ついに姿を現したBanksy

タイムアウトロンドンによるバンクシーへのインタビュー

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Time Out London2010年3月号に掲載
インタビュー:オシアン・ワード
 翻訳: 佐藤環

世間の目から逃げ続けるろくでなし男、バンクシーの話題は久しぶりだ。最後にニュースになったのは、2009年にホームタウンのブリストルの美術館で個展をやるという、突拍子もないものだった。最初にその話を聞いたとき、ついにストリート出身のアーティストは違法な器物破損行為から卒業し、美術機関とオークションハウスのお世話になるべくギャラリーアーティストに変貌を遂げたのかもしれない、と思った。だがその予測は外れた。その後、常にスリルを追い求める変幻自在なこの男は、ゲリラ的映画監督としてドキュメンタリー風映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』を作り始めたのだ。

ーあなたは本物ですか?『ザ・ガーディアン』のような大手新聞社も、偽物のインタビューでだまされていますからね。

バンクシー: いや、自分が偽物だったらどんなに良かったかと思うよ。あまり目立つような性格じゃないから、キャラクターを作り上げるのが大変なんだ。例の映画について宣伝したいけど、ラストを台無しにしたくないから映画自体については話したくない。このページ、白紙にして読者が好きな絵でも描けるようにしたらだめかな。

ーでは、少なくともなぜあなたが自身の作品を史上初のストリートアートの失敗作と呼ぶのかを教えてもらえませんか。あなたの最後の映画作品ということですか。

バンクシー:今回の映画で関わった経験のすべては、あらゆるレベルで失敗だったと思ってる。これは僕の映画界初進出の作品で、大コケして、次に続かなかった作品として世に広まるんじゃないかな。

ー始まりはアートでしたね。次にアニメ。そして映画……。未来のウォルト・ディズニーになれると思いますか。

バンクシー:そんな風に考えたことは一度もないな。グラフィティをしたりして器物破損をする人たちのための巨大テーマパークを作るのはいいかもしれない。ビースティ・ボーイズの『ライセンスト・トゥ・イル』が発売された時、ちょうど夏休みのキャンプ合宿に出かけていた。瞬く間に、子供たちは首からフォルクスワーゲンのバッジをぶら下げるようになったんだよ。街中の車から盗んできたやつだ。ついに警察がキャンプ場になだれ込んできて、町長には子供用プールの脇でかなり説教されたな。

壁は誰か個人の、特有のライターの所有物だという考え方は好きじゃない

ーついにある新聞に顔写真が掲載されてしまいましたが、街中で気づかれるようになりましたか。

バンクシー:何年か前に、俺こそがバンクシーだと名乗りでたやつがいただろう。ショーディッチのナイトクラブに無料で入るために。噂が広がって、グラフィティライターがそれをやめさせたみたいだけど。世の中に出回っている写真についてコメントするつもりはないよ。

ーでは、グラフィティ界のベテランライターであるロボとドラックスとの抗争を説明してもらえますか。

バンクシー:ロボとはバトルしたかったわけじゃない。あんな大男、敵にまわしたくないだろう。90年代後半、彼とドラックスの悪評はすでにブリストルまで届いていたくらいだ。『Robbo』という文字が描かれた作品に、僕が上から描いたというのはでたらめだ。『nrkjfgrekuh』と描かれていた作品の上に描いたんだ。なんにせよ、壁は誰か個人の、特有のライターの所有物だという考え方は好きじゃない。

昔からやっているグラフィティライターたちは自分たちのルールを決めてやっている。それについてどうこう言うつもりはないけど、僕は誰かの指図をうけるためにグラフィティアーティストになったんじゃない。もし自分の作品を塗りつぶされて嘆き悲しむようなら、グラフィティは趣味として向いてないと思うね。

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ーあなたはグラフィティコミュニティからグラフィティを商品化した裏切り者だと言われていますよね。それに関してどう弁解しますか。

バンクシー:商品化を定義付けるのは難しいよ。マクドナルドのポスターデザインを受注してデザインするより、マクドナルドを批判したポスターを勝手に作る方が、金になるんだから。自分にはこう言い聞かせている。自分は、反対意見を唱えるためにアートを利用しているんだと。でももしかしたら自分のアートを宣伝するために反対意見を使っているのかもしれない。その裏切り行為のレッテルには、無罪を主張したい。どう弁解するにせよ、僕の家は昔よりずっと大きくなっていることは事実だけど。

ーギャラリーなどでストリートアートが展示される日は来ると思いますか。

バンクシー:ストリートアートが室内の展示向けだとは思わない。飼いならされた動物は、野生と自由を失って、太っていつも眠たそうにしているだろう?アートは常に屋外にあった方がいいのかもしれないね。だけど、確かに動物が側にいると老人は落ち着くのだろうね。路上で壁に落書きをしているときのアドレナリンは、お茶を入れながら静かな光のともるスタジオにいたら得ることはできないよ。壁からグラフィティをはがして盗む人々にも考えがあるのかもしれない。少なくとも緊張感はあるから。でも、おかしいことに彼らは僕に、僕の作品である証明書を作成してくれと頼んでくる。それは犯罪供述書にサインするようなものだろう。

ー国のためにあなたの作品は保存された方がよいと。

バンクシー:どの作品が残って、どの作品が消されてしまうかは予測不可能だ。ニューオリンズで、廃墟化した店舗に作品を描いたことがあった。捨てられた車だとか腐ったマットレスがそこら中に置かれていたような地域だ。たった2時間後、その作品は何者かによって撤去された。後で知ったことだけど、そこは麻薬の密売所で、経営者は注目が集まるのを嫌っていたんだ。確かなことは、たとえ自分が途中で放り投げたくだらない作品でも、数ヶ月後には白い手袋をはめた誰かがそれをサザビーのオークションでうやうやしく見せているかもしれないってことだ。

ーあなたの作品の資産価値はどれほどだと思いますか。人々がそれを資産や高級品として取り扱ったりすることについてどう思っているのでしょうか。

バンクシー:僕の弁護士に言わせると、警察は僕を器物破損の罪で逮捕できなくなるかもしれないってことだ。論理的には、 僕のグラフィティが描かれていることで、その不動産の価値は下がるどころか上がることになっているからね。これは彼の意見だけど、彼は風変わりなアニメキャラクターのネクタイをつけることが格好良いと思っているような弁護士だからどうだろうね。

ー最後に、タイムアウトロンドンの表紙用の作品の作成はいかがでしたか。

バンクシー:カヴァーの意味がよくわからない。カヴァーって大抵、見かけ倒しな方が多いだろう……。

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