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インタビュー:バリー・ジェンキンス

これまで映画で描かれたことがなかったマイアミの側面を描いた、映画『ムーンライト』

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インタビュー:Michael Smith

映画『ムーンライト』は、アフリカ系アメリカ人のゲイの若者、シャロンが人生の3つのステージで自身のアイデンティティを模索するさまを描いた、心揺さぶられる感動作だ。ニューヨークとロサンゼルスで昨年公開された際には、1スクリーンあたりの平均興行収入で2016年の最高記録を樹立した。今作はバリー・ジェンキンス監督の長編2作目となり、『第89回アカデミー賞』では作品賞、脚色賞、助演男優賞の3冠に輝いた。

※このインタビューは、2016年10月に開催されたシカゴ国際映画祭での『ムーンライト』上映後のもの

原文はこちら

—映画『ムーンライト』では、アイデンティティが男性らしさやセクシュアリティ、人種、階級と交差するさまが描かれています。黒人コミュニティで若い男性は「荒々しくタフに」行動しないといけないというプレッシャーが存在し、それがシャロンのカミングアウトを妨げていると思われますか。

そうですね、それは事実です。しかし、黒人コミュニティのみが原因だとは思いません。外部からの刺激、黒人社会を取り巻く社会への対応であり、世の中全体から自分自身と家族、コミュニティを守らなければ、という黒人男性が抱える必要性に対応するものだと思います。なぜなら、黒人に対してはステレオタイプが数多く存在するからです。黒人男性が通りを歩いてくるのを目にすると、人々はその男性についてあれこれ想定します。本作は本質的にインターセクシュアルだと思いますが、3人の俳優にシャロンを演じさせることで、人々の想定や思い込み、ステレオタイプが絶えずある人間に投影されている場合、自己のアイデンティティを見出すのは難しいという考えが浮かぶと思います。アイデンティティというものは自分に投影されたあらゆるものへの反応から派生するからです。純粋に黒人コミュニティ内から発生したものだとは思いません。アメリカの歴史では、黒人は居場所を見つけるためだけに、ネットワークというかこの種の防護壁を作り出す必要があったのだと思います。とはいえ、私はこの映画をそれほど知的に考えたことはありません。

—作品が公開された今、あなたは共同批評家として作品を分析しているようですね。

その通りです。「共同批評家」という表現は面白いですね。私が批評や解説に対応し、私の反応で批評や解説がさらに深まれば良いと思っています。これをやったことで自分が観客と同じような立場に感じています。

—振り返ってみて、自分自身の感情に変化はありましたか。

そうですね。観客はとても賢くて、登場人物の体験に自分自身の体験を重ねます。初めて見たわけではないことも、違う視点で理解することもできます。別の人の凝視を通して物事を眺めるのです。他人の視点はとても興味深いものです。少なくとも、自分が何を感じて決断を下したのか、それが何についてだと考えたのかについて、しっかりした記憶を持てるように、テルライド映画祭での最初の上映の前に、私は時間をかけて自問自答しました。

—皆さんから意見を聞く前ですか。

そうです。この映画について考えれば考えるほど、この映画が今ミレニアル世代でよく使われている「Think Piece」に最適な作品だと気付きました。しかし、「Think Piece」ということを念頭に映画を制作をしたわけではないです。

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もし指摘されていたら、第3章では女性がシャロンを演じたらどうだろうなんて悩むことになったと思います。

—『ムーンライト』を鑑賞してトッド・ヘインズ監督の『アイム・ノット・ゼア』が思い浮かびました。

そうですか、これまで誰にも言われたことはなかったのですが、素晴らしい指摘です。作品を作成するときに、簡単に比較対象できるものがないように努力しています。しかし、ある点ではヘインズとまったく同じ手法を使ってると言えますね。

—1人の登場人物を複数の俳優が演じる作品では、複数の俳優がまったく同じ人物に見えることはありえないし、同じ登場人物だと信じられません。しかし、『アイム・ノット・ゼア』と本作では、その相違が有利に働いていると思いました。

まさにその通りです。しかし、『アイム・ノット・ゼア』でトッド・ヘインズが試みたのは、彼が作り上げたディランのペルソナはとても多面的で、それぞれの俳優が演じたディランは文字通り異なるキャラクターだと思います。『ムーンライト』では、「シャロンは同じキャラクターだが、世の中が彼の人格形成に大きな影響を与え、違う人間になってしまった」ことを伝えようとしています。トッド・ヘインズと私たちが試みたことは理知的には大きく異なると思います。しかし、結果的に同じ手法に落ち着いています。 

そうですね、私たちが同じようなことをしていると誰にも指摘されなくて本当に良かったです。もし指摘されていたら、第3章では女性がシャロンを演じたらどうだろうなんて悩むことになったと思います。

—この映画の原案は未制作の戯曲です。原案の戯曲のどのような点に惹かれましたか。

脚本を書いたタレル・アルヴィン・マクレイニーが、デポール大学在籍中にシカゴで執筆しました。タレルはイェール大学の大学院に進学するために作品を提出する必要があり、その1つが映画の原案となった作品です。舞台で上演されることは決してなかったと思います。とても視覚的で映画向きの特徴がありました。完全な脚本と言えるものでもなく、舞台と映画の中間にあるものでした。ナオミ・ハリスが演じたキャラクターは、私の母親とタレルの母親を合わせた感じです。私たちの母親はともに薬物中毒に苦しみました。私の経歴のこの側面を知る人はほとんどいませんでしたが、そのことを知っている1人がたまたまタレルの知り合いだったのです。この内容にはまさに君自身と重なる部分があるから読むべきだ、という意見とともに私の手元に届きました。私はそれを読んだとき、衝撃を受けました。中毒で母親を失う子どもの心を知っていました。また、マイアミの表現方法がとても躍動的だとも思いました。彼とやり取りをはじめてから、私たちの人生がよく似ていることが分かりました。

