西野達

インタビュー:西野達

3年目の鉄工島フェスに向けて

Mari Hiratsuka
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タイムアウト東京 > アート&カルチャー > インタビュー:西野達

テキスト:Hisato Hayashi
写真:Keisuke Tanigawa

ものづくりの島、羽田空港のすぐ隣に位置する人工島を舞台に、多様なジャンルの音楽ライブやアートを楽しめる『鉄工島フェス』が、今年で第3回目を迎える。 会場となる京浜島は本来工業専用の地域。開催に向けて、鉄工所の空きスペースを利用したバックルコーボー(BUCKLE KÔBÔ)を拠点に現地制作を行う作家も多く、アーティストの創造性と工場で働く人々の熟練した技術の融合には期待が寄せられる。

タイムアウト東京では、2019年11月3日(日)の開催に先駆け、会場でも一際目を引くであろうモニュメントを制作中のアーティスト、西野達(にしの・たつ)にインタビューを行った。

昨年の様子。「鉄工島FES 2018・土岐麻子」©行本正志members

ー制作中の作品について聞かせてください。

今回のテーマは「夜の京浜島の主役たち」工場で働く人たちが帰った後の島は、ほとんど無人になる。夜になると残っているのは、工場の車や街灯や自動販売機だけで、工業地域に人は住めない決まりになっているから本当に誰もいないんだよね。そこにスポットを当てて、全長7メートルくらいの巨大なモニュメントを制作してるところ。もっと高くしたいんだけどね(笑)。

街灯を支柱に刺して、車や家具などの大きな素材を積み上げるから、クレーンの技術者や鉄工所の職人たちの力を借りないと、予算的にも難しい作品だった。

京浜島にはありとあらゆるものを作るための職人がいるから、協力してくれる人々のおかげでとても制作しやすい環境だったよ。

ー作品の素材は、全て京浜島で集めたものですか?

大体は京浜島にある素材を使ったよ。自分の作品は基本的に現地調達、現地制作が多いけど、今回は特にそう。リサイクル倉庫から家具をいただいたり、鉄工所の職人たちに鉄の土台作りを相談したり、リサーチをしながら、現地の人たちの協力を得て行った。京浜島には、鉄工所以外にもリサイクル工場や産業廃棄物処理場も多くある。そこにあるモノをまた素材としてよみがえらせたいと思ったんだ。

ー素材を選ぶプロセスで、印象に残っているエピソードを教えてください。

作品で重要な支柱になるパーツの街灯が見つからず困っていた時、ある電気会社の方が、明日古い街灯の回収をすると連絡をくれたことだね。

昔の趣あるデザインの街灯を探していて、その通りの物が手に入った時はうれしかった。それでやっと、今回のアイデアが実現したんだ。

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日本と海外、アートを取り巻く環境

ー西野さんは東京とベルリンに拠点を持っていますね。ご自身の制作環境について聞かせてください。

自分の場合は、基本的に屋外で大きな作品を作るから、日本の役所から許可申請を取るのは本当に苦労する。世界で最も厳しい。一方でドイツはアートに寛容な国。アート作品のため規制に特例を設けることもあるくらい、理解には大きく差がある。

京浜島の場合はライブで大きな音を出せるし、大きい作品を作っていても注意されないから制作には向いているね。

ー日本はアートに対して厳しい国だと思いますか?

そう思うよ。日本では現代アートと聞いただけで引いてしまう人が多いから、まずそこに違いを感じているね。

アジアでも反応はさまざまで、例えば2011年のシンガポールビエンナーレに出展した『マーライオン ホテル』は、シンガポールのシンボルであるマーライオンの頭部を囲んで、実際に泊まれるホテルの1室に造り変えた作品。宿泊は予約開始から1時間で完売して、約2ヶ月の会期中は10万人以上もの人が見に来たほど人気があったんだ。現地の人はコンセプトにも興味を持って、喜んだり面白がってくれたな。

ー状況を良くするには何が必要でしょうか。

日本におけるアート、特に現代アートのファンが少ない理由は、触れる機会が少ないことが一因だと思うね。いくらアートの必要性を説明しても、見る人自身が感じないと意味がないと。何ができるかというと、こういう『鉄工島フェス』みたいなイベントや展覧会を続けることが大事。

近年は日本でもトリエンナーレやビエンナーレなどアートフェスティバルがいくつもできて、それは良いことだけど、とにかく続けてほしい。10年、50年、100年と続けることで、世代を超えて見に来る人も増えるし、理解も広がっていくんじゃないかな。

『鉄工島フェス』もそれは同じで、3年続けたことで、少しずつ理解者も協力者も増えていった。当日は、アートの力を信用して、思いきり楽しんでほしいね。

アーティストが集まるサロンのような場所

ー最後に、東京で西野さんの作品を見るのにおすすめの場所はありますか

自分の作品は基本的に、現地で制作したものを期間限定で展示して、解体されるのが特徴だけど、世界に3点だけパーマネントコレクション(永久収蔵品)がある。

そのうちの1つ『What if someone finds out?』は、東京中目黒にあるパビリオンというレストランで見ることができるよ。店内にはほかにもアート作品が点在して、まるで美術館のようなレストランなんだ。アートに触れながらゆっくり食事を楽しんでもらえたらいいね。 

西野達
1960年愛知県生まれ、東京都、ベルリン在住のアーティスト。公共空間を中心に大型プロジェクトを行うことで国際的に知られる。街のモニュメントや街路灯などを取り込み部屋を建築しリビングルームや実際にホテルとして営業するなど、パブリックなものをプライベートに変容させることで日常的な観念を壊し、鑑賞者に強烈な刺激を与える。近年の主なプロジェクトに、マンハッタンに立つコロンブス像にリビングルームを建設した『Discovering Columbus』(2012年 ニューヨーク)、『TRACK』(2012年 ゲント、ベルギー)、『シンガポールビエンナーレ 2011』でマーライオンを取り込んでホテルを建設した『The Merlion Hotel』(2011年 シンガポール)などがある。日本では『あいちトリエンナーレ』(2010年)、『横浜トリエンナーレ』(2005年)など世界中で作品を展開している。

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