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2014年に温泉が発掘されてからというもの、ビジネスの中心地、大手町はいまや新宿、有楽町エリアに次いでホテル激戦区として注目の的だ。7月20日(水)に開業した星のや東京も大手町を戦いの場に選んだ。都内の数ある高級西洋ホテルに「日本旅館」というスタイルで戦いを挑む、その覚悟と意気込みを、内装やサービスとともにレポートする。
温泉が「星のや東京」開業のきっかけかと思う人も少なくないだろう。しかしそうではない。温泉が発見される前から「星のや東京」の開業計画は始まっていたという。
「欧米系のホテル運営会社としっかりと戦っていくには、日本旅館で出ていくのが唯一の道」と星野リゾートグループ代表の星野佳路は述べる。現在、日本人の生活様式の変化や西洋ホテルの利便性に押され、 国内の日本旅館のニーズは減る一方だ。この危機を乗り越えるべく、同社は世界のホテル市場で、日本旅館が宿泊施設のひとつのカテゴリーとして市場を獲得することが必要であるとし、日本旅館市場の創造を目標に掲げた。
1980年代にはほとんどの欧米人が生魚を食べていなかったが、いまや寿司は全世界で人気を獲得した。ニューヨークのイエローキャブは日産車になった。このように日本の精神や文化の本質の優秀さを信じ、将来世界中の大都市に旅館が建ち、人々から「快適でおもてなしに溢れているから、今日は日本旅館に泊まろう」という理由で選ばれるようにしていきたい、と星野。そこでまず母国最大都市、東京で日本旅館が戦えることを証明するべく大手町に拠点を置いたのだ。「東京で日本旅館が集客面、顧客満足度、そして収益でも戦えることを照明することが、この星のや東京の使命です」と星野は意気込んだ。
とはいえ、外観こそ江戸小紋をモチーフとしており一風変わった存在感を醸し出しているが、大手町のビル群のひとつ地上17階建てのビルを見上げても本当に旅館体験ができるのだろうかと懐疑してしまう。しかし、都会にとけ込むような造園を通り、青森ヒバの一枚板でできたドアを開ければ、そのもやもやした気持ちも吹き飛ぶだろう。星のや東京オリジナルの着物を着たスタッフが玄関で出迎えてくれ、ゲストは靴を脱いで中に入り、ロビーまでの畳の廊下を進む。
客室は全84室の和室。畳や障子、上質な布団が揃い、ゆったりと寛げる。そして各フロアには「お茶の間ラウンジ」と呼ばれる24時間自由に利用できる共有スペースが設置されており、「日本の佳いもの」を提供している。ゲストはここで毎月替わる季節の煎茶やほうじ茶、菓子、夜はアルコール、朝は和朝食などをすべて無料で楽しめる。ソファで読書をしたり、顧客同士の団らんなども可能で、客室よりも多くの時間を過ごしたくなるような空間を目指している。
滞在中に身の回りの世話をしてくれる女将や仲居というスタッフは星のや東京にはいない。そのかわり「お茶の間さん」と呼ばれる、各地の星のやグループから集まったおもてなしの経験豊富なスタッフが各階に配置されており、お茶の間ラウンジで顧客一人ひとりにきめ細やかなサービスを提供してくれる。
大手町温泉の湯を引いた、旅館最大の魅力である温泉は最上階に位置し、内湯のほかにルーフトップでの露天風呂も楽しめる。また、旅館といえば浴衣を着て屋内外を散策するイメージもあるだろう。「滞在着」と名付けられた特注の浴衣はジャージ素材でできており、着脱も簡単にできるようデザインされている。付近には皇居や神田もあるので、ちょっとした散歩や買い物の際にも快適な浴衣だ。
限りある時間を有効に利用したい訪日外国人にとっては、東京のエンターテインメントを享受しながら、地方に行くことなく日本の伝統的な宿泊体験ができるという一石二鳥の嬉しい宿泊施設だろう。しかし、それ以上に星野は「評価基準はやはり日本の伝統文化が染み込んでいる日本人にあると思っています」と、顧客ターゲットに日本人も含まれることを主張した。星のや東京が、日本人に認められるような旅館であり、西洋ホテル以上に快適で機能的だと選ばれる大手町の顔となれるか、これからの躍進が楽しみだ。
Photos by Kisa Toyoshima