—ロケ地の利用がとても見事です。これまで映画で描かれたことがなかったマイアミの側面を目にできました。粗野な地域ですが、同時にとても美しい地域ですね。

美しい、本当に美しい場所です。これほどの美しさに囲まれながら、過酷な環境で育つのは子どもとしては奇妙なものです。この点に関してはタレルなら私よりもっと雄弁に語ることができます。タレルはマイアミを「美しい悪夢」と表現します。見渡す限りの美しい自然に触れることができるにもかかわらず、貧困が蔓延しているのはとても不思議です。この2つの世界は、地理的には非常に近いのですが、システム上はとてつもなくはるか遠く離れていると思います。

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音楽について

—音楽も、この種の映画で使われることが多い音楽とは正反対です。とても豊かなオーケストラ音楽ですね。

私の作風は、言ってみればアートシアター系です。また、初めて訪れた映画祭は2002年のテルライド映画祭でした。私は映画は複合型映画館で上映される必要はないと考えています。

あと、ティンダースティックスと共同で劇中に音楽をふんだんに使う、クレール・ドニの映画が大好きでした。飾り気のないアートシアター系の映画制作者と考えられていますが、それが私の映画作りに影響しています。マイアミのリバティシティ地区で成長する子供のストーリーにオーケストラの音楽を合わせるというアイデアは、私にとってはとても自然なことです。普通のことなのです。この2つのスタイルを融合する方法に過ぎません。

—カエターノ・ヴェローゾの「Cucurrucucú Paloma」も使われていますね。

大好きなウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』へのオマージュです。アルゼンチンに住む香港出身の2人の男性を描いた1997年のこの作品と、貧困街出身の2人の黒人男性を描いた本作。この2つの作品はまるで別世界の話ですが、同時に同じものを感じ取ることができます。

—それを映画のドライブシーンで使い、つながりを明確にしていますね。

その通りです。世界はそれほど広くありません。実際、世界はかなり狭いのです。私たちは違う言語を話しますが、同じことを感じます。ヒップホップミュージックでは、チョップド&スクリュードと呼ばれるリミックス方法があります。曲を取り上げ、ブレイク、ベンドし、スピードを落とします。音声は低くなり、ゆっくりとしたペースで歌詞が耳に届きます。映画が進むにつれ、ヒップホップはチョップド&スクリュードされ、キャラクターはより男らしくなり、オーケストラ音楽もチョップド&スクリュードされます。私たちはオーボエをベンドし、チェロをベンドし、バイオリンをベンドしています。ピッチをかなり低く落とし、ヒップホップを大音響でとどろかせながら路地を進む車から聞こえるのと同じ種類のごう音を室内管弦楽団で作り出しています。

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ビジュアルについて

—ビジュアルについてお話を伺いたいと思います。映画制作の指揮には感動しました。確信を持って制作された映画で、カメラの動きはとても精巧です。脚本の執筆中にビジュアルのスタイルについても考えますか。

もちろんです。この映画では、とてもうまくいきました。ロケ地を知っていたからです。通常、空論でショットをリストアップし、その後、ロケ地を見つけて調整します。その作業を私たちもある程度行いましたが、ロケ地は私たちの故郷だったので、最終的にどこに落ち着くか分かっていました。この映画のなかではとても重い題材をいくつか取り扱っています。普通は新写実主義的なドキュメンタリースタイルを使います。しかし、この作品を初めて手にした時、私はタレルに、「高熱が出たときに見る夢みたいだ」と伝えました。だから、観客の視点をシャロンの視点に定着させるビジュアルにしたいと思ったのです。撮影監督のジェームズ・ラクストンと私が全力を傾け取り組んだ結果、通常はこの種の「成長物語」にふさわしくないことを自由にできました。

—叙情的で優雅さがありますよね。

公然とそこに重きを置き過ぎないようにしました。私の最初の映画『Medicine for Melancholy』ではフィルム彩度がとても低かったのですが、私の心に残るマイアミは非常に色彩豊かで彩度が高く、肌が輝くような場所なので、ジェームズに「肌を輝かせていいよ。色彩を重視しよう」と希望を伝えました。とてもスムーズなプロセスでした。この映画の75%は計画通り、間違いなく進みました。そして、残りの25%は神任せという感じでした。スイミングのシーンですか?あれは「神任せ」でしたね。

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  • 5 5 つ星中
  • お勧め

本作は、バリー・ジェンキンス監督が少年の成長を絶妙に描いたドラマであり、数多くの奇跡が詰まった切ない物語だ。主人公の内気なシャロン(アレックス・ヒバート)は、いじめっ子たちに追いかけられ、怯えた目で暮らす10歳の少年。彼の少年時代は、混乱と苦悩に満ちていた……。

公式サイトはこちら

2017年3月31日(金)TOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー

配給:ファントム・フィルム

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