ーあなたがボンドを演じたなかで最も有名なイメージは『カジノ・ロワイヤル』で青いトランクスを履いて海から出てきた姿です。10年経った今、その姿を見てどのように感じますか。
そんなもの見ない。それを見て泣きながら「なんて僕は美しかったんだ」なんて言わない。すべて発見の軌跡だったんだ。僕はボンドになるために必要なものを認識していたけど、それらは今だに自分が信じているあらゆるものに反している。あまりクールではない僕の姿を何度も見てるはずだ。僕はあまりクールな人間ではないし、最もクールな人間なんかじゃない。でも、ジェームズ・ボンドを演じる上ではクールでなければならない。それにしても、クールって一体なんなんだ。そのテーマで論文が書けるよ。あのショットは、大きなアクシデントだったんだ。僕は浅瀬で泳ぐふりをしていた。そして、立ち上がって海から歩いて出てきたんだ。僕は泳いでクールな姿を装おうとし、自分でそれがばかげた姿だと思い、泳ぐのを止めて立ち去ろうとして、それが、あのショットなんだ。
ー『スペクター』でも似たようなショットを期待して良いですか
この映画で僕が脱ぐかって。ああ、6ヵ月間も撮影していたんだ。もちろん、脱ぐさ。
ーなんでジェームズ・ボンドなんかを演じるハメになったんだ。と考えることはありますか。
わかってる。ばかげてるよ。ほんとにばかげてる。最初にオファーを受けたとき、僕は思った。お前はミスを犯したって。よくわからないけど、いまだにクレイジーだと思っているよ。
ーボンドを演じているせいで、役者として制限されることは何ですか。
思いついたすべてのアイデアをボンド映画に注ぎ込んできた。この映画に捉われてきた。「ボンド・バンク」は空っぽだよ。もし君の質問が、次にボンド映画を撮るとしたらどうするかということなら、何も思い浮かばない。宇宙に行く? いいね。 以前にもやってるし、またやってみよう。
ーいえ、私の質問は、役者として普通ならできることをボンドのせいで制限されているとしたら、それは何かということです。
ああ、なるほど。いくつかの点では、僕がやりたいと思うことは何も制限されていない。でも、ボンドを演じたことで僕の俳優人生は一変した。チャンスが広がったんだ。僕はもっと多くのことができただろう。もしボンドによる制限があるとしたら、それは恐ろしく時間がかかるという点だ。これは制限だと言えるね。
ーボンド映画の新作には多くの期待や議論が常につきまといます。そのような熱心なファンや彼らの注目度の高さには慣れましたか。
そんなこと考えてられないよ。僕はもうインターネットを見なくなった。有名になると、インターネットは有害な存在になる。本当にそう思うよ。このせいでパラノイアになってしまう。もしくは、すでにパラノイアだったのがさらにひどくなる。なぜなら、有名な人がインターネットを見ていると、30分もしないうちに自分のことが話題になっていると気づく。自分が強いか弱いかに関係なく、ある種の情報はその人をパラノイアにする。僕はそうならないように見るのをやめた。クリエイティビティにとって敵だよ。
ーボンドは女性たちと「特別な」関係を持っています。彼は時代遅れなのでしょうか。
きわどい線だと思う。彼が女性嫌いにならないのは……表現が強すぎるな。「少し気難しい女性たち」とでも言えばいいかな。彼女たちと直面するのは問題ないと思っている。キャラクターの問題だよ。彼をこの点だけで判断しようとすると、見失ってしまう。そして、これはキャスティングにも関わってくる。やるべきことは、映画の中で女性たちが出てくるパートをできる限り強烈に、できる限り面白くするために全力を尽くすということだ。なぜなら、僕の意見としては、こんな世界はもう存在していないのだから。こんなキャラクターは存在する。人間は実際にそのようなことを考える。だから葛藤が生まれる。それを映画に当てはめてみると、ボンドは脈のあるものなら何とでもセックスしたがっていると考えてるんだ。大事なのは、女性たちがいかに彼を変えたかということだ。僕にとって興味深いのはそこなんだ。
ーまた新たなボンド映画に出演するということは考えられますか。
今かい。それなら僕はこのグラスを壊して自分の手首を切るだろうね。いや、今は出演したいと思わない。まったくね。もうたくさんだ。現状では、ボンド映画を卒業したと思っている。僕たちはやりきったんだ。僕が望んでいるのは、前に進むことだけだ。
ーもう永遠にボンドに戻ることはなく、前進したいということですか。
少なくとも1年か2年かは、それについて考えたくないだけだよ。次のステップが何かは分からない。まったく見当もつかない。僕が慎重になろうとしているからじゃない。現状では、僕たちはやりきった。誰かと何かについて話し合っているということは一切ない。もし僕が新しいボンド映画に取りかかっていたとしたら、それはお金だけのためだろうね。
ー次に誰がボンドを演じるかは気になりませんか。
まったく気にしてない。彼らに幸あれ、だよ。気にしていることがあるとすれば、僕がこの役を良い状態で辞めて、誰かがそれを引き継いだ場合、より良くしてほしいということだけ。それがすべてさ。
ーそれでは、後ろからおせっかいを出すようなことはしないんですね。
勘弁してくれよ。そんなことしたら、なんて哀れなんだろう。「ほら見ろよ、ダニエル・クレイグだ。また現場に来てるぞ」なんてあり得ないよ。
ーもしある俳優がボンド役をオファーされてあなたのところにアドバイスを求めてやってきたら、どのような言葉をかけますか。
以下の2つのことを、そっくりそのまま伝えるだろうね。1つは、自分で決めるべきだということ。誰の意見も聞くな。まあ、皆の意見は聞くべきだけど、その日の最後には自分で決めなければならない。自分の一生は自分にしか責任が持てないんだ。そして、しくじるなということ。愚かなまねをしてはいけない。みんなステップアップしなければならないんだ。こんな映画はもう作られなくなった。今ではとても貴重だ。だから愚かなまねはするなってね。
ーでは、誰かが電話してきて、「007の仕事が取れた」と言ってきたら、あなたは何とアドバイスしますか?
しくじるな。一か八かやってみろ。全力で取り組め。そんな月並みなことを言うだろうね。でも、本当さ。ただ最高の仕事ができるようにしてほしい。限界まで自分を追い込まなければならない。でも、それに見合うものはある。なにせジェームズ・ボンドなんだから。
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