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切れ長の目にニヤリとした表情。少し不気味さをも感じてしまうこちらの正体は、名古屋市の南区笠寺に伝わる『笠寺猩々』だ。「陽気な酒好きの神で親孝行のシンボル」とされている猩々は、中国の想像上の動物で福をもたらすといわれている。祭りでは、約3mもの身長を持つ猩々がこの容姿で子どもたちを追いかけるそうだが、大人でも恐れてしまいそうな猩々を見て子どもたちがケラケラと笑っているというのも驚きだ。このような日本各地の49もの郷土芸能が詰まった写真集が2015年12月25日(金)に発売される。タイトルは『The Folk』。
豊かな自然を持つ日本では、昔から米作を中心とする農業や島国ならではの漁業を中心とした生活を人々は営んできた。1本1本丁寧に植えた苗を春から秋にかけてじっくり育てていくのに、田が氾濫してしまったり、水不足となってしまっては米が育たない。そんなときに、先人が祈りを込めて行っていたのが郷土芸能。すべてが稲作に関わるものではないが、『田遊び』や『田楽』、『田植踊り』など、稲作に関わるものが多いのは、先人の豊作への切実な気持ちの表れだろう。
こうした経緯で生まれ、そして現代まで歴史を重ねながら大切に伝承され続けているこの郷土芸能は、まぎれもなく日本ならではの文化。そして、それぞれの地域によって踊り方や装束が異なるこの郷土文化に興味を持ち、魅せられた写真家が西村裕介だ。この写真集にも、彼が全国をまわって撮りためた写真たちが収められている。
自身が感じた感動や猛々しい迫力を封じ込めるため、祭りや芸能が行われている様子を写すのではなく、あえて黒幕を貼り、その前で撮影を行ったという西村。まさしくその思惑通りで、迫り来る迫力からは恐怖さえも感じる。また、まるでアート作品のようでありながらも、その土地に実際に足を運び、その土地の人々を収めた写真だからか、不思議なくらいにそれぞれの地域の色やリアルさが伝わってくる。
しかし、過疎化や少子化問題などで、これまで困難を乗り越えて受け継がれてきた伝統芸能が失われつつあるのも現実。この写真集は、日本の美しい文化の一つである伝統芸能を多くの人に知ってもらいたいという想いや、この写真集を通して地域の力になりたいという彼の想いが込められた一冊だ。
日本に住んでいても、郷土芸能というものに触れる機会はあまり多くないのではないだろうか。獅子ひとつをとっても地域によってはまったく異なり、知れば知るほどとても奥が深く興味深いものだ。ぜひ一度この写真集を手に取って、様々な郷土芸能に触れてみてほしい。また、最後にはそれぞれの芸能の解説があるので、写真と照らし合わせながら読んでみるとより一層楽しめるだろう。こちらの解説は英語でも表記されているので、日本人のみならず日本文化に興味のある外国人にもおすすめだ。