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障がい者や高齢者、子ども、子どもを育てる親、LGBT、外国人など、マイノリティを含むすべての人が楽しめる都市・東京を実現するためにスタートしたプロジェクト「OPEN TOKYO」。タイムアウト東京と日本経済新聞社クロスメディア営業局が共同で制作、2017年3月30日に創刊したタブロイド紙『日経マガジンFUTURECITY』(日本語)は、この「OPEN TOKYO」をテーマに、小池都知事やパラリンピアンの谷真海へのインタビュー、東京をひらく10のこと、現地取材によるオープンロンドンに学ぶ、などを収録した一冊である。
同紙の発行に続いて、2017年4月21日には各分野の有識者たちが意見を交わすトークセッション『日経マガジンFUTURECITY セミナー OPEN TOKYO Talk』が、東京ミッドタウンにて開催された。登壇者は、徳田誠(三井不動産 広報部長)、梅澤高明(A.T.カーニー日本法人会長)、栗栖良依(SLOW LABEL ディレクター)の3人のほか、総合MCに平井理央(フリーアナウンサー)、そしてプロジェクトから、白川美紀(日本経済新聞社オリンピック・パラリンピック推進室長)、伏谷博之(タイムアウト東京代表)が参加した。
第1部の冒頭、伏谷博之から、「OPEN TOKYO」の由来や概要が語られた。本プロジェクトのきっかけは、タイムアウトロンドンが2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックの際に公式トラベルガイドとして発行した「OPEN LONDONガイド」だった。
タイムアウトロンドンが、バリアフリー環境の整備などに取り組むNPO団体らと連携しながら制作した同誌は、交通機関から宿泊施設、飲食店にいたるまでのアクセシビリティ情報を取り上げたもの。ここにある「OPEN」の概念を東京でも引き継ぎ、単にガイドブックを作るだけでなく、「2020年から先へのレガシーとできないか」と感じた伏谷のなかで生まれたのが「OPEN TOKYO」プロジェクトの構想だった。「OPEN TOKYO」とは日本語でそのまま「東京をひらく」ということだが、「ひらく」には「開く(壁やバリアを取り払う)。披く(世界に披露する)。啓く(啓発する)。拓く(未来を切り拓く)。」の4つの意味が込められている。
日本経済新聞社の東京大会のスポンサー活動をマネジメントしている白川美紀は「グローバルでは当たり前にできていることが、日本の社会ではまだまだできていないこともたくさんある。オリンピック・パラリンピックの開催を機に、変化に繋がるかもしれない。ロンドンパラリンピックは、スポーツイベントとして盛り上がっただけでなく、障がい者スポーツを応援することで、社会には健常者もいれば障がいを抱えた人もいるという事実を自然に受け入れることを実現した。同様のことを東京でも実現するためにメディアの立場でできることはなにか。」を模索するなかで、「OPEN TOKYO」を通じてできることがあるのではないかと感じ、伏谷とともに『日経マガジンFUTURECITY』創刊へ向けて動き出した。
第2部のトークセッションでは、外国人の雇用や福祉、街づくりなど、多様な現場の第一線に身を置く登壇者を迎え、それぞれの分野でいかにして東京をひらいていくのか、そして2020年以降のレガシーに何を残していくのかについて意見が交わされた。世界有数の経営コンサルティングファームであるA.T. カーニーの日本法人会長を務める梅澤高明がまず指摘したのは、いまだに外国人にとって日本で仕事を見つけ、暮らすことのハードルが高いという問題点。
「例えば日本への留学生が、卒業後に日本で就職して長く住みたいと思ってもハードルが高い。欧米では、留学生に卒業から就職まで2年程度の猶予期間を与えている国も多いが、日本では卒業後すぐに就職できなければ帰国してください、という状況。また日本企業の年功序列の人事システムも、外国人のニーズや時間軸にまったくフィットしない。また、不動産をひとつ契約しようにも、日本国籍の人に限る、という場合がまだたくさんある。こういったことはいい加減やめにしないといけない。国の制度というよりは、企業の制度や人々のマインドを変えていくことが、これからすべきことではないか。
