[title]
天狗食堂
値段:¥¥
音量:★★★★
照度:★★
この一杯&一品:ハイウーロンと餃子
定番スポットや老舗バー、注目の新店まで、魅力的なミュージックスポットを、店主、スタッフがセレクトしたミュージックプレイリストとともに紹介する連載企画『TOKYO MUSIC BOX』。
今回は三軒茶屋で最もディープなDJバー、天狗食堂を紹介。今年9年目を迎える同店だが、週末は深夜から早朝まででは収まらず、昼すぎまでぶっ続けで営業する、ハードな遊び人と飲んべえたちの終着駅である。
店内奥には良い感じにラフなDJブースが。DJは基本的に平日も含め毎日入っており、ジャンルもディスコ、レアグルーヴ、ワールドミュージックからハウス系までと幅広い。アニバーサリーイベントではDJ NORIが出演したりと、大御所が登場することもしばしばある。DJバーにしては珍しく、踊れるスペースがしっかりとあるのが嬉しい。
店主の千田顕一郎は、1990年代のクラブカルチャー最盛期に青春時代を過ごした世代。秋田から上京した大学時代から20代半ばまで、今はなき青山MIXをはじめとするクラブで夜遊びに明け暮れたという。「大学に入ってからレコードとかを買い始めて、仲間と渋谷のクラブでパーティーをしたり。青山MIXは敷居の高い箱でしたが、そこでレギュラーパーティーをやっているDJの鞄持ち的なこともやったり、照明をやったりしていました。やっと、翌月からオープンの時間にDJブースに立たせてもらえることが決まって、やった!と思った矢先に、青山MIXが閉店してしまって(笑)。それが2005年くらい。『Body&Soul』が盛り上がってた時期で、俺も買ってるレコードはハウス寄りのものが多かったかな」。
同店を開く以前は都内でカレーのキッチンカー営業やケータリングを生業にしていたが、2007年に独立を決意し、三軒茶屋で同店をスタートさせた。泥酔客だろうが来る者は拒まない千田のスタイルが成立するのも、三軒茶屋という土地柄ならではだという。「ここ数年で、世代的に家庭を持ったりで平日も朝まで飲みに来てくれるような常連さんは減ってしまいましたが、音楽好きはもちろん、最近三軒茶屋に引っ越してきたお客さんとか、ほかの店の店主が自分の店の酔い潰れた客を預けに来たり(笑)。多分、普通の店だったら止めさせることも、俺は止めない、っていうか俺が率先して乗っかっちゃったりするんで(笑)。まあ、これが渋谷とか新宿だったらめちゃくちゃになっちゃって無理なんでしょうけど。三茶でうちに辿り着く時点で、ある程度お客さんも匂いが近い人が来ているというのはありますね」。
千田が語ってくれた9年間のエピソードの数々は、過激さゆえにここに詳細を書けないのが残念なのだが、とにかく濃い。ここでは、クラブや普通のバーとも違う、アルコールと音楽が同居する空間でだからこそ起こるドラマチックな瞬間があるようだ。「明け方に音楽を聴いて泣き出す人とかいますよ。お客さんが2人くらいしかいなくても、なんかその場にいる全員の波長が合っちゃって、朝日が差し込んで来て、この曲が今かかっちゃって、ジーンときちゃうみたいな。うちの店、日差しがめっちゃ入るんですよ(笑)」。というわけで、今回、彼が作成してくれたプレイリストのタイトルはずばり「朝日が差し込む天狗食堂で聴きたい曲」だ。
「先日亡くなったピート・バーンズに追悼の意を込めて。朝方からまた混み合ってきていろんな人種が入り乱れるなかでかけたい曲です」。
「いつかの朝方ライブ公演を終えたアレックス・パターソンを誰かが連れて来たことがありました。朝方盛り上がってる店内でマラカスを振りながら、昼近くまで遊んで帰っていきました」。
「しっとり気持ちよく踊れる、浸れるハウスクラシックス。My favorite tracks!」。
「ひょんなことから佐藤博氏の娘さんが最近飲みに来るようになった。その娘さんから、この曲は娘を思って作った曲だというエピソードを教えていただきホッコリしました」。
そして後半の5曲、ダニー・ハサウェイやNed Doheny、Kool& the Gang、矢沢永吉、ピンクフロイドは、実際に千田がプレイしたり、同店の朝方にかかって感動した曲たちとのこと。夜遊びの締めに、朝日とともに音楽に包まれたくなったら天狗食堂の扉を開いてみると良いだろう。