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聴覚障がいを持つアテンドに導かれて体験する「音のない世界のエンターテインメント」が、日本に初上陸した。参加者はヘッドセットを装着して完全に音を遮断された状態で、約90分間アテンドとともに音のない部屋を巡る。LUMINE 0で開催中の『ダイアログ イン サイレンス~静けさの中の対話~』を体験してきたので、90分で何をするのかという詳細は伏せつつ、感じたことを記したい。
1. 誰とでも対話はできる。
このイベントで行うのは、決して耳が聴こえない人の疑似体験ではない。手話を学ぶことが目的のイベントでもない。「静けさの中の対話」というタイトルが示すように、参加者は体験中、声を使わずにコミュニケーションをとる方法を考えることになる。聴覚障がいを持つアテンドは、いわば音以外でコミュニケーションをするエキスパートだ。表情や、手や体の動きで理解すること、伝えることをアテンドたちが教えてくれる。言葉をシャットダウンすることで、目の前にいる人を分かろうとする本来当たり前の努力が生まれる。もちろん手話を使って会話ができれば素晴らしいことだが、たとえ手話が使えなくても聴覚障がい者と対話することはできるし、普段接している人々とのコミュニケーションを振り返ることができるだろう。
2. コミュニケーションのために使い切れていない筋肉がある。
発案者のアンドレアス・ハイネッケは記者会見で、「日本で『ダイアログ イン サイレンス』を開催するのは最初疑問に思った」と率直に語った。なぜなら日本人は表情が乏しくボディランゲージを使わないというイメージがあり、声以外で伝え合うことを試みるプログラムが成立するかが心配だったという。リハーサルを行うなかでその心配は杞憂(きゆう)に終わったというが、確かに、筆者含め体験に参加したメンバーはいつも使わない表情や手を動かしたことで、普段はいかに言葉以外の手段を使っていないかを痛感した。
3. 言葉がなくても多くを伝えられる。
タイムアウト東京のカナダ人エディターであるケイラ・イマダはこのユニークな体験に参加し、はっとするようなことばかりだったと言う。彼女は日本語をほとんど話さないが、言葉を使わない以上は、コミュニケーション手段に関してほかの参加者と同じ条件だ。毎日言葉を通して人と関わることが当たり前すぎて、ジェスチャーで物事を伝えるのは難しかったそうだが、一方表情は言葉以上に感情を伝える力があることを改めて実感していた。ほかの日本人参加者と、日本語でも英語でもなく、表情やジェスチャーで分かり合えたことが特別な体験だったと話す。訪日外国人の増加に対応するために、私たちはまずは「言葉」を障壁と考えて、英語を勉強したり、多言語の案内を作成したりということを意識しがちだ。しかし、共通言語を持たない人々と言葉以外でも通じ合えるということ、それは時に言葉で通じ合う以上に特別な時間となり得ることをもう一度意識したい。
開催は2017年8月20日(日)までの期間限定。人気のプログラムなので、気になる人は早めにチェックしてほしい。