Photo by Diana Larrea
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インタビュー:浜田美南

バルセロナに巨大ミューラルアートが出現、浜田美南が考える「ストリート」での活動とは

Mari Hiratsuka
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タイムアウト東京 > アート > インタビュー:浜田美南

インタビュー:須賀華呼

地中海に面した都市バルセロナは、ニューヨークやメルボルン、ベルリンに続くストリートアートの聖地として世界中からさまざまなペインターたちが集まることで知られる。裏道に入ると、ビルの壁や店のシャッター、電柱など路上にあるキャンバスは無名な彼らによるアートに埋め尽くされ、とてもにぎやかだ。そんなバルセロナ郊外の団地の側面に現れた、巨大なミューラルアート。カラフルでポップなモチーフはひときわ目を引き、圧倒的な存在感を放っている。

ミューラルアートとは日本語で言う壁画のことで、グラフィティなどの延長線上にあるのだが、一般的に考えられているストリートアートとは少し違うニュアンスを持つ。時にはビルの壁一面という大規模かつ、完成度の高い作品を描くのだから、所有者に許可を得て描かれているものも多い。その土地に住む人々や地域によりコミットした作品を目指すアート活動なのだ。この巨大壁画の作者で、タイムアウトバルセロナの誌面でも紹介されるなど、注目を浴びる日本人女性アーティスト、浜田美南が考える「ストリート」での壁画活動について、話を聞いてみた。

mina hamada by Ivan Moreno

ー美南さんのバックグラウンドを教えてください。プロフィールを見るとアメリカ生まれということですが育ったのもアメリカですか?

2歳までは父の仕事の関係でルイジアナだったんですが、その後はすぐに東京に帰ってきたんです。なので育ったのは東京です。残念なことにアメリカでのことはあまり覚えていないんです。

ー日本に住んでいた時はどんな活動をしていましたか?

子どものころから母に読んでもらっていた絵本の影響で、イラストを描いたり物語を書いたりするのが好きだったんです。専門学校を卒業後は、自分で作った絵本の展示をしたりして、絵本作家を目指していました。初めてヨーロッパに行ったのも、イタリアのボローニャで開催されたフェアに自分の絵本を持って行ったのがきっかけでした。なので、日本にいたころはぜんぜん壁画は描いていませんでした。 

ー壁画を描きだしたのはバルセロナに来てからなんですか?

そうですね。それまでグラフィティやストリートアートについてほとんど知らなかったんです。日本では見る機会もほぼなかったので。壁に絵を描くことを実際に経験したのはバルセロナの地元の若い子たちが誘ってくれたイベントでした。そのイベントがとても大きなOCUPA(スペイン語で、スクアットの意味)で行われてて。それまでスクアット(※)の存在を知らなかったのでとても新鮮でした。

※スクアット:空き家や空きビル、居住者が留守中の建物を占拠する社会運動。ヨーロッパでは条件によって、法律で認められている例もある。

ースクアットでの体験を詳しく教えてください。

2010年くらいですかね。女の子はみんなドレッドで犬を連れてて(笑)。そこのOCUPAはバルセロナでサーカスをやっている人たちがたくさん出入りしている場所だったんです。みんなトラックに住んでいて、アート活動やパーティーをしていました。すごく自由で面白い場所だったんです。

ーバルセロナで一番スクアットムーブメントが盛り上がっていた時期ですよね。

今もOCUPAはたくさんあるけど、その時はすごかったですね。そこで、サーカスと大道芸、音楽が一緒になったイベントを開く時に、ライブペイントしてみないかと誘われました。当時はまだ壁に描いたことがなかったので、私は筆を使ったんですけど、ほかの子たちはみんなスプレーでやってて。それがスプレー缶との出会いというか、ストリートアートとの出会いになるのかな。 

Photo by B.Shigeta for POW!WOW! Long beach 2017

photo by German Rigol Collaboration with ZOSEN

ー美南さんのスタイルであるポップでカラフルなスタイルの壁画のインスピレーションとなったのは何でしょうか。

日本で絵本の絵を描いていた時は黒をベースにした暗いものが多かったんです。多分、バルセロナに来てから、明るくなったというか。この地中海の開放的な文化の影響も強く感じています。壁画を描く時に面白いと思うのは、描く場所の環境によって作風も少しづつ変化することです。周りの環境からインスピレーションを受けています。

ー記憶に残っているプロジェクトがあれば教えてください。

一番記憶に残っているのはラテンアメリカですね。メキシコもそうだけど、ブエノスアイレスから陸路でペルーの山奥に行った時とか。去年初めて日本以外のアジアの国に行ったのも冒険でした。韓国とベトナム、タイに行ったんですけどそれぞれの町の面白さがあって。韓国の釜山はノリがラテンで、壁画を描いているときに、おばさまたちがずっと韓国語で話し掛けてきて。言語が分からないのになぜかそのまま会話が成立しちゃったり(笑)。その土地で描いている過程で生まれる、人々とのコミュニケーションとか、出会いが壁画をやっていて一番楽しいところですね。 

Photo by Yu Takahashi Collaboration with ZOSEN

ーバルセロナの道を歩いていると、タギングやステッカー、グラフィティなどを含め、たくさんのストリートアートを見かけます。美南さんの作品とストリートアートとの関係性についてはどう考えますか?

