翻訳:浅井桃子
※2015年12月タイムアウト東京マガジンから転載
ダニエル・クレイグは映画『スペクター』が彼の最後のジェームズ・ボンド作品になると発表した。タイムアウトロンドンとのインタビューでは、もう1本やるくらいなら割れたガラスで手首を切ると発言したくらいなので、その決意は変わらないだろう。かなり強い口調で、後任が誰になっても構わないと言っていた。しかし、次のボンドが誰になるかメディアが大騒ぎしているのを見ると、関心がないのは彼くらいのものだろう。
今のところ、有力視されているのはアメリカのテレビドラマシリーズ『HOMELAND』のダミアン・ルイスだが、イドリス・エルバに黒人初のボンド俳優になってほしいと望む声も多い。では、もしボンドが日本人だったら007の世界はどのように変わるだろうか。
「『007は二度死ぬ』のボンドは日本人だったじゃないか」と思うかもしれない。だが、あれはショーン・コネリーがかつらを被ってアイメイクをしていただけで、逆に日本人を馬鹿にしているようにも見えたし、説得力もなかった。
誤解のないように言っておくと、「ボンドが日本人だったら」という想像は、俳優が日本人のボンドを演じているということではなく、ボンドというキャラクターが本当に日本人だったらどうなるだろうということだ。
そこで、ボンドが生粋の東京人だった場合、「007」の重要なポイントがどのように変わるか考えてみた。
ガジェット
日本と言えば奇妙なガジェットを作ることで知られているので、ボンドの役に立つだろう。Qの創るガジェットには最先端と時代錯誤が同居するものが多いので、新幹線を発明しておきながらいまだにファックスを使う日本はぴったりと言える。
ソニーがすでに『AIBO』を発表していることを考えると、『007 美しき獲物たち』に出てきた犬型ロボットをそれ以上進化させるのは難しいかもしれないが、ホンダの『ASIMO』やソフトバンクの『Pepper』のようなヒューマノイドが力を貸せるかもしれない。
だが、『007 ユア・アイズ・オンリー』に出てきたスパイク付きの傘は慎重にラボにしまっておく必要がある。外に置き忘れたら絶対に悪者の手に落ちてしまうからだ。
アルコール
日本人ボンドは、ありふれた「ステアではなくシェイク」のマティーニではなく、故郷の味を好むかもしれない。1杯の上質な日本酒は、ボンドの男らしさを損なわずに洗練された感じを演出できるし、抹茶なら禁酒主義のボンドという新しいボンド像を打ち出せる。
だが、最も適しているのは、昨年、スコットランドの名だたる酒造メーカーを破って世界一に輝き、ウィスキー業界を激震させた『山崎シングルモルト』かもしれない。
キャッチフレーズ
日本では姓名の順番が逆になる。いつもの「ジェームズ。ジェームズ・ボンド」ではなく、「ボンド・ジェームズ」と自分を紹介することになり敵を混乱させ、何秒か長く考える時間を稼げるだろう。
アクション
新しいボンドは、マリオの生みの親、宮本茂の豊かな空想に満ちた落書きノートから学べることがあるかもしれない。任天堂の伝説のプロデューサーである宮本は、ゲーム『ゴールデンアイ007』の開発の最終段階で、その暴力の多さを気にかけ、ゲームの最後に病院ですべての敵と握手できるようにしたらどうかと提案した。
テーマソング
ここ最近の007ではアデルやサム・スミスなどの英国の歌手の歌が採用されてきたが、きゃりーぱみゅぱみゅにインスパイアされた、幻覚のようなオープニングクレジットは正直、みんな見たいだろう。
セックス
統計によると、日本は多くの海外メディアが伝えてきたようなセックスレス大国ではないようだ。それでもほとんどの国に比べて頻度は少ないようなので、日本人ボンドは、ミッションで出会う女性たちよりもミッションそのものに集中することになるだろう。
だが、セクシーさは残っていることを願う。ピアース・ブロスナンはあまり喜んでいなかったようだが、俳優がセクシーさを爆発させるのを見るのは楽しいものだ。
しかし、ボンドはこれからもイギリス人だろう……。
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