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『リオデジャネイロ パラリンピック』閉会式の引き継ぎ式「フラッグハンドオーバー」を観ただろうか。オリンピックのフラッグハンドオーバーと同じ、椎名林檎などビッグネームのクリエイターが中心になって作られた8分間のパフォーマンスではあるが、出演者一人一人の身体の特徴をいかすような演出が話題を呼んだ。車椅子のダンサーやダウン症のパフォーマーなど、個性豊かな表現者が活躍するこの舞台の成功へ大きく貢献した人物に、ステージアドバイザーを務めた栗栖良依がいる。
10月20日、『六本木アートナイト2016』前夜の六本木ヒルズにて、この栗栖と、2012年『ロンドンパラリンピック』開会式の共同ディレクターを務めたジェニー・シーレイによるトークイベントが行われた。英国グレイアイシアターカンパニー芸術監督であるシーレイは、手話を取り入れた演出などで、ヨーロッパの舞台芸術におけるアクセシビリティの向上に寄与した人物だ。トークイベントでは、リオパラのことをはじめ2人の活動についてが紹介された。特に印象的だったのが、栗栖が提唱する「アクセスコーディネーター」と「アカンパニスト」という役割の存在だ。
パフォーマンスを上演するにあたり、移動中の困難や長期滞在に対する不安は、障害を持つ人にとって軽視できないものだろう。日常生活を送るうえで社会に厳然と存在する障害(たとえば階段、幅の狭い通路など)を苦に感じる人を「障害者」と呼ぶならば、そのバリアを極力取り除くサポートが、パフォーマンスを上演するに際しても欠かせない。舞台の上からではなく、移動中や滞在先でアクセシビリティの観点から作品を支えるのが「アクセスコーディネーター」だ。「アカンパニスト」については、栗栖自身が「伴走者」と呼んでいる。リオの舞台でも、舞台袖が長いスロープになっているため、車椅子では舞台上に登場するだけでもかなりハードな運動量になる。そんなときに隣の「アカンパニスト」が自らパフォーマンスをしながらも、さりげなく車椅子に手を添える。
また、一口に「車椅子の人」と言っても、車椅子を必要とする理由や提供してほしいサポート、そしてできることもまた人によって様々だ。完成したイメージからそのパフォーマンスを実現できる表現者を選ぶのではなく、実際に会ってできることを確認してからでないと演出できない点で、オリンピックとパラリンピックでは大きく異なっただろう。苦労した点でもあるのだろうが、一人一人の表現者と対話を重ねる必要があればこそ、横倒しにした車椅子の車輪の上に乗りくるくると旋回するような、シンプルでありながらも固有の身体を起点にしない限り思いつかないであろうユニークな表現を獲得できたとも言える。
有名なクリエイターや壮絶なアクロバットといったものではなく、一人一人の身体にスポットが当てられていたところに、『リオパラリンピック』のフラッグハンドオーバーが多くの個人の胸を打った理由があるのだろう。栗栖がディレクターを務めるSLOW LABELによるプロジェクト『SLOW MOVEMENT』が、まさにそのような表現に到達している。2015年から上演を重ねている同作が、『六本木アートナイト2016』でも、10月22日(土)の13時30分からと14時30分からの2回にわたり開催される。昨年青山で行った上演については、レポート記事『多様性と調和のメッセージを広めるパフォーマンス SLOW MOVEMENT』も参照してほしい。
『六本木アートナイト2016』では、ほかにも『東京キャラバン』や、『デパートメントH』でも人気のサエボーグによる展示など、注目イベントが数多く開催される。2夜続けての開催となった本年、金曜の夜から楽しむなら島地保武『Solo with』や川口隆夫『TOUCH OF THE OTHER / 他者の手』もおすすめだ。