実は私にとって、「ストリートアート」っていう言葉はいつも引っかかるところがあって。自分から「ストリートアートをしている」と言ったことはないんですね。このシーンによくありがちな、自分の名前を残すとか、自分の作品を見ろっていうだけの主張ではなくて、私は自分の作品が街に影響を残す、という事を意識しているんです。公共の場所にあるというのは責任がある事だというか、例えばそこに住んでいる人たちにとっては毎日見るものだから。その人たちがポジティブになれる壁画を作ることはとても大切だと思っています。 

ー日本ではまだまだ、「スプレー缶を使って描く絵」というものが法律的にも落書きとみなされがちですよね。そういった状況を、日本と世界を行き来しながら感じたことを教えて下さい。

日本でやっていくには規則とか法律とか難しい部分があります。壁画をずっと前から描き続けている人もいるし、新しく描く人も描ける環境も増えてきていると思います。特に違いを感じたのは、ラテンアメリカでは、壁も日本よりたくさんあること。それに、近所の人に壁に描いていい?って聞いたら快く描かせてくれたり。そういうやりとりは日本ではなかなか出来ませんよね。それに「怖い」とか「近所の人に迷惑なんじゃないか」とか、周りを気にする文化というのもあるのではないかと思います。

ー日本は文化的にも個人主義的な部分がありますね。その辺りの違いは、バルセロナにいて感じますか?

バルセロナにいるとよく思うのが、日本にいる時と比べて知らない人とか、いろいろな人と話すことが多いこと。壁画って、コミニュケーションが大事というか、それが必要な要素。描いてると、ずっと話し掛けてくるひともいるんですよ。そういう事が楽しめるか楽しめないかで違ってくるというか。そのプロセスを楽しんで描いています。

ーバルセロナのアートシーンや、一緒に活動している仲間について教えてください。

バルセロナは世界中からアーティストが集まる場所ですね。でも、いっぱい来るけど去っていっちゃう人も多い。ちなみにタイムアウトバルセロナに私と一緒に載っていたメンバーはみんな友達です。バルセロナは東京と比べて小さな町だから、壁画を描くアーティストとはどこかでつながっていることが多いです。仲がいいアーティストも多いけど、それぞれ色々な場所で活動してるから、みんな一緒に集うのは難しくて。  

ー今後行ってみたい、描いてみたいプロジェクトなどがあったら教えてください。

行ってみたい場所はたくさんあります、アジアは特に。中国とインドとか。日本だったら東北とか九州も行ってみたい。描いてみたいのは、プールの側面に描いて、水を張ってみたりとか。あと、今制作中のドキュメンタリーフィルムがあって、日本で壁画ツアーをした時のものなんですけど、出来上がったらぜひ見てほしいです。

ー最後に、ストリートアートや壁画を通して伝えたい事とはなんでしょうか。

自分が伝えるというよりも、見る人と一緒に感じたいですね。私が壁画を描いた、その土地で暮らしている人たちの生活や暮らし方、文化を知りながら、壁画が出来上がるのを一緒に見れることが何よりもうれしいです。私がいなくなった後も、そこに壁画が残るので、それを見た人がほっこりした気持ちになれたり、温かい気持ちになれたらと思っています。

浜田美南(はまだ・みな)

アメリカ合衆国ルイジアナ州生まれ東京育ち。2009年の秋よりスペインのバルセロナ在住。 絵画、壁画制作、インスタレーション等 ヨーロッパ、アメリカ合衆国、ラテンアメリカ、アジアを中心に活動中。

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Photo by Hamza Nuino for FESTIVAL JIDAR 2018 (RABAT)

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今年もようやく芸術祭の情報が出揃ってきた。一時期は、雨後の筍のように各地で企画されていた芸術祭だが、近年では随分と落ち着き、結果的に確かな質と魅力的な個性を持つイベントのみが継続を許されることとなった印象だ。2019年では、アートと雄大な自然が楽しめる『瀬戸内国際芸術祭』が、その筆頭格といえるだろう。

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