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書、篆刻、陶芸、料理と様々な分野でその才能を発揮し、そのすべてを和食の世界で昇華させた北大路魯山人。和食がユネスコの世界無形遺産に選ばれ、また最近のグルメブームも手伝い、彼の名を聞く機会も増えたのではないだろうか。日本橋の三井記念館美術館にて、6月26日(日)まで開催中の『北大路魯山人の美 和食の天才』は、和食への興味をさらに深めてくれるだろう。
入り口すぐにある艶やかな緑の『青織部籠型花器』。織部焼は、現在の岐阜県中部と南部にあたる美濃の国の大名で、千利休の高弟であった古田織部によって始まった焼物だ。深い緑色の釉薬を使い、自由な形状や模様が特徴の織部を魯山人は好み、彼の作陶のなかでは最も数が多い。大胆な切り込みや、斜めがけされた釉薬など、様々なデザインの作品を見ることができる。
魯山人は戦時中、火が使えないために陶器を焼くことができず、漆器制作に没頭した。そのころに作られた器が、展覧会のポスターにも使われている、漆に太陽と月を表す金箔と銀箔の丸模様が浮かぶ「一閑塗日月椀」だ。今や「模倣品が溢れる」という状態を通り越し、漆茶碗のスタンダードといっても過言ではないだろう。今月初めまで横浜美術館で開催されていた『村上隆のスーパーフラットコレクション 魯山人からキーファーまで』で初めてオリジナルを見た、という人も多いのではないだろうか。
温度調節が徹底されたショーケースの中、上から注がれるライトの光に照らされた金箔の淡いきらめきや、織部釉のツヤは確かに美しい。しかし、その上に盛られた刺身や豆腐を見出すのは難しい。今後、魯山人の手がけた器は食を離れ、芸術品になっていくのだろうと、ガラスの向こうで整然と並ぶ「和食の天才」が作った皿を前にそんなことを感じた。
展覧会は魯山人が手がけた作品を、または普段使っている器のオリジナルを、一度に見ることができるまたとない機会と言える。「食器は料理の着物」という言葉を残した美食家の作品を前に、いま一度「和食」について考えたい。