迫ったイベントに足を運ぼう。

  • 音楽

店頭で音楽を探す醍醐味(だいごみ)。それは、不意の導きや出会いがあふれていることだ。たまたま手に取ったジャケット、その時かかっていた新譜、店員との雑談から出てきた一枚など。スマホアプリのアルゴリズムが導く出会いとは異なる、不意の感動がそこにはある。

東京は世界でも有数の巨大なレコードコレクションを抱えた街であり、渋谷下北沢といったレコードショップ密集地帯だけでなく、各所に優れた店が点在している。本記事では、ビギナーでも楽しめる店からプロ御用達の店まで、さまざまなスタイルのレコードショップを紹介する。

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  • ナイトライフ

多種多様な人が集まる東京の夜は、たくさんの選択肢がある。ふと、いい音楽を聴きながら酒を愉しみたいと思った日には、DJバーに行こう。どんな夜を過ごしたいかは人それぞれ。特集では平日もDJがターンテーブルに盤を乗せ、オーディエンスを盛り上げている店や、店主が密かにセレクトする音楽とともにしっとりと飲める店など、渋谷界隈の名店を紹介する。

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