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モンゴル民話『スーホの白い馬』は、小学生のころに読んだ人も多いだろう。主人公スーホと彼が育てた馬にまつわる悲劇で、モンゴルの民族楽器である馬頭琴の由来が語られる物語だ。小学校で読んだ当時、モンゴルの雄大な景色や遊牧民の暮らしの様子がありありと頭に浮かんだことを記憶しているが、当の馬頭琴の音色はこれまで聴いたことがなかった。
巣鴨にある日本で最初のモンゴル料理店、シリンゴルでは、毎晩その馬頭琴の演奏が行われているという。本格的なモンゴル料理とともに堪能する馬頭琴の音色は格別とのこと。実際に訪問してみた。
「おばあちゃんの原宿」巣鴨とモンゴルという組み合わせが面白いが、シリンゴルは1995年創業で、23年の長きにわたって営業してきた知る人ぞ知る店だ。「知る人」のなかには日本で暮らすモンゴル出身力士たちももちろん含まれている。当初は同店が日本で唯一だったモンゴル料理店も、角界でのモンゴル出身力士の活躍がめざましくなってきたころから都内にも増え始めたという。
半地下の店は、アットホームな雰囲気。テーブル席と座敷がある。馬頭琴の演奏は毎日20時ごろから行われている。演奏するのは、同店のシェフ チンゲルト。彼は内モンゴル楽団に所属していたキャリアがあり、出張演奏も行っているベテラン馬頭琴奏者だ。
約30分の演奏では、モンゴルの民謡が5曲披露された。『スーホの白い馬』で描かれていた雰囲気そのままの、雄大さと懐かしさを感じる音楽。馬頭琴は、なめらかなメロディーから馬が駆けるような躍動的な音まで、2本の弦が張られただけの楽器とは思えない多彩な音色を奏でる楽器だ。
客からのリクエストに応え、演奏するチンゲルト(左)
料理は、伝統的なモンゴル料理や同店オリジナルのアレンジメニューを提供している。羊肉の料理が中心で、ニュージーランドから毎週2頭の羊を丸ごと輸入し、自前で解体しさばいているという。
定番は、骨付き羊肉を塩茹でした『チャンサンマハ』(1,500円)。手袋をつけてナイフで肉を削ぐ。モンゴル定番のウォッカ『アルヒ』や、内モンゴルでは乾杯に飲むという『ハルアルヒ』などの地酒が、羊肉の風味と良く合う。
こちらは羊の脳みそを羊肉スープで煮込んだ『羊の脳みそ』(1,000円)。なかなか強烈な見た目だが、味はレバーやあん肝に近い。
『シリンゴルサンド』(1,050円)は、モンゴル風北京ダック。小麦の皮に、羊肉や春雨、玉子焼きなどを薬味とともに挟む。タレはテンメンジャン。
馬頭琴の音色がそうさせるのか、スタッフやシェフの穏やかな人柄がそうさせるのか、店内はここが東京であることを忘れてしまうような、ゆったりとした時間が流れている。巣鴨散策の際は、ちょっとした旅行気分が味わえる同店に立ち寄ってみてはいかがだろう。