−真鍋さんはKIYAMAさんが東京藝術大学の先端芸術表現科に在学していたときの講師だったそうですね。
真鍋:そんな時代もありました。
KIYAMA:入学したのが2005年なので、10年以上前ですね。少人数のクラスで、ドラムマシーンを作ったりしていました。
真鍋:全員のマシーンをネットワークで繋いで、ひとつのシーケンサーを作ってね。KIYAMAさんは自分のサウンドファイルでループシンケンサーみたいなものを作っていましたね。卒業後に海外のフェスでライブを観たこともありましたよ。渋いことやっているなあと(笑)。格好いいなと思って。
−KIYAMAさんの『JABARA』についてですが、まず、制作にあたってのコンセプトはどのようなものだったのでしょうか。
KIYAMA:そもそもはJABARA RECORDSさんが企画してくれたもので、依頼としては「日本の伝統楽器を用いて、その音色を現代的に再構築してほしい」ということだったんです。
私は日本舞踊や仕舞、謡を習っていたのですが、そういったものに興味が向いたのは、自分自身の好きな音楽を分析すると「間」や「グルーヴ」が大きく影響しているんじゃないかと考えたからです。幼少のころにクラシック音楽を習っていたのもあり、日本的な間がとても独自で面白いものであると大学生のころに思い、音楽や日本の古典芸術を鑑賞するだけでなく、実際に体験したほうが理解が深まるんじゃないかと思い、習っていました。
JABARA
−真鍋さんは和楽器にどのような印象を持っていますか。
真鍋:音楽でいうとDJ KRUSHさんが山本邦山の尺八をサンプリングした曲(『ONLY THE STRONG SURVIVE』)はよく聴いていましたね。和楽器×現代テクノロジーを謳(うた)った音楽作品もいろいろとありますけど、KIYAMAさんはどちらかというとKRUSHさんに近い感じがします。和楽器を使うというコンセプトが重要なのではなく、和楽器の音色が素材としておもしろいから使うという。
KIYAMA:そうですね。その意味で言えば、普段の自分の作品作りと意識自体はそんなに変わらないんですよ。普段からヒップホップやジャズのサンプルを使ってテクノを作っているので、和楽器にしてもあくまでも音として聴いているんです。
真鍋:今回はどういう和楽器を使っているんですか?
KIYAMA:篠笛、三味線、琴、尺八ですね。95パーセントぐらいは新たに録音したもので、それらを後から編集しました。テクノを作るにしても通常はドラムから始めると思うんですけど、私の場合、全体を作ってからドラムを入れるんですよ。今回もそんな感じで、録音したオーディオサンプルを散りばめながら、絵画で言えば抽象画を書いていくような感覚で作っていきました。
真鍋:おもしろいですね。こういう音楽ってビート先行のものが多いですけど、この曲は複雑なレイヤーがあって、ジャズっぽく聞こえるところもある。
−和楽器を演奏されているのはそれぞれ専門の演奏家の方ですよね。レコーディングはどのようなやりとりで進めていったのでしょうか。
KIYAMA:まず、「調弦でもかまわないので、自由に演奏してください」とお願いしました。特定の曲を弾いてもらったわけではなくて、いろんな奏法をやってもらって、その音をそのまま録っていこうと。それぞれの楽器の特徴はいかしていこうと考えていましたね。
−そこで言う「それぞれの楽器の特徴」とはどのようなものだったのでしょうか。
KIYAMA:私は三味線や尺八などを演奏することができないので、なんとなくそれらしい音や音階は理解していても、それを後付けで表現してしまうと上辺の理解のもとに成り立った「日本的なもの」になってしまいそうだなと。なので、実際の奏者さんたちの普段の手癖は大いに利用したいと思っていました。
また、日本の伝統音楽では、間や音階が絶対値で決められているというよりは、隣り合う音との間隔や比で成り立っていることも多く、そういった「比」という意味でもソフトウェア上の絶対値で決められたテンポ感ではなく、耳で聞いて感覚的に、マニュアル的に時間や間の比を作ることを心がけました。