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2011年にスタートした、「世界最大級の寺社フェス」こと『向源』。日本文化を体験しながら理解を深めるワークショップなどが多くプログラムされている同イベントは、回を重ねるごとに規模を拡大させてきており、今年は、増上寺、神田明神、そして日本橋を舞台に7日間にわたって開催される。タイムアウト東京では、そんな『向源』ひいては日本文化を、バックグラウンドを問わず広く身近に感じてほしいと、スピンオフイベント『Kohgen Lounge』として、日英のバイリンガル講座を共催している。
先日開催された第3回のテーマは、日本の文化を語るうえで欠かすことのできない「お香(Incense)」。ライブやイベントの香り演出も手がける、創香家の今井麻美子を招き、日本文化に香が浸透した経緯や歴史、日常生活へ香を取り入れるための方法などの手ほどきを乞うた。また『向源』の代表を務める僧侶も参加し、仏事において身を清めるために用いられる「塗香(ずこう)」の使用方法も実演された。
通い婚が通例だった平安時代の都では、相手の顔もおぼつかない夜の暗がりのなかで「香り」は、相手を誘惑するための「声」に劣らず大きな要素だったと今井は言う。そんな実際的な理由も手伝ってか当時の貴族たちは、自分だけの香を競って調合し、その馥郁たる香気を楽しんだ。仏教伝来とともに大陸から日本に伝わった香だが、宗教から離れて「遊び」として香りを発展させたのは日本独自の文化のようだ。
会場では、『向源』の「料理僧」青江覚峰のレシピを再現した料理も振る舞われた。パパイヤなども使用したユニークな精進料理だ
時代は下り、「香道」として高度に洗練された奥行きのある世界を築き、また歌舞伎の舞台でも必ず焚きしめられるなど、身分の差なく親しまれた日本の香。ことほどさように日本文化の根幹にある香だが、しかしながら、香に用いられる材料には日本で採れるものは使われていないという。かの高名な鑑真和尚が作り方を伝えたとされる、そのルーツを考えれば当然のことかもしれないが、タイムアウト東京の外国人記者も驚いていた。
当日は座学だけでなく、実際に文香を作るワークショップも開催された。白檀をはじめ、書道の墨にも使われている竜脳、丁子、桂皮など馴染みのものから、零陵香といった聞き慣れない原材料までが豊富に揃えられ、今井のアドバイスのもと自分好みの香を調合していく。ささやかながらも自分だけの香を手にし、また少し日本の楽しみ方を得た気がする。
2016年4月29日(金)から5月5日(木)まで開催される『向源』では、より本格的なワークショップが予定されている。そのほか、食べることに意識を向ける『暗闇ごはん』や、『お坊さんと話そう』など、普段はなかなか体験することができない100以上の体験型イベントや講義がプログラムされている。ゴールデンウィークは、ぜひ日本文化への理解を深める休日にしてほしい。
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Photos by Alex Shapiro