自閉症者はどうやって人間関係を維持するのか
ーこの「ケース」シリーズが誕生した経緯を教えてください。
モニーク・ノルテ(以降モニーク):私がケースとその家族に出会ったのは1997年のことです。「若者と周辺の関係性」というお題が設けられた若手監督のためのドキュメンタリープロジェクトに参加した時でした。
私は、自閉症を抱えた人はどうやって人間関係や友人関係を維持するのかというトピックに興味を持ち、調べていた中で、彼が自身の自閉症生活についてつづった本にたどり着きました。
ケース(当時32歳)に初めて会ったとき、私が探し求めていた映画の被写体だと直感しました。純粋で自然体だけど、知的な人柄に衝撃を受けたのをよく覚えています。その上、彼は障がいのせいで、自分の人生に何が欠けているのかを十分に自覚しており、それは悲劇的であると同時に彼を興味深い存在にしていたのです。
1998年に、ケースが母親のサポートによって、脅威となる世界で生き抜く様子を描いたミニドキュメンタリー映画「トレインマン」を公開しました。これが今日まで26年間続く友情の始まりとなります。
その後も私たちは長らく友好関係を維持。年月がたつにつれ、彼はサポートしてくれる両親、特に母を失うことへの恐怖が年々強くなっていると、手紙などのやりとりの中で書いてきました。これは何か作品にできるのではないかと私は考え、「トレインマン」から10年後、「ケースのためにできること」を撮り始めたのです。
その理由は、ケースの父親がほかの自閉症の人たちと一緒にケースが暮らせる共同住宅プロジェクトを立ち上げ、息子の将来に明るい展望を作ろうと模索していたからです。ケースはその展望に憧れはあるが、母親のいない生活が怖い。母親は息子を手放したくない。そのため父は妻に反対され、邪魔されるというジレンマに陥っていました。7年間におよぶ撮影の後、同作を発表し、大きな評価を得ました。
「ケースがはばたく日」のきっかけになったのは、「ケースのためにできること」を観た人がモッマ夫妻とケースの住んでいるエリアに家を買い、ケースの父親に賃貸での提供を持ちかけたことです。このことは、ケースの自立と自活に「引っ越し」という具体案を提示しました。同時に、両親は80歳を迎え、母は認知症を患い、代わりにケースをケアしてくれる人も見つけておかなければなりませんでした。
しかし、ケース自身は多くの固定観念、不安、強迫観念に苛まれており、他人との関係性を築くことは簡単ではない。そうした状況の中で、いかに自立を進めるかが同作で描かれていることです。
「ケースがはばたく日」は2023年4月にオランダで公開。ある程度のまとまりとして区切りをつけていますが、ケースが一人立ちする経緯はその後も撮影を続けており、来年公開予定の続編では、ついに自立を果たした姿が描かれる予定です。