ヘラルボニー

インタビュー:松田崇弥、松田文登

福祉を起点に新たな文化を作り出す、ヘラルボニーの挑戦

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知的障害。その、ひとくくりの言葉の中にも、無数の個性がある。豊かな感性、繊細な手先、大胆な発想、研ぎ澄まされた集中力・・・  “普通じゃない、ということ。それは同時に、可能性だと思う。 

福祉を軸に様々な事業を展開するヘラルボニーのホームページには、そんな言葉が綴ってある。20187月に起業したばかりの会社を引っ張るのは、27歳の双子の兄弟、松田崇弥(まつだ・たかみね)と文登(ふみと)だ。自閉症の兄を持つ2人は、幼い頃から、知的障がい者と社会の関わり方について想いを巡らせてきた。そうした背景から、2016年にそれぞれの会社勤めの傍ら、障がい者によるアートを生かした傘やネクタイを販売するブランド『MUKU』をスタート。そのセンスと品質の良さが、世の注目を集めた。現在では、ヘラルボニーとして、同ブランドの運営のほか、障がい者アートを活用するプロジェクトや、福祉についての疑問を語り合う場の創出など、幅広い事業を展開している。自由な発想で福祉の世界に変革を起こし続ける2人に、活動への思いを聞いた。

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ヘラルボニーを起業したきっかけは何ですか。

崇弥:僕らの兄が自閉症だったので、小さな頃から福祉施設や自閉症協会を訪れる機会が多く、昔から福祉に関わる仕事をしたいという気持はありました。『MUKU』は、そうした想いから始めたんですが、続けるうちに、アートだけに留まらず、知的障がいのある人を含めた新しい経済や、ブランディングといった仕組みづくりにも興味が広がっていったんです。ヘラルボニーでは、アートの小売だけではなく、イベント開催や福祉施設のプロデュースなど、広い範囲で福祉にアプローチしていきたいと思っています。

―活動のミッションとして掲げている「異彩を、放て」には、どんな意味が込められているのでしょう?

崇弥:知的障がいのある人は、自分だけの強いこだわりがあったり、不安になると叫んでしまったりと、一見 、普通ではない行動をとることもあります。それはある意味で、彼らの「異彩」。しかし、世間では知的障がいを持つ人に対して、「変わってる」や「普通じゃない」と感じることすらタブー視されているような空気がある。そこで僕らはまず、声を大にして「普通じゃないことは、同時に可能性である」と、言い切りたいんです。“普通”とは異なる感覚を持っているからこその価値を打ち出し、その価値にちゃんとお金もついていくるような、マネタイズの仕組みや構造を作っていく。そうすることで、センシティブな問題として捉えられている壁を、打破していきたい。そんな思いを込めています。

―「普通」とは異なることの可能性を、どのように見出しましたか。

 文登:例えば、僕らの兄は文字を書く時、すごい筆圧で書くので、一文字一文字がロゴのように見えるんです。そうした文字で埋め尽くされた、昔の兄の自由帳や日誌帳を見返した時、改めておもしろいと感じました。たまに、意味はわからないけれど、興味深い言葉が書いてあることもあります。僕らの社名の「ヘラルボニー」も、彼の落書きからきているんですよ。

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崇弥:そういったセンスや、得意不得意も人それぞれで、例えば、『MUKU』にアートを提供してくれているアーティストの方には、字と字をつなげて書くという、強烈なこだわりをお持ちの方もいます。自分の名前も、全部字をつなげて書くので、最初は養護学校の先生もやめさせようと苦心していたんです。しかし、ある日、別の先生がおもしろいと感じて、自由に書いてもらうようにしました。すると、彼の字や絵を繋げて描くものが、アート作品となり、羽ばたき始め、今では『MUKU』でも人気のアーティストです。

―ヘラルボニーでは知的障がいを持つ方々と、どのような関係を築いていますか。

文登:現在、全国各地の福祉施設の方々にアートを提供していただいていて、現地を訪れることもよくあります。知的障がいの方の制作物を展示する、岩手県のるんびにい美術館にいるダウン症の男性とは、とても仲が良いですね。自分のアートが使用された『MUKU』の商品が大好きで、僕らが彼の作品の蝶ネクタイとかを付けて行くと「お前、本当に最高だな」みたいな感じで、肩組んでくれたりするんです。逆に別な人が描いた作品のネクタイを付けてたりすると、「格好悪い」とか言ったり笑。 

