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日本のフェスティバルが、クラブカルチャー未開の地に進出する。毎年、千葉県南房総のビーチで行われるミュージック&アートフェス『ZIPANG』が、2017年8月5日(土)、6日(日)、ベトナムで『ZIPANG in DaNang Vietnam』を開催する。
『ZIPANG 2017』の様子
2015年に初開催された『ZIPANG』は、アンダーグラウンドで活躍する国内のアーティストのみで出演者を構成し、ユニークな会場演出や細やかな環境整備で年々評判を上げている。なぜここにきて、ベトナムなのか。オーガナイザーの高田がベトナム開催を決めたのは、2017年の3月。「クラブはあるが、EDM系ばかり。しかも誰も踊らない」「日本のDJはまだ知られていない」という現地の状況にも関わらず、「ベトナムで何かをやるなら今しかない」という確信があったという。
「今のベトナムは1980年代あたりの日本のようなエネルギッシュな雰囲気で、平均年齢は28歳ととても若い。今年1月に下見で訪れて、その活気にやられましたね。バイクだけじゃなくて、セグウェイの大群とかを見かけるんですよ(笑)。今回の会場となるダナンの近く、ホイアンという地域には日本人町があったこともあり、ベトナム人は日本の文化に親しみがあり、憧れの気持ちもあるようです。ホーチミンで行われる『ジャパンフェスティバル』には毎年数万人が集まります。
また、彼らは今、インターネットを介した情報収集にとてもどん欲です。社会主義国家ですから、インターネットの規制が緩和されたのはここ10年くらいの話なんですね。だから、外国の文化への好奇心がとても強い。今年の6月に、ホーチミンのThe ObservatoryというアンダーグラウンドなクラブにDJのShhhhhたち日本勢が出演したときも、よくわからないけど日本からDJ来るぞ、ってことで、満員の客が集まった。
ベトナムにはクラブカルチャーってほどのものはまだ無くて、音響の管理やDJのレベルも発展途上。でも、導入されているサウンドシステムは『ファンクション・ワン』(日本の有名クラブなどでも導入されているスピーカーブランド)の最新作が入っていたり、照明やVJシステムもやたら豪華だったりと、混沌としている状況で。そこに我々のコンテンツをぶちこんだら、絶対に面白い反応が返ってくるだろうと。
日本の音楽フェスは今、非常にハイクオリティで、DJも若手含めとてもレベルが高い。業者同士の連携もスムーズだし、仕事も的確。ただ同時に、フェスやパーティーにちょっとマンネリも感じていた部分もあった。ベトナムだと、例えば会場にデコレーションを施すにしろ、専門業者なんていないわけで。日本ではあり得ないことの連続ですが、そこにパーティーをやる初期衝動を感じられるというか。
日本産のモノ、コトへの信頼の厚さがあることと、個人的に感じていた閉塞感をぶち破れる絶好の機会だと確信したことが、開催の動機ですね」
海外に基盤を作ることには、オーガナイザーとして下の世代へ橋渡しをする意味もあるという。
「ベトナム含めアジアは大陸です。香港からベトナム、タイからベトナムに行くのは手軽で安い。ダナンもハブ空港になるみたいだし、10年後にはヨーロッパの国々を行き来して遊ぶのと同じような状況がアジアでも起きる気がしています。 アジアのなかでも、若者の数の多さや国を超えて集まりやすい立地を考慮するとベトナムがもっとも有利。アジアで遊ぶ時代がきたときに 自分たちはどこに立ってるんだろう、ということは考えておくべきですよね。ダナンがイビザやクロアチアのようなパーティーの聖地になる可能性は十分ありえると思うのです。ベトナムに『サマソニ』みたいなマスなイベントができて、そのサイドステージみたいな位置でうちらが日本のアンダーグラウンドなテクノやハウスを紹介する、というような状況が理想ですよ。うちらにとってはアンダーグラウンドでも、彼らにとってはそもそもがよくわからないものなわけですから。紹介のしがいがある。
今、日本でフェスをやってちゃんと利益が出せるのは、大型イベントだけ。それ以外は、まあ赤字にならなければ御の字、みたいな状況で、夢が無い。フェスやパーティーは作品作りだと思っているので、自分たちが面白いと思ったものを妥協無くやって、それで食っていけるという状況が必要で。若者が少ない、酒も飲まない、遊ばないという状態の日本よりも、何か面白いことがあれば飛びついてくる人々のいる場所に行ったほうが良いのではないか、ということで。今回のベトナム進出が後輩のオーガナイザーたちのこれからに繋がれば良いなと」
成熟した日本の音楽文化やコンテンツが真価を発揮できる場所は、どこにあるのか。新天地獲得を狙う『ZIPANG』の挑戦が開く扉は、本人たちが予想するより大きいかもしれない。