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池袋がアニメヲタク、腐女子の街として注目されて久しい。タイムアウト東京でも、これまで池袋のおでかけマップ(英語版)にて、アニメイト本店や執事喫茶を紹介してきた。しかし、ここ池袋にはまだまだディープなスポットがあった。乙女ロードが伸びる東口エリアとは反対の、IWGP(池袋ウエストゲートパーク)がある西口エリアには、東京藝術劇場、立教大学といったランドマークとは別に、雑居ビルの立ち並ぶ繁華街が存在する。その一室に、毎晩アニメソングが鳴り止まないバーがあるのを知っているだろうか。
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『とある魔術の禁書目録』や『赤ずきんチャチャ』、『魔法少女まどか マギカ』のポスター、『けいおん!』のクッション、『鬼灯の冷徹』の手ぬぐいなど、壁から天井、ドアまでアニメのグッズで埋め尽くされた室内。ここは池袋駅西口にあるアニメソング(通称アニソン)専門のカラオケバー、colorfulだ。取材に行った時は、ちょうどワルキューレの『絶対零度θ』を女性客が熱唱中だった。歌に合わせてカウンターの中でシャンシャンとタンバリンを鳴らしているのは、『マクロスF』のランカ・リーに扮したスタッフまなと、同じく『天元突破グレンラガン』のヨーコに扮したユーリの2人だ。
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店のシステムを簡単に紹介すると、まず男性は1時間2,000円、女性は1時間1,400円で飲み放題付き。30分の延長ごとに男性は1,000円、女性は700円が追加される。軽食メニューもあるが、次々と歌われるアニソンとボカロの曲を聞いて歌っていれば、それだけで満腹を味わえる。スタッフに歌をリクエストすることもできるので、その日扮しているキャラクターの曲を歌ってもらうのもいいだろう。恥ずかしさがぬぐえないという人には嬉しいデュエットにも快く応えてくれる。
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本来ならボトルが陳列されているはずのカウンター越しの棚には、ボトルと同じ数だけのフィギュアが所狭しと並んでいる。室内を埋め尽くすポスターもそうだが、フィギュアも大半は筆者が見たことのない作品のもの。そもそも一口にアニメと言っても、そのくくりには『ルパン三世』から『ポケモン』、『君の名は。』まで含まれ、作品は星の数ほどあるのだ。しかし、それでも我こそは歩くアニメ辞典だと名乗りをあげるなら、入店後はまずスタッフの扮しているキャラクターと、棚にかかったリクエストボードをチェックして、今日のセットリストを決めたい。ボードにはスタッフである2人からのリクエスト曲が書かれており、この日のユーリのリクエストは、『キルラキル』や現在放送中の『リトルウィッチアカデミア』を制作するアニメーションスタジオ、Triggerの曲。そしてまなのはワルキューレの曲だった。
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筆者も取材に備え、歌えるアニソンを探すべく中学時代に愛用していた『ウォークマン』のプレイリストをディグることにした。『D.Gray-man』や『とある』シリーズのサウンドトラックが流れてきたときには、自らの黒歴史を思い出し、経験したことのない胸の痛みに襲われたが、どんな趣味嗜好でも肯定してくれるのが、このcolofulという店だ。アニソンが分からないというカメラマンがセレクトした『忍たま乱太郎』の『勇気100%』も、筆者が選んだ『D.Gray-man』の1期のオープニング曲『INNOCENT SORROW』も、スタッフをはじめ同席した客も一緒になって絶賛してくれた。『名探偵コナン』の名盤、小松未歩の『謎』を大学の後輩と行ったカラオケで歌った際、「知らない」と一蹴された筆者からすれば、「これぞ名曲」「超懐かしい」といった言葉を返してくれる空間は天国だった。
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一方、同行したスタッフはアニメ『けいおん!』の『ふわふわ時間』を選曲。コールを浴びながら熱唱する姿を見て、これは昨今の「1人焼肉」や「1人カラオケ」といった「お一人様ブーム」に待ったをかけるに違いないと確信した。取材した日に居合わせた客は全員1人で来店していたが、スタッフと好きなアニメの話をし、ほかの客が歌う曲にはサイリウム片手にコールを送っているのを見れば、決して1人を楽しみに来たのではないことが分かる。「1人カラオケ」や「1人酒」といった言葉で片付けてしまうのは違う。コンサートなどで観客とアーティストが一体となって音楽を楽しむように、好きなものを肯定し一緒に楽しめる場が居心地悪いはずがない。秦基博による『ドラえもん STAND BY ME』の主題歌『ひまわりの約束』や、Radwimpsの『君の名は。』の挿入歌だって、立派なアニソンだ。カラオケでレスポンスがほしかったり、誰かと好きなアニメの話をしたいなら、勇気を出してcolorfulの門を叩いてはいかがだろう。
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