レゲエとかアフロとかに聴こえたりするみたいで
—今回は師匠のスタイルや『和ラダイスガラージ』周辺のお話、海外での和モノレコード人気などについてお話を聞いていきたいと思っています。
珍盤亭娯楽師匠:海外については、ブギーとかディスコとかを狙って、レコードバイヤーにも海外から連絡が来ているみたいですね。国内の話だと、最近は和モノ系のなかでも色々とそれぞれ個性が出てきて、棲み分けができてきた。僕は2015年から2016年にかけて仕事が増えてきたのですが、音頭とか民謡をスキルフルに繋ぐスタイルの人は少ないので、需要があるのかなと。僕自身、DJというものをいったん更地にして、新しく組み立てるつもりで曲を組んだりしているんですよね。あまりDJという意識は持たないようにしています。
—師匠のキャリアとしては、ダンサー時代がありその後ヒップホップDJになられたわけですよね。
珍:役者やっていた時代もあったんですよ。その時には着物を着ていたりしたので、人生色々やってきた集大成が今のスタイルという感じですね。DJだけでなく色々な要素を落とし込んでいる。
—和モノの原体験はどのようなものだったのでしょうか。
珍:洋楽のレアグルーヴ、ソウル、ファンクを聴いていたわけですが、そこから和ジャズに入ったんですね。そこに、昔の民謡アーティストと共演したものとかが結構あるんですよ。三味線とかが混ざっているような。そこから、日本の音楽の世界観にハマっていった。ただ、当時は歌が入るとだめだった。イントロとかブレイク部分を2枚使いで繋いでいる感じでしたね。やっぱりブラックミュージックが最高だ、という世界でやっていたので、先入観で日本語はかっこ良くないなと。馬鹿にしていたというか。
—そこから現在のような歌を聴かせるスタイルに移っていったのはなぜですか。
珍:日本語だから、当然、歌詞の意味が自然と入ってくるじゃないですか。歌われている意味合いとか背景を組み込んだ上で繋げることって、ある意味、本場の『パラダイス・ガラージ』的というか。『和ラダイスガラージ』にはそういうフィーリングがあって。
—『和ラダイスガラージ』は、黒人がソウルを聴いて感じるカタルシスと同じようなものを日本の音楽で味わえるイベントで、その点がとにかく画期的です。
珍:そうなんですよ。それまで僕は音だけしか聴いていなかった。けれど、2年ほど前に『和ラダイスガラージ』に出会って、歌詞の意味とアーティストの背景で繋ぐという、いままでと全然違った、もっと深いところを知った。お客さんも入り込んで聴いている人が多くて、盛り上がり方が尋常じゃない。
—現在のパフォーマンスやダンスを交えたスタイルに行き着いたきっかけは。
珍:あるヒップホップ系のイベントで、盆の時期だったから、盆踊りの曲をかけたことがあったんですね。そうしたら、そのときはどん引きされて。誰も踊らなくて、完全にすべった。みんなはヒップホップっぽい和モノが聴きたかったようなんだけれど、なにこれ?ってなっちゃった。
でも、自分のなかでは音頭とか民謡とか炭坑節って、小さいころから聴いてきたものじゃないですか。音頭を聴いてテンションが上がるのは、誰しも一緒だろうと思ってかけ出したわけです。初めは本当に反応が悪かったけれど、とにかく折れずにかけ続けた。これは誰しもが(テンションが)上がる音楽だし、生まれて初めて聴いたダンスミュージックは音頭かもしれない。そこは確信していたから、マイクで煽ったりダンスも取り入れて、これがひとつのクラブミュージックとして成立するようなセットを作った。この祭セットの完成からがスタートかもしれないですね。
—老若男女が楽しめて、決してマニアックなものではないですよね。
珍:そうなんですよね。音頭で踊るという記憶は、若い人はあまりないかもしれないですが、自由に踊って楽しめばいいんだ、ということを気付かせてくれるというか。
音頭や民謡って、我々日本人にとっては聴き慣れているものですが、海外の人が聴くと、レゲエとかアフロとか、そういうものに聴こえたりするみたいで。Traxmanの来日公演の時なんか、すごかったですよ。外国人がめちゃくちゃ喜んでた。先入観なしで聴くと、アフロとして解釈できちゃったりするみたいで、不思議なんですよ。日本のDJの俚謡山脈とかは、音頭や民謡をローカルな音楽としてではなく、ワールドミュージックとして解釈してやっている感じがありますよ。
—師匠や永田一直さんのやっていることというのは、歌詞についての理解が曖昧なまま洋楽を聴いて踊る我々が底の方で抱えている疑問を晴れさせてくれる、痛快さがあります。
珍:やっぱりかっこいいのは欧米の音楽ですよ。けれど、かっこいいだけじゃない、味の部分だったり。そういうものが和モノにはあると思っています。
—あの、『和ラダイスガラージ』関連のイベントに行くと、笑顔で一心不乱で踊っているお父さんが必ずいますよね。
珍:ケロちゃんですね。50代ですよ彼は。元々は違うジャンルで永田さんを知ったみたいですよ。それで来て、がっつりハマったみたいで、もうめちゃくちゃ踊るんですよ。俺らよりパワフル。
—体感としては、歌詞を理解しながら聴くと肉体的にも消耗しないなと。意味が分かるとこんなに違う体験になるんだっていうのは、みんな目から鱗だと思います。
珍:そうそう。だから、振り付けとかパフォーマンスのある曲も、意味が分かるからお客さんもついてくる。見よう見まねでも、歌詞が分かると流れを感じながら体が動きますよね。