更新される民の歌とリズム

インタビュー:民謡クルセイダーズ

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Text by 大石始

日本における民謡とは、日々の労働のなかで歌われるワークソングであると同時に、地域の風土のなかで育まれてきた民族音楽であり、芸者たちが芸を披露するお座敷の場で楽しまれるパーティーソングでもあった。その一方で、レコード産業黎明期からジャズやラテン音楽といった外来文化とも結合し、一種の流行歌として地域コミュニティを超えて愛聴されるようにもなった。

レゲエやサルサがある地域の土着リズムから発展して世界的に聞かれるようになったように、日本の民謡もまた、もしかしたら現在とは違う発展を成し遂げていたかもしれない―。そんな「もしも」を形にし、現在注目を集めているバンドが、民謡クルセイダーズだ。クンビアやブーガルーなど世界各地のリズムを用いながら、日本各地の民謡をカバーするそのスタイルは唯一無二。2017年12月にリリースされたファースト・アルバム『エコーズ・オブ・ジャパン』も話題を集めている。リーダーの田中克海(ギター)、フレディ塚本(ヴォーカル)の2人にインタビューを行った。

自分が触れていた音楽とは明らかに違いました

―おふたりが民謡に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

フレディ:僕の場合は弾みです(笑)。それまではジャズを歌っていたんですけど、日本語みたいに英語を喋ることもできないし、英語詞を歌うことにどこか違和感があって。そんなとき、たまたま入った蕎麦屋で流れていたテレビ番組で民謡がかかっていたんですよ。自分は愛媛出身なんですけど、ちょうど(愛媛県民謡である)『伊予万歳』がかかっていたんですね。それがものすごい歌で、「うわっ、すごい。これだ!」と思いました。それが27、8年前だと思います。

―その体験の直後に民謡を習い始めたそうですね。

フレディ:そうですね。その蕎麦屋の裏に民謡教室をやっている先生がいて、そこに習いにいったんですよ。蕎麦屋のおばちゃんから『昨日から民謡教室を始めたみたいよ』って聞いて(笑)。それまで自分が触れていた音楽とは明らかに違いましたね。日本全国の歌があって、歌うと脳裏に景色が浮かぶ。教室に通ってる生徒さんも『秋田大黒舞』なんかをすごく格好よく歌ってるし、どんどんのめり込んでいったんです。

―民謡の歌唱法は、それまでフレディさんが歌っていたジャズとはあきらかに違うものですよね。

フレディ:最初はなかなかコブシをひと回しする勇気がないんですよ。河原でずっと練習しているうちに、自然とコブシを回せるようになりました。演歌とはまた違う響かせ方なので、やり続けるなかで体得するしかないんです。遠くに響かせる声の出し方なんですよ、民謡って。

フレディ塚本

自分にとって一番アウェイな音楽を面白くできるんじゃないか

―田中さんと民謡の出会いは?

田中:民謡は自分にとって一番聴かない類(たぐい)のものだったんですよ。それまでは洋楽指向だったので、避けていたぐらい。きっかけとしては、江利チエミ(※1)の『奴さん』(1960年作『チエミのムード民謡 第3集』収録)。あの曲はジャズバンドアレンジで、なおかつギターが効いているんですよね。

あれで(民謡を)エキゾチックな音楽として捉えられるようになったというか、『こういうふうにアレンジすると、民謡も格好良くなるんだな』と思って。同じころに細野(晴臣)さんの『泰安洋行』(1976年)も聴いていて、エキゾチックな音楽に対する関心が、自分のなかで高まっていたことも影響してると思います。

※1江利チエミ/昭和を代表する大歌手。1958年から1963年にかけて5枚の民謡カヴァー集を出しており、東京キューバン・ボーイズやシャープス&フラッツなどのビッグバンドがバックを務めている。『奴さん』のアレンジは中村八大によるもの。

―民謡に対する民謡クルセイダーズのアプローチって、たとえばハワイの日系人による民謡のアプローチであるとか、戦後間もなくの時期に進駐軍がカヴァーした盆踊り歌であるとか、民謡をルーツとしていない外国人/日系人の視点が意識的に取り入れているような感じもありますよね。

田中:そこもありますね。視点や角度を変えることによって、自分にとって一番アウェイな音楽を面白くできるんじゃないかと思ったんですよ。

―でも、面白いものですよね。だって、日本人なのに民謡が一番アウェイな音楽って。

田中:そうなんですよね(笑)。僕らはいろんな国のルーツミュージックが大好きで、その土地の文化や踊りも愛してるんですけど、自分の土地のルーツに関してはまったく知らなかった。自分のなかでそのことに対する違和感も多少あったし、レゲエやスカのような感覚で形にできないんだろうか?という思いはあったんですね、以前から。

―結成は2012年ですよね。メンバーは今とだいぶ違うようですが、田中さんにとってはフレディさんありきの結成だった?

