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この夏、瀬戸内国際芸術祭2016で観るべきアート

テキスト:
Kisa Toyoshima
Photographer, Time Out Tokyo
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2010年から始まり、2016年で3度目を迎えるトリエンナーレ『瀬戸内国際芸術祭2016』のテーマは、「海の復権」。第1次産業の衰退やグローバリズムによって個性を発揮できず力を失っていた瀬戸内の島々は、アーティストの作品制作や展示に地域全体で関わることで島の個性や特徴を再発見し、活気を取り戻しつつある。この夏、アートをきっかけに瀬戸内の美しい島々を訪れて、未来の日本の豊かさは経済成長率の高さではなく、日々の些細な暮らしや新たな価値のなかにあると改めて感じた。瀬戸内の島々には「便利さ」こそないが、豊かさがある。都会の忙しさを忘れて、のんびりと船やバス、自転車や徒歩でアートの祭典を散策したい。今回は2016年7月18日(月)から9月4日(日)にかけて開催される夏会期の見所となる、女木島、男木島、豊島、犬島、小豆島の注目すべき作品を紹介しよう。

・女木島

高松港から男木島へと向かう間に位置する女木島は、鷲ヶ峰山頂近くに洞窟があり、鬼が住んでいたという言い伝えから、『鬼ヶ島』の異名を持つことでも有名。島ではバスで移動しよう。島中心部に設置されている大竹伸朗やカオス*ラウンジの作品はもちろんだが、今回は鷲ヶ峰を越えて、芸術祭に初参加する小さな漁村、西浦に設置される作品に注目したい。

 『西浦の塔(OKタワー)』

タイの作家、ナウィン・ラワンチャイクン+ナウィン・プロダクションの作品、『西浦の塔(OKタワー)』は、バベルの塔をイメージして作られた。西浦の住民の肖像などが映画看板風に外壁に描かれており、塔内部を登ってゆくと、西浦の住民にインタビューした際の音声がかすかに流れてくる。西浦は女木島中心部からは山を挟んで反対側にあり、定期船も西浦漁港には泊まらないため足を運ぶのは少々手間だ。そんな女木島のなかでも特に閑散とした高齢者ばかりの小さな村に、ナウィンは大きな街の象徴でもあるタワーを建てた。塔壁面に描かれた肖像や古い写真の絵は、「OKはどこにある?何がOK?」と問いかけてくる。塔の上から瀬戸内海や西浦の風景を見渡せば、都会で忘れがちな価値観を思い出せるかもしれない。

 かつて島で利用されていた廃バスも装飾

また、女木港の近くでは、「平尾成志×瀬ト内工芸ズ。」と、香川県盆栽生産振興協議会による、『feel feel BONSAI』も開催。伝統を守りつつも盆栽の新しいイメージや未来像を表現していた。春会期とは展示内容も変化。リピーターは盆栽の成長を感じることもできる。

 『feel feel BONSAI』

・男木島

男木島には、1957年公開当時日本でブームを巻き起こした映画『喜びも悲しみも幾歳月』の舞台となった、男木島灯台がある。男木港のすぐそば、外観を彩るフレネルレンズが目印の、イム・ミヌクの作品『Lighthouse Keeper』は、映画で語られた物語と島民の生活にインスピレーションを得て、男木の灯台守が住んでいたという空き家を幻想的な空間に作り上げた。1階では島民から集めたという漁具や生活具が仄暗く光り、2階では夜の冷たい瀬戸内海を灯台が妖しく照らす。島民の様々な「記憶」をもとに灯台守の夢を表現し、記憶を再稼働させる装置となった。

 『Lighthouse Keeper』

同じく男木港の近くでは、アーティスト集団の昭和40年会による、『昭和40年会男木学校』が前回の芸術祭に続き開設される。昭和40年会とは、会田誠、有馬純寿、大岩オスカール、小沢剛、パルコキノシタ、松蔭浩之が結成するグループ。かつて旅館だった場所で展示やワークショップ、滞在制作などを行う。

 『昭和40年会男木学校』入口

 2015年8月1日(月)から8月25日(木)ごろまで、この部屋で会田誠による滞在制作も開催予定

・豊島

豊島は瀬戸内の中でも直島と並ぶ人気を誇る島。豊島美術館を筆頭に観るべき作品はたくさんあるが、中でも視覚と嗅覚と味覚を刺激する作品が、ケグ・デ・スーザの『豊穣:海のフルーツ』と『豊穣:山の恵み』だ。『豊穣:海のフルーツ』では、実際に使用されていた海苔の養殖網に、島民から集めた地元特産品の海苔を縫い付け、トンネルを作り上げた。海苔を外で縫い付けている際、外気や太陽に晒されて変色したピンクや紫色の海苔はまるで、ステンドグラスのよう。作品に近づくだけで香ってくる豊穣な海の香りは、トンネルの中に入るとより鮮烈になる。『豊穣:山の恵み』は海苔トンネルの中を進むと自動販売機で地元の食材と島民が書いたレシピカードが買えるというもの。ぜひ作品の一部を持ち帰りたい。