また、ロンドンでは今、ITやデザインという分野が非常に盛り上がっていて、様々なイノベーションの最先端を走っている。その現場で仕事をリードしている人々は、半分以上が非英国人だ。東京はロンドンよりも多くの外国人留学生を抱えているにも関わらず、イノベーションのリーダーを非日本人がやっている、という会社がどれだけあるのか。スタートアップを見ていても、やはり日本人中心でやっている。これは本当にもったいないことをしている。問題は彼らにあるのではなく、優秀な外国人を受け止めきれない日本人と日本企業の側にある。有望な留学生が卒業後も日本に残り、産業や社会の主力として働いてもらえる国に、これからの数年間で進化できるか。外国人がまだ日本に関心を持ってくれている今が勝負だ」。
時代にかみ合っていない制度や意識のために取り逃がしている、多くの魅力的な人材がいることを指摘した梅澤。対して、東京の街づくりを担う三井不動産の徳田誠は、企業としてマインドの部分の変革を実感している胸中を語る。
「ディベロッパーとして言えるのは、かたちとしてのバリアフリーはもうかなりできてきている。私自身、この数年で障がい者の方たちと触れ合う機会があったなかで、彼らは何も特別な存在ではなく、普通の人々で、身近な存在なんだという感覚を持つことができた。マインドを変えるには、触れていかなくてはいけない。現に、東京に外国人が増えて、彼らに対して昔は感じていた違和感が、今はもう無くなっている。触れる機会を作ることで、貢献したいと思っている。
昨年、日本橋で行われたリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックのメダリスト合同パレードで、印象的だった出来事がある。パレードはかなりの混雑が予想されていたので、車椅子の方たち専用に、ブルーシートでエリアを確保したが、残念ながら10分の1くらいしか埋まらなかった。組織委員会の方たちがせっかく設置したにもかかわらず、障がい者の方たちにとっては行きづらいものだった。ただ、来場してくださった車椅子のお客さまは、こんなに間近でパレードが見られるとは思っていなかったので本当に嬉しい、と言ってくださった。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの時には、障がい者の方たちに、何の心の負担もなく、来て楽しんで頂けるようにしたいと思っている」。
整備した環境と当事者をいかに結びつけるか、というところまでが想定されて、初めてバリアフリーな環境が完成する。設備にすべてを一任するのではなく、我々が少しの気遣いを持つことで、設備を生きた環境にする媒介とならなくてはならない。
多様性と調和をメッセージに掲げる「スロームーブメント」を提唱し、国内外で活躍するアーティストと障がい者を繋げた市民参加型ものづくりの活動で知られるNPO法人SLOW LABELのディレクターを務める栗栖良依からは、ハード面よりもソフト面、心のバリアフリーの重要性が語られた。
「障がい者という言葉を聞くと、多くの人は車椅子の人や義足の人、杖をついている人を思い浮かべてしまいがちだが、障がいというのは本当に多種多様。見た目には見えないものを抱えている人もたくさんいる。そういった人々すべてに対しての簡単な解決策というのは無いが、隣に居合わせた人が親切であれば解決することも多い。逆に、何らかの身体機能に障害がある代わりに、別の機能や知覚が一般的な人より発達している人も多い。そういった能力をクリエイティブにいかしていくことで、もっと豊かでワクワクする社会になるはず」。
ここで伏谷が引き合いに出したのが、先述のタブロイド紙に収録されている「グローバルシティ・オープン度比較」という、東京とロンドンをいくつかの項目で比較した記事。観光客や外国人留学生の数、女性が労働人口に占める割合やゲイバーの数などが羅列される中に「バリアフリー対応の地下鉄駅の割合」という項目がある。東京は90%、ロンドンが26%と、一見すると東京のバリアフリーに対する先進性が読み取れるが、伏谷はこの数字にこそ東京が抱える課題が隠れているとする。
「今回、このタブロイド紙を作るにあたって、ロンドンのエディターに「東京をひらく10のこと」を見せた時に、なぜこれが必要なのか?と言われた。当たり前のことしか書いてないではないか、と。そこで初めて、意識の部分で大きな差があるのだなと感じた。彼らは、幼い頃から教育や日々の暮らしのなかで、バリアフリーだとか、インクルーシブという感覚を身につけている。それが、大人になってからの活動や、日々のちょっとした声がけに繋がっている。