田中:そうですね。自分がやっていたブルースバンドの後期には、江利チエミやこれ(林伊佐緒の1963年作『林伊佐緒のジャズ民謡集』)などを参考にした日本語詞のものもやろうとしていたんですけど、結局バンドが終わることになって、次に何をやろうか考えていたんです。そのときにフレディさんのことを思い出して。

*林伊佐緒/1912年生まれの歌手。1950年代半ばに『日本民謡ジャズ・シリーズ』を発表。なかでも1954年にリリースした『真室川ブギ』は大ヒット曲となった。

―林伊佐緒は民謡クルセイダーズのまさに元ネタという感じがしますね。『真室川ブギ』『串本マンボ』『八木節ブギ』なんて、そのまま民謡クルセイダーズでやってもいいぐらい。

田中:林伊佐緒はすごく重要ですね。最初はSPで買ったのかな。すごくキテレツで無茶しているなと思って(笑)。実際、民謡クルセイダーズでも、最初に『真室川ブギ』と『串本マンボ』をやってみようというところから始まったんですよ。

田中克海

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民謡を『民の歌』に戻したい

―1950年代以降、民謡をもとにしたユニークなミクスチャーがたくさん世に出ましたよね。特にジャズやラテンとのクロスオーバーが多かった。

田中:そもそも当時は民謡が今と比べ物にならないくらい流行っていて、東京にもそこいら中に民謡教室があったことが大きいですよね。

フレディ:すごかったみたいですよ。ひとつの会に何百人も所属していたぐらい。プロの歌がラジオで頻繁に流れていたし、(民謡がより)日常に近かったんでしょうね。

田中:親戚が集まるとおじいちゃんが民謡を歌い出すとか、日常的に民謡が歌われる機会も多かったみたいですしね。

―当時は、集団就職で都会に出てきた人たちが故郷を懐かしむ場として、都心部の民謡酒場が賑わっていたということもありますしね。

田中:あと、戦前から洋楽と邦楽のフュージョンはありましたもんね。それまで古臭い民謡だと思っていた戦前の録音なんかも、よく聞くとピアノやヴァイオリン、三味線と太鼓が入った和洋合奏編成で演奏されていたり。

―『東京音頭』なんかまさにそうですよね。

田中:古典と思っていたものでも、当時の人たちにとってはハイカラなものだったりする。流行りもの、一番新しいものとしてクリエイトされていたということがわかると、やっぱり興奮するものがあったんですね。そういうものを今の感覚でできないかな、というところから民謡クルセイダーズは始まったんです。

―フレディさんは、どういう思いで民謡クルセイダーズをやっているのですか。

フレディ:民謡を『民の歌』に戻したいんです。今、民謡をやっている人たちって、技術的にすごすぎるんですよ。一般人はなかなか入りにくい世界になってる。

―バカテクギタリストの世界というか。

フレディ:そうそう。それはそれですごいんだけど、自分は小さな子供たちでも鼻歌で歌えるものにしたい。

パーティーミュージックのひとつとして民謡が捉え直されたらいいなと思います

田中:うちらは和楽器のメンバーがいないんですけど、和楽器が入ると、技を見せていく世界に近づいちゃう気がするんですよ。うちらは基本的にパーティーバンドをやりたいんですね。自分たちが遊んできたレゲエやスカのパーティーでかかる音のイメージというか。

―ブーガルーもかかればスカやフレンチ・カリブのビギン、クンビアもかかり、その一部として民謡がかかるという。

田中:そうですね。民謡を各地のダンスミュージックと地続きで踊れる場や空気を作りたいという思いもありました。

―結成当初を思い返すと、現在はライブの動員も飛躍的に増えていますよね。以前はお客さんがどう民謡を楽しんでいいのかわからない感じがありました。

田中:CDの発売で民クルの認知度が上がったので、面白がって演奏できるようになりました。後は、町のお祭りで演奏する機会もあるんですけど、不特定多数の人が来る場所だと、通りすがりのおばちゃんが原曲を知っていたりする。民謡の可能性を感じましたね。

フレディ:懐かしがって涙を流してくれる年配の人がいたりね。これでいいんだ!と思えましたね。

田中:普段はライヴハウスやクラブで演奏するのが中心ですけど、もっともっと普通の盆踊りとかで演奏したいんです。

―それこそさっきフレディさんが言った『民の歌』。

フレディ:そうそう。小さい子が飛び跳ねてくれたりしたらうれしいなあ。

田中:パーティーミュージックのひとつとして民謡が捉え直されたらいいなと思いますね。歌い手ももっと出てきてほしいし。

フレディ:技を聴かせていくものだけじゃなくて、普通の人が生活の中で歌う民謡が増えたらいいですよね。

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