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―ヘラルボニーでは、福祉に関わる活動もNPO法人ではなく、ブランディングにこだわり、しっかりビジネスとして展開していらっしゃいます。

崇弥:はい。僕らは、営利企業ですので、もちろん利益を追求していきます。『MUKU』は、販売価格に対し、製造個数分の3%は売れる売れないに関係なく、アートの提供者に還元しています。利益が多いほど、彼らの自立にもつながっていきます。

事業を進めるなかで、大切にしていることは何ですか。

崇弥:僕らはもともと福祉業界の出身ではないので、自分たち独自のルーツやつながりを活かして事業を展開できるのも、僕らの強みであり大事にしていきたい点です。

外部の人に限らず、身内の人がもつ知的障がいに対する考え方や、福祉関係の施設に根付いている常識みたいなものが、彼らの可能性の芽を摘み取ってしまっているのではないかと感じることがあります。実際に、施設入居者の身内の方に「何もできない息子を活躍させくれて、ありがとう」といったニュアンスで声をかけられることも少なくありません。

 文登:知的障がい者は、犯罪者予備軍であるとか、近づくと危険といった考えの人もいますが、それは、十分な知識がなく、イメージから来ていることが多いと思うんです。始めに『MUKU』の事業を思い描いたのも、アートならば彼らの才能が伝わりやすいと考えたからかもしれません。彼らのアートが、障がいについて知るきっかけになればと思います。

特別視は必要ない

―知識があれば、穏やかに見守ることができると思います。

文登:そのためにも、僕らは福祉を、どんどん「エンタメ化」していきたいと思っているんです。「注文を間違える料理店」という法人が、認知症の方が働くレストランを開いていて、そこでは注文を間違える可能性を、事前にお客さんが認識しています。そうすれば、トンカツを頼んだのに、カツ丼が届くといった間違い自体を笑いに変えられる。こうした仕組みを、福祉施設にも転用できないかと思い、今、ホテル ヘラルボニー(HOTEL HERALBONY)という、知的障がいの方々が働く、ホテルや民泊を作ろうとしています。「挨拶はできないが、皿洗いはすごく得意なホテルマン」というように、一人一人の良い所を生かし、できないところもチャームポイントになるような仕組みにしたいですね。 

文登:この施設では、「特別視をしなくてもいいんだ」ということを分かってほしいんです。『MUKU』のアート作品に対して、「知的障がいのある人は素晴らしい才能を持っている」と崇拝される方もいます。しかし、知的障がい者の中にも、絵が得意な人もいれば下手な人もいる。蔑むことに限らず、特別視すること自体が隔たりを生んでしまっているのはないかと感じます。 

ホテルで同じ時間を過ごせば、彼らの普段の生活を、当たり前に生きているんだということを知ってもらえる。間違えれば、笑ったっていいんです。普段、触れ合う機会が少ないからこそ、サービスよりもコミュニケーションを楽しむ場所を目指しています。

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―どちらにオープンされる予定なんですか? 

崇弥:まずは出身地の岩手県にオープンしたいと思っています。あまり使われていない温泉旅館などを買い取れるといいですね。最初の施設がうまくいけば、全国に展開して行きたいです。

―最後に、東京がより多様な人々に寛大な街になるために必要なことは何だと思いますか?

崇弥:そうですね。渋谷でも、ダイバーシティやインクルーシブ社会といった言葉が大きく打ち出されいますが、言葉が独り歩きしているような感覚はあります。実際に障がい者と触れ合う機会もないのに、そうした考えを理解するべきという空気だけが先行している。

これまでのように、知的障がい者が、福祉施設内で就労支援を受けて働くという形だけでは、社会と十分関わっているとは言えません。だからこそヘラルボニー では、アートや新しい福祉施設など、様々な形で、彼らが街に繰り出していくきっかけを作っていきたいです。

クラウドファンディング実施中

リターンは『MUKU』のプロダクト

ヘラルボニーでは、2019年4月2日まで、知的障がい者のアートを施したネクタイやTシャツなどの制作のため、2つのクラウドファンディングを実施中。リターンとして、はじまりの美術館(福島県・猪苗代町)と共創した『MUKU』の靴下やブックカバーが贈られる。詳細は下記から。

「ON」の時間を彩るネクタイ&ソックス|“普通”じゃない、を可能性に。

「OFF」の時間を彩るTシャツ&ソックス|“普通”じゃない、を可能性に。

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