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長方形の枠内に収まる、小舟を飲み込まんばかりに荒れ狂う波や、画面いっぱいに描かれた歌舞伎役者、武士たちの前に暗闇から姿を現した巨大な骸骨。その臨場感溢れる大胆な構図で、浮世絵は人々を魅了してきた。B4ほどのサイズにもかかわらず、古くはゴッホやモネが、そして現在も多くのアーティストを惹きつけてやまない。もしあの波が、骸骨が動き出したらと、想像したことはないだろうか。1月28日(土)より、ビジネスの町、日本橋茅場町で浮世絵の世界をデジタルアートで楽しむイベント「スーパー浮世絵 『江戸の秘密』展」がスタート。ここではその内容の一部を紹介しよう。
歌舞伎役者の片岡愛之助の「べらぼうにエモい」というセリフで迎えられる入り口を抜ければ、せわしない掛け声の飛び交う江戸の町に到着だ。アメリカ、ボストン美術館が所蔵する『スポルディングコレクション』は、世界で最も美しい、つまり保存状態がいいとされている浮世絵のコレクションだ。その超高精細デジタルデータを活用し、スクリーンに再現された街並みや江戸っ子たちの着物は、柄や髪の毛1本まではっきりと見ることができる。
歌舞伎座エリアでは『本朝廿四孝(ほんちょう にじゅうしこう)』のなかの、「筍堀」という演目を演じている場面が再現されている。座席から思い思いの表情で舞台を見つめる観客を見て、一緒に屋号を叫びたくなった人は次のエリアへ急ごう。写楽が描いた人気歌舞伎役者の顔が次々と表示されるパネルが並び、ナレーションを務める片岡愛之助があわせて屋号を叫んでいる。見栄を切る、いわゆるキメ顔の歌舞伎役者の浮世絵が次々と映し出されれば、写楽の作品を江戸っ子たちがこぞって買い求めたというのもうなずけるだろう。
階段で次のフロアへと下ると、不気味な音とともに現れたのは1mはあるかと思われる骸骨だ。囚われた姫を助けに来た武士たちを今にも食べようと口を動かしている。近年人気急上昇中の歌川国芳の作品だ。液晶画面でできた二曲一隻の屏風に表された作品は、作品には、ガラス越しに紙の作品とはまったく異なる印象を受けるだろう。そのほか、四谷怪談のお岩や、目をギョロギョロと動かす提灯のお化けなどが、おなじみの「ヒュードロドロ」の音とともに登場する、ホラーゾーンは必見だ。
街行くサラリーマンたちは、まさかこの茅場町の廃ビルでこんな展覧会が開催されていようとは夢にも思わないだろう。日本橋茅場町は江戸時代、江戸城のお膝元、江戸湾へ続く水路の拠点として人や物が行き交う賑やかな場所だった。明治期からは証券、金融の街として今日知られるような顔を持つようになるわけだが、江戸時代のような文化と人が行き交う街という性格を甦らそうと立ち上がったのが「日本橋 兜町・茅場町アートプロジェクト」だ。『スーパー浮世絵 江戸の秘密展』は、その一環として開催された。江戸時代をそのまま再現するのではなく、新たなテクノロジーを使って古いものの魅力を再発見する。江戸っ子が遊女に謡や三味線の腕を求めたように、様々な顔を持つ町に生まれ変わろうとしている茅場町に注目したい。