1990年代と2050年代を合わせたような感じ
ー新作『ガーデン・オブ・デリート』について主観的な感想なのですが、前作の時と今作とでは、あなた個人と音楽の関係、そしてあなたと外の世界の関係性が変化したのではないかという印象がありました。
うん。
ーそれはどのような変化ですか。
嫌悪感やイラつきを感じていて、前回のアルバムで感じられたような満足感が感じられなくなっていた。内側から感じられる悲しみが大きかった。自分の人生において、何か悲劇が起こったということではなく、自分の世界に対する見方がハッピーなものではなかった。
ー前作『アール・プラス・セブン(R Plus Seven)』はナラティブな作品だと思ったのですが、前作と今作は背景やコンセプトに根本的な違いがあるのでしょうか。
前作はナラティブな作品だとは思わない。前作は、アイデアを紡いだタペストリーというか、特定の手順を用いて作成した叙情的なアイデアや詩のような作品だった。奇妙で抽象的なアルバムで、フォーム(形)がポイントだった。アルバムの影響となったのは次の2点。
ひとつは、ペレックやその他フランスの手順を重視する詩人たちの作風のような「ウリポー式」の作曲方法。そしてもうひとつは、彫刻。当時はネイト・ボイスが最も彫刻作品を作っていた時期だったから。最近はまたビデオに集中しているけれど、当時、僕は彫刻とその歴史、特に抽象的な彫刻に困惑し、強く魅了された。だからアルバム制作にも自然と影響を与えるようになった。
だが、今回のアルバムにはそういったインプットはなく、自分の生活における状況がアルバムの影響になった。ひとつは、スタジオを牢獄のような地下の部屋に移したこと。もうひとつ大きな影響となったのは、ナイン・インチ・ネイルズとサウンドガーデンとツアーをしたことだ。それは僕にとても深く影響した。ギター音楽や子供時代の音楽について考えるようになった。自分なりのオルタナティブロックアルバムを作りたいと思うようになった。
結果としてできたのは、未来的なインダストリアルアルバムだと思う。だから今回は、より音楽やポップミュージックに回帰した作品で、アイデアも音楽から由来するものが多く、それ以外のものから影響を受けたというのではない。
—あなたがサウンドガーデンとツアーをしていたのは知りませんでしたが、このアルバムを聴いたときに、サウンドガーデンっぽいな、と思っていました。タイトルに「ガーデン」と付いているということもありますが。
それは面白いね(笑)。そうなんだ。サウンドガーデンみたいな、グランジーなギターリフっぽい音や、90年代っぽい音が時に聴こえるようにした。1990年代と2050年代を合わせたような感じ。
ー『Mutant Standard』はエネルギッシュで、聴いていて走り出したい衝動に駆られました。こういう曲は今まで書いてこなかったのではないでしょうか。
確かにない。それは正しい観測だ。『Mutant Standard』は、『160』というタイトルがしばらく付けられていた。BPMが160だったから。BPM160はかなり速い方で、自分でもそんなに速い曲を作ったことに驚いた。でも、速い曲を作りたいと思っていた。僕は、眠たくなるような、憂鬱な音楽を作る人という評判があるけれど、それは少し誤解だと思う。僕の音楽は、それより複雑だと思う。でも、特にビートがない曲は、眠そうで内省的に聴こえるときもある。そこで、典型的なドラムの使用方法以外で、リズムやシンコペーションを表現できるかというのをやってみたかった。この曲は、リズム、動きがポイントで、ドラムサウンドから起因していない、リズミカルな瞬間を用い、結果として催眠作用が引き起こせるかということを探求した。