ロンドンは、バリアフリー対応の地下鉄駅の割合が、東京との比較でも圧倒的に低いにも関わらず、ロンドンオリンピック・パラリンピックでは、その対応を高く評価された。対して東京はどうか。パラリンピアンの谷真海さんのインタビュー(同タブロイド紙)に、こんな一節がある。『いくら目に見える段差をなくしても、制度や仕組みを整えても、人の心は簡単には変わらない。だからこそ、東京で開催されるパラリンピックが重要な意味を持っています。パラリンピアンの姿に感動し、熱狂することは、きっと障がいを持つ人々への意識を変え、心のバリアを取り払う絶好の機会になるはずです』。地下鉄の駅の90%がバリアフリー対応できている都市にも関わらず、谷さんがこのようなメッセージを強く語らなければならない、というのが今の東京の状況だろう」。
トークセッションの会場内には、登壇者の発言をリアルタイムにテキスト化する『LiveTalk』(富士通)が設置されていた
障がい者と様々な分野のプロフェッショナルによる現代アートの国際展『ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017』の総合ディレクターである栗栖も、パラリンピックが持つ可能性について期待を寄せる。「『ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017』に関してよく言われるのが、なぜ障がい者だけなのかということ。国籍の違いやLGBTといった視点もあるのに、なぜ障がい者だけを取り上げるのかと。これについては、現場での実感として、障がい者に対応できる環境を整えると、あらゆる人にとってアクセス可能になるということがある。目が見えない、耳が聴こえない、歩けない人々を想定することで、子どもや高齢者、外国人にとってもアクセスしやすい環境になる。障がい者を支援しよう、ということではなくて、彼らの視点に立つことで、あらゆるものがひらかれる。そういう意味で、パラリンピックは非常に良い機会だと思う」。この栗栖の指摘と同様のことを、「ソーシャルデザイン」をキーワードにしたラジオ番組『J-WAVE WONDER VISION』(81.3FM)でナビゲーターを務める平井理央も、実感したことがあった。
「2016年のリオパラリンピックの会場で感じたのは、バリアフリーの世界というのは、色々な人がいても良い空間だということ。そういう空間は、普段、段差や階段に不便を感じていない私たちにとっても、とても気持ちの良い空間なのだなと感じた。そういったことが、レガシーとして東京に残っていくということになれば、それは素晴らしいことだと思う」。
2020年まで残り3年ほど。「今年着手していなければ2020年には間に合わないと思っている。とても重要な年だ」と栗栖が述べた通り、アクションを起こすためのタームとして3年は決して長い時間ではない。では、何ができるのか。梅澤は、「東京と日本にとっての正念場はポスト2020だと思っている。その一方で、これからの3年間は貴重なチャンスでもある。国と東京都の両方に強力なリーダーシップがあり、まじめな日本人や日本企業は、2020年という締め切りがあると、それまでになんとか頑張ろうと動くからだ。2020年までに終わらせるべき仕事と、ディベロッパーの大型再開発案件のように足の長いプロジェクトを上手く組み合わせながら、2020年の先にどんな東京を残せるか。それにチャレンジしていきたい」と、希望を込めて語った。
また、伏谷は「これからの3年、多くの外国人が東京を訪れる。日本の文化を体験してもらうのはもちろんだが、超高齢化社会や多様性社会の実現など世界の課題を最新のテクノロジーやサービスにより先んじて解決し、それを街中でどんどん外国人に体験してもらう。そして、帰国後に、うちの国にもあの技術やサービスが欲しい、と言ってもらえるようにしたい。ロンドンでは、オリンピック・パラリンピックの運営チームとは別に、開催後にどうレガシーを残すのかに取り組むプロジェクトを並行して立ち上げ、成功に繋げた。東京でも同様の取り組みが必要だろう。2020年は、オリンピック・パラリンピックの成功は当然として、それを最大の機会と捉え、東京の創る未来を世界に伝えるショーケースにしたい」 と、「OPEN TOKYO」の意義を改めて強調した。
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