ー2004年のアルバム『merry merry』からはそうしたオーガニックなサウンドからもまた路線が変わっていくわけですけれど、改めて、エゴ・ラッピンの特異なところって、本物志向の先というか、特定のリズムやハーモニーを徹底的に突き詰めるスタイルではないけれど、でも常に色々な世界中の音楽を取り入れいて、というバランスが繊細で。
森:多分、よっちゃんとやってるから、限界がないように思えてくるのかな。例えば、男の気の合う仲間と集まってスカやろうぜ〜みたいな、そういうコンセプトでやれることも楽しいと思うし、僕はそういうバンドも好きだし。でも、よっちゃんとやってるとそういうわけにはいかないんですよ。可能性に目を向けざるを得ないというか。まあ他力本願なんですけど(笑)。
ーでもそれが多分、20年間でバンドが大きく、広がり続けた要因なのかもしれませんね。普通だったら軸がぶれてしまってもおかしくないことをやってるのに、まったくぶれないのはなぜなのか、という。そのバランス感覚はどこから来るものなのでしょう。
中納:でもまぁ自由にとらえてるよな。
森:そう、なんか結構大きく、音楽をおっきくみてますね。多分2人でやる時は、もうちょっと大きい視野で見てやりたいなって。
中納:やっぱり、お客さんに対して開けた考えを持っているのは森くんだと思うし。
ーそうなんですか。それは、楽しませてなんぼみたいな?
中納:というか、バランスとかそういう客観視する視点を持っているのは森くんだと思う。私は割と自分ができる範囲を探すんですけど、それが良いとか悪いとかっていうのはちょっとわからないんですよね。そういうところに光を、よっちゃんこっちちゃう〜?みたいな。そういうのはありますね。
ーじゃあ森さんは音楽的な冒険を試みるのと同時に、ポップな感覚というか。
中納:はい、ポップだと思います。基本的に。
森:そのいいバランスでいきたいっていうのはあります。自分の分かる感じにならんと納得できひんかな。そうなったらやっぱりポップになっていくんかな。
ーなるほど。新しいアーティストの情報とかは、どう仕入れてるんですか。
森:若い子に聞いたり……。
中納:ははは(笑)。
森:The Internetとか教えてもらった。
ーThe Internetは『フジロック』ではご覧になりました?
中納:フジではみられへんかった。
森:きてるな〜こいつらきてるな〜って!あと、ハイエタス・カイヨーテとか。きとるね〜、きとるきとるって。
ー中納さんは、データで音楽を買われたりしますか。
中納:データでは買わない。もっぱらCD。パソコンで音楽聴かないし。
ー聴かないようにしている?
中納:それもあるかもわからないですね。でも家であんまり聴かへんから。車で聴くことが多い。やっぱりパソコンってロー(低音)がもう全然ないから。
森:そうそう、パソコンで聴かれへんもん、音楽。だって聴こえている音と聴こえていない音ありますやん絶対。それはちょっともったいないかなって思っちゃうんですよね。
ー作品をアナログレコードでもリリースするのはなぜですか。
森:やっぱり僕らの音楽ってやっぱりアナログで聴いてもらう方がいいと思いますけどね。単純に。ジャケットもかわいいし。
中納:せやな、ブックレットとか。レコードが削れたりとか針が飛ぶとか。愛着がわきますよね。やっぱり体動かした方がいいんですよね。起き上がってレコードを置く、とか、プレイボタン押す、裏返す、とか。
そういうことっていうのは、今の感じ。昔はそんなん思わんかったけど今改めて大事やなって思いますよね。やっぱデータの世の中になっている中で、余計に。聴き方なんて自由でいいと思うんですけど、提案という意味も込めている部分はあるのかな。
ーなるほど。
森:かっこいいし。レコードって。
ー話題が変わりますが、20年前と今とでお二人を取り囲む環境はかなり変化したと思うのですが、今、活動する上でなにか何かフラストレーションが溜まることってありますか。
中納:あまりの早さについていけない。
一同:(笑)
中納:光の早さ!(笑)肉体がついていかないっていう。普段の生活で。
ー休日はどんなことをされてるんですか。
森:めっちゃ平凡すよ。言えないっすよ平凡すぎて。家でCD聴いたり。
ー『ポケモンGo』はやらない?
中納・森:やらないですね。
中納:あれ、私ほんまに怖いと思うんですけどね。
ーあの光景がですか?
中納:はい。
ーですよね。
中納:でもそういう反応の人と、いやまったく(怖いと思わない)!という人の差があまりにも激しすぎて、なんかそれすらもどういうことなのかなって考えるし。あと、黒と白の間っていうのがどんどん排除されているような気がして。なんかそれも怖い。
ーグレーがない。
中納:そう、グレーがない。グレーはグレーでいいじゃないですか。なんかどんどんこう、二極化していることも怖いと思うし……。非常に。アナログかデジタルかっていうのもね、どっちかになっていることとか。
ー実際はそんな人いないのにってことですよね。
中納:そうそうそう。
ーエゴ・ラッピンの音楽っていうのは、ある意味、非常にグレーの音楽というか。
中納:そうですか?そういってもらえるとなんか。
森:でもまあそうですね。いろんなターニングポイントがあって、オルタナ、ロックステディ、アメリカのトラディショナルな音楽をやったりジャズをやったりフォークやったり。そこからが始まりやっていう感じもあるんですよね。
ーなるほど。20周年記念の大きなイベントとして、11月5日(土)の台湾でのワンマンライブ、そして11月27日(日)の日本武道館公演があり、いずれもソールドアウトとのことですが、台湾のほうは1000人クラスの会場が売り切れというのはすごいですね。
中納:台湾では今、日本のシティポップみたいなのが、めっちゃ流行ってるみたいね。
森:EPOとか。
中納:EPOとか。大瀧詠一さんとか。外国の人からみたら、新鮮に聴こえるのかもわからんね。
森:大上留利子さんなんかも海外での人気はすごいですもんね。レコード買いにくるとか。
ー海外の一部のクラブシーンでも和モノが流行っているらしいですね。
森:うん。で、ジャズとか美空ひばりとかあのへんのサウンドも好きなんですよやっぱり。笠置シヅ子とか。
ーなるほど。中納さんは今年、NHKのドラマや『フジロック』のG&Gオーケストラで笠置シヅ子の『買い物ブギー』を歌っていらっしゃいましたし、外国人が聴けば、エゴ・ラッピンの歌やサウンドは日本のクラシカルなポップスの雰囲気も纏っているのかもしれませんね。