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老舗クラブの自粛期間、2度目の復活

青山蜂がコロナ禍で味わった葛藤、不信、そして今後の課題

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青山にあるクラブ、を取材するのは2度目になる。1度目は、同店が風営法違反(特定遊興飲食店の無許可営業)の疑いで摘発され、2018年1月に営業停止となった後、多くのファンやDJたちからの支援のなかで再開のめどが立ったときだった。この騒動は、1996年創業のこの老舗にとって間違いなく過去最大の危機だった。

2020年6月19日、「接待を伴う飲食店」やライブハウス、クラブへの休業要請が解除された。「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」に記載がなかったこれらの業種は、少なくとも2ヶ月間、宣言発令前から自主休業していた店はそれ以上の期間を耐えてきた。その間、全国で少なくない数の店が閉店し、歴史ある名店ですらのれんを下ろさざる得ない状況に追いやられた。

ライブハウスやクラブはその多くがクラウドファンディングを立ち上げ、支援金を募った。それらと給付金や融資を使い、人件費や家賃などをやりくりして持ちこたえてきた。ようやくたどり着いた営業再開だが、この状況で客がどれだけ戻るかは全くの未知数であり、本当の正念場はこれからだ。

とはいえ、白紙状態だった各店のスケジュールに久々にイベント情報が載り始めた様子は、焼け野原に緑が芽吹いたようで、新たなスタートを感じさせる。

蜂は6月19日に久々のパーティーを開催した。多くの不安を抱えながら再開だが、「閉店するか否かのデッドラインは6月」としていた彼らにとって、手をこまねく余裕はなかった。2018年の摘発騒動を超える苦難となったコロナ禍からここまで道のりと今後の展望について、社長の後藤寛と店長の清水朗樹に話を聞いた。

コロナより人が怖かった、疑心暗鬼の3月

多くの都内のライブハウスやクラブは、緊急事態宣言が発令される以前から休業を行っていた。こうした自主休業に到る動きは、2月ごろから見えていたという。

「まだ感染拡大が中国国内での話だった2月ごろから、外国人客が多いお店ではちらほら客足が減り始めていたようでした。

3月に入ると来日アーティストのツアーがキャンセルになりはじめ、今まで通りの営業ができなくなるだろうできなくなるんじゃないか、という空気が出てきました。3月も末ごろになると、1日ごとに状況が大きく変わるようになって、休業する店と営業している店が入り乱れている状態。

うちはまず土日の営業は自粛して、4月に入ったところでもう営業は不可能と思い完全自粛になりました。出演者とお客さんを危険にさらす状態で営業はできないという判断です。

箱によって対応が違った3月ごろの時期は、Twitterを見るのが怖かったです。経営がカツカツの店はギリギリまで営業せざるを得ないわけですし、状況はあくまで『自粛要請』。正解は無いのに、自分の気持ちをこちらにぶつけてくるようなトゲのがあるコメントが飛んでくるようになりました。コロナより人の方が怖いと思いました」(清水)

2度目のクラウドファンディングへ

蜂がクラウドファンディングを開始したのは、緊急事態宣言発令の前日となる4月6日。いち早く支援を呼びかけ、その後全国のクラブやライブハウスが続々とクラウドファンディングを立ち上げるのに先駆けた。

「ファンに助けを求める」という手段に葛藤を覚え、ファンディングに踏み切るのをためらっていた店も多かったなかで、老舗が先陣を切った意義は大きかった。

「クラウドファンディングを始めたのは、The Room(DJの沖野修也が1992年に創業したクラブ。都からの自粛要請を受ける場所に該当するため現在も休業中)さんが一番早かったと思います。それを見て、うちも早くやろうと思いました」(清水)

「とはいえ、うちは2018年に続いて2度目のクラウドファンディングです。みっともないかな、図々しいかな……という気持ちも正直ありました。しかし、恵んでもらう、という後ろめたさを持ってやるのではなく、存続させることがお客さんにとってのメリットにつながるんだという意識を持って、かっこつけてられないという覚悟で踏み切りました。お店がなくなってしまったら意味がないですから」(後藤)

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ロードマップ に記載なく、ただ叩かれるばかり

クラウドファンディングは742人の支援者が集まり、目標金額の300万円を達成した。この資金はどのように活用されたのか。

「店を持続させるための1ヶ月分の費用プラス手数料として300万円という額に設定しました。主に家賃と人件費です。リターンの内容は、あくまでお店を再開させることで支援者さんに還元するというポジティブな考えのもとで、ドリンクチケットや感謝祭のチケットの前売りを中心にしました。

給付金の類は申請開始と同時に申し込みました。持続化給付金は振り込まれましたが、都の協力金はまだ入りません。公庫に融資の相談にも行きましたが、渋谷支店でクラスターが出たことで審査が遅れ、最終的には審査は通りませんでした。