 『豊穣:海のフルーツ』

 『豊穣:山の恵み』にて購入できるレシピカードと食材

豊島で急な山道を登る覚悟があればぜひ、クリスチャン・ボルタンスキーのインスタレーション『ささやきの森』を訪れよう。400個の風鈴が風になびき、かすかな音を奏でる美しい雑木林だ。風鈴の短冊には、鑑賞者の大切な人の名前を記すことができる。

 『ささやきの森』

豊島で作品巡りに疲れたら、休憩がてら立ち寄りたいのが、Soup Stock Tokyoの経営などで有名なスマイルズによる作品『檸檬ホテル』。ホテル内では常にカップルで行動。茶目っ気たっぷりの音声ガイドに導かれて大人の青春ツアーをこなし、最後に「ほほ檸檬」をさせられる。「ほほ檸檬」については、行ってのお楽しみだ。檸檬の物語に導かれた後は甘酸っぱい気持ちで『食べるレモンサワー』を飲もう。ホテルは予約すれば1日1組に限り泊まることも可能。

 『檸檬ホテル』入口

 『檸檬のお洋服』を土産に買って、家にあるレモンに着せてあげよう

・犬島

犬島では、キュレーターの長谷川祐子がアーティスティックディレクターを務め、建築を妹島和世が手がける『家プロジェクト』とともにMuDAやニブロールなどによるパフォーマンスイベントが充実。徒歩1時間程度で島全体を廻れてしまうので、芸術祭を訪れる際は立ち寄るべき島となっている。石切や銅の製錬の産業とともに発展し衰退した犬島は、新たにアートで「成長する島」としてよみがえった。ほかの島ではどことなく「終末」といったキーワードも想起せざるを得ない、切なげな作品も多いなかで、犬島のアートに感じるのは、産まれたての瑞々しい生命力と透明感。島ののどかな風景のなかに異質ながらもその透明感で共存できてしまう妹島和世の建築や若手日本人作家たちの作品は、「桃源郷」をコンセプトに作られている。島全体を美術館と見立てて廻れるようになっているので、順序よく鑑賞しよう。

名和晃平『F邸/Biota (Fauna/Flora)』。生命の誕生を想起できる

中央の子どもは前回の芸術祭からかなり大きくなったそう。今後も長期的に成長する

 

 淺井裕介『石職人の家跡/太古の声を聴くように、昨日の声を聴く』は今年7月、島内部から『家プロジェクト』の最後に訪れる海岸線にまで広がった。海へと飛び出して行く生物を見つけよう

 荒神明香『S邸/コンタクトレンズ』ではレンズを通して犬島の風景が変容する

 荒神明香『A邸/リフレクトゥ』

 下平千夏『C邸/エーテル』。ここで光を浴びながら休憩すると気持ちがよい

 

 小牟田悠介『I邸/プレーンミラー/リバース』。建物を取り巻く犬島の光景を室内に取り込んでいる。I邸は秋会期からはオラファー・エリアソンのインスタレーションに新しく変わる

 美しい庭も作品の一部。緑豊かな島全体に、独特の透明感を持つ作品が点在する不思議な光景は、まさに、船で行ける小さな桃源郷のよう。このような展示はまず、小さな犬島でないと作れないだろう

他者や物体、大地と激しく身体を衝突させるパフォーマンス集団、MuDAによる『MuDA 鉄』も見逃せない。2016年7月29日(金)〜31日(日)に開催予定。チケット発売中

・小豆島

小豆島といえば、オリーブや醤油、素麺など、食の特産品が多いことで有名。普段から観光客の数も少なくない。アートの設置エリアは前回の芸術祭開催より大幅に拡大され、各港に新作も増えた。今回は岡山から直通の船が出ている大部に新たに設置された作品を紹介したい。京都精華大学大学院に在籍する若手の作家、竹越耕平の『小豆島の木』は、古いクヌギの切り株を2ヶ月かけて島民やボランティアとともに掘り出した作品。本来クヌギの根はまっすぐに主根が伸びるというが、小豆島は粘土層の地層があるためか、根は横に大きく広がっていたという。普段地中に埋まっている根を見上げるという不思議な体験とともに、小豆島の年月を感じられる迫力の展示となっている。

 『小豆島の木』

林舜龍の作品『国境を越えて・潮』は、大部の海岸に196体の子どもの像を設置。海に消えた子どもをイメージし、196の数は日本が承認する世界の国の数を示す。子どもの身体には各国の首都の座標が記されており、砂や砂糖でできた像は雨風や潮によって徐々に風化。最後は薔薇の花が頭部に姿を表すはずだ。

 『国境を越えて・潮』

また、小豆島では2013年より、福田地区とアジア諸地域がつながるプロジェクト『福武ハウス-アジア・アート・プラットフォーム 2016』を開催している。旧小豆島町立福田小学校を会場とした『福武ハウス』ではアジアの作家たちによる様々な作品が展示されていた。イベントも開催予定だ。

芸術祭の夏会期は、2016年9月4日(日)まで。夏会期の会場は、直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、高松港周辺、宇野港周辺となっている。

『瀬戸内国際芸術祭2016』の詳しい情報はこちら

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