多くのクラブやDJバーは緊急事態宣言前から自主休業していました。業界にモラル的な問題はなかったはずです。小箱クラブの会議では声明も出して、連携して自主休業してきました。いち早く動いた業界なのに、最後まで休業対象にされ、それに対する補償もない。お店の売り上げや維持費を補償する内容の休業補償はないのに、休業要請するというのは矛盾だと思いました。

緩和のステップ3にも入っていない。扱いについては未定にされ、ロードマップは用意されない。ただ叩かれるばかりで、我々の存在自体が無視されていいものであり、悪なんだろうかという気がしてきます。

行政は我々のような小さく弱い立場のお店が置かれている状況や仕組みを分かっていない、分かろうとしていないんじゃないか、と思ってしまいました。

6月が経営的なタイムリミットと思っているなかで、自粛要請が解かれる前に再開したら、業界全体が叩かれる火種を作ってしまうし、今後もし補償決まった際に受けられなくなるかもしれない。政府が言っていた6月中旬の要請解除の実現を願うばかりでした」(後藤)

連日の配信、そこで得た発見

休業期間中は、DJたちのプレイをライブ配信した。有料配信ではなく、投げ銭のみの無料配信を平日は毎日行った。

「Tokyo Mild Foundationさんという映像製作会社さんが全面的な協力を申し出てくれて、かなり早い時期から配信をスタートすることができました。

ZAIKOなどがライブストリーミングサービスを開始する前だったので、とりあえず無料で始めました。後から有料にするのも忍びなくて、そのまま続けた形です。

配信の目的は収益を上げることよりも、うちが生きてることを発信するため。蜂はやれることをやっています、という姿勢を見せることでクラウドファンディングでの資金集めにもつながったと思います。

あとは、配信を毎日行っているなかで、企業からの協賛の話もいただきました。フェスなど多くのイベントがなくなったので、話が回ってきたんだと思います」(清水)

コロナ禍で急速に普及した配信コンテンツ。気軽に視聴ができる反面、リアルの現場では自然発生する客と客、客とDJ間のコミュニケーションや、熱気と呼応するようなプレイは失われてしまうのではないか、という危惧もあるが。

「蜂でもレギュラーで出ていただいているDJ HASEBEさんは、毎週ご自身のInstagramでライブ配信をしていて毎回千人近い視聴者が集まっているんですが、オンラインだけど場の雰囲気があるんです。

HASEBEさんはコメントを見ながら配信しているんですね。オンライン上でコールアンドレスポンスしてる。コメント欄に独特なノリがあって、視聴者がコメントしやすい雰囲気がある。ファンと配信者のつながりが濃いと、視聴者数も安定していくのかなと。

普段ならプレイ中のDJに気軽に話しかけることはできないわけで、配信は配信の面白さがあると思います。ベテランのDJさんたちでも積極的に機材を集めて配信に乗り出している方も多くて、DJ一本で食べている人たちは自粛期間中もバイタリティーを持って柔軟に活動されていたと思います。

営業再開に際して配信は一旦終了しますが、また別の形でオンラインプログラムの計画を進めています」(清水)

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新たな信頼関係の構築を

今後は週末を中心に基本的には通常通りの営業に戻していく。感染対策の徹底は、クラスター発生の回避としてはもちろん、店が客や出演者と信頼関係を気付く上での重要なポイントになってくる。

「再開一発目は、蜂にゆかりの深いDJ KENSEIさんにお願いしました。早朝スタートで入れていたイベントは、大きなクラブで朝まで遊んだお客さんが流れてくる場所として行っていたので、しばらくは開催できません。今後は飲食店と連携してケータリングを増やしたり、フリーマーケットパーティーだったり、新しい試みもしていきたいと思っています。

具体的な感染対策は、入店時のアルコール消毒、検温と、QRコードのリンク宛てに空メールを送っていただくかたちでお客様の氏名と連絡先を控える、テーブルやドアノブ、スイッチ、手すり、DJ機材、マイクなどのこまめな消毒、アルコール消毒液の店内設置、あとは飛沫感染の防止のために入り口ドアを解放して、フロアの窓も30分に一度開けるなど可能な限り換気をして営業します。業務が増えたので、稼働させるスタッフの人数は以前より増やす必要がありますね。

多くの人に来てほしいと思う反面、安全が第一です。こちらの対応が不十分なせいでお客さんやDJさんがナーバスになってしまったら信頼関係が崩れてしまう。入り具合を見て入場制限を設けるなど、営業を続けながら模索して柔軟な対応を考えていきたいと思います。そして、こうしたノウハウは横のつながりで共有して、シーン全体が活気を取り戻すようにしていかなくてはいけないと思います」(清水)

「夜の街」などと十把一絡げにされ多くの業種が矢面に立たされ身動きが取りづらくなっているなか、慎重に、しかし前向きに五里霧中の海を漕ぎ出した蜂。音楽ファンたちと新たな信頼関係の構築できるかが、鍵となりそうだ。

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