村上隆インタビュー
©︎2023 TAKASHI MURAKAMI/KAIKAI KIKI CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED. COURTESY OF P BLANSCAPE/DREAMSTIME ERROTIN | PHOTO: MENGQI BAO
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「アートは世界を変えられる」、村上隆が語るデジタル時代のスーパーフラット

8年ぶりの大規模個展「村上隆 もののけ 京都」直前インタビュー

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日本が世界に誇る現代アーティストの村上隆が、2024年2月、8年ぶりの大規模個展村上隆 もののけ 京都を開催する。来年で62歳を迎える彼は、「今回が最後の展覧会になるかもしれない」とコメントし、世界中の次作を待ち望むファンを動揺させた。とはいえ今のところは、「アート・バーゼル香港」のような国際的なフェスティバルを飛び回り、パリの「ファッションウィーク」では最前列に座るなど、活気に満ちた存在であり続けている。

村上は時として、世界や社会に対して懐疑的な「アート界の長老」のように見える一方で、若々しい高揚感を漂わせ、新たな地平の開拓に意欲を燃やし、「NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)」やAIチャットボットのような最新技術を受け止める。この二律背反は、2001年に「スーパーフラットムーブメント」を創設し、現代的なアニメや漫画の美学と江戸時代の美術からのインスピレーションを融合させた彼のアートにも反映されている。

2月の個展では、日本美術とポストモダンのポップカルチャーが融合するという。このインタビューでは、同展の舞台裏に迫るとともに、村上の過去と現在、そしてデジタル時代におけるアート界の未来について尋ねた。

※同記事は、2023年12月25日(月)に発行された「タイムアウト東京マガジン」(英語版)30号に掲載された「Takashi Murakami interview on the past, present, and future of art」を翻訳したものである。

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ーあなたの作品は、世界的に非常に高い評価を受けていますね。日本のアートは、どのような側面が世界の観客に響いていると思いますか?

第二次世界大戦以降の日本の文化を正面から受け止め、それと日本の古典絵画のフォームを行ったり来たりし、かつ表現する文法は、西欧式であるという文化の融合具合がちょうど良かったのだと思います。

ー日本人アーティストが、海外でより広く認識されるためにすべき次のステップは何だと思いますか?

日本人アーティストの次のステップは、英語を話せるようになることと、契約書にビビらないこと。弁護士代をケチらないことですね。

ー海外と日本で、展覧会場における違いはありますか?

日本国外の美術館での展覧会は、各所のキュレーターたちの方向性があり、アニメ、漫画などの影響、つまり私が提唱する「スーパーフラット」を非常に大きく取り上げようとしてくれます。

サンフランシスコの「Asian Art Museum」では、日本美術を専門に研究されているローラ・アレン(Laura Allen)さんのキュレーションにより、最新のアイデアと日本の古典との融合が求められました。

日本国内では、スーパーフラット文脈ではなく、私の日本画のバックグラウンドであるとか、日本の古典との融合みたいなものが求められています。

一枚の絵画を体験することは、かけがえのない文化の旅になる

ー「マイ・ロンサム・カウボーイ」という作品は2008年のオークションで1,520万ドル(当時の日本円で約16億円)の値がつきました。ご自身の価値観とコレクターによる価格評価に違いは感じられましたか?

このオークションのプライスに、初めは戸惑いました。しかしその後、アートのプライスレンジを学習するために、ニューヨークのギャラリーでたくさんのアート作品を購入することで、アートの価格のリアルとは何ぞや、を学びました。当たり前ですが、高い価格で売れるのはそれでもほしいと思ってくれる人が複数名いるからです。

つまり、多くの人が強く強くほしいと思ってもらえる作品になることが大事だと学びました。そのためのリサーチ、アイデア出し、実験、結果出しに十分な予算と時間をかけて、価格評価に足る作品を作れるように、自己改革しました。

ー伝統的な芸術媒体の未来についてどう考えていますか?

アートは世界を変えられると信じています。この2世紀で、日本は映画や漫画に秀でる一方で、絵画はほとんど消滅してしまいました。しかし、私たちの世代から変化を起こしていきたいと考えています。一枚の絵画を体験することは、かけがえのない文化の旅になるのです。

本物の絵画鑑賞というのは、それなりに続いていく、エンターテインメントだと思っています。

先日、「オルセー美術館」でモネの作品を見た時に、その情報量の多さに驚きました。同じような体験で、昔「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の「ヴンダー」という戦艦の直筆ドローイングを見た際、シャーペンで描かれたその圧倒的な情報量に驚嘆しました。

もちろん、これはアニメーション映画の原画ですが、その絵を目の前にした時に、描いた人の息吹が聞こえてくるようで、そういう手から発せられたものの鑑賞体験というのは、今後も綿々と続いていくのではないかと思います。

ー現在、世界のデジタル化が進み、仮想現実や拡張現実が台頭していますが、現代アートの未来をどのように描いていますか?

要するに、何か発見があるということが芸術体験の一番重要なポイントです。

古代ギリシャの科学者・アルキメデスが「ユーリカ」と言った瞬間がありますけれども、その作品を見たり、その作品を見て疑問に思ったことがコンセプトを聞くことによって、ユーリカ状態に到達する瞬間に、脳内の新しい発想の原点がひっくり返るわけです。その体験が起こる限り、芸術は有効だと思います。

ーあなたが探求してきたNFTは、昨今その価値が揺らいでいます。アート市場にNFTの居場所はまだあると思いますか?

仮想現実のリアリティーは、とどまることを知りません。

「NFTアート」のアートの部分に興味がなく、投機目的だけで入ってきた多くの人たちが、今年どんどん売りさばき、コレクションをやめたと思います。しかし、NFTアートの意味・価値を理解している者は、今もコレクションしたNFTアートを手放しておらず、むしろ安くなったNFTアートを買い集めています。

5年以内にまた大きなブームが来た時に、捨ててしまった人々は、じだんだを踏むことは間違いないと思います。

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ーキャリアを通じて、芸術作品の制作と商品化プロジェクトの両方に携わっていますね。商業的な試みにおいても芸術的なビジョンと誠実さを維持するために、どのようにバランスを取っているのですか?

例えばテレビアニメを見て、その世界に憧れておもちゃを買ったとしましょう。僕の子どもの頃は、技術的な問題や予算的な問題で、アニメの世界をリアルに再現することができなかった。大人の事情で劣化してしまったということを許容しなければならなかったことが、何とも悔しい思い出としてあります。

(商品化のプロジェクトに関わる理由は)クリエーターが、おもちゃにまでしっかり監修すれば、大人の事情の言い訳を突破でき、子どもたちに夢を共有してあげられる…と思ったからです。

ー近年では、多くのアーティストが商品化に意欲的です。それにはどんな理由があると思いますか?

これ音楽業界が、もう同じ道を先行して行ってると思うんですけれど、「MTV」が全盛だった頃、音楽家は何もかもやっていたと思います。

音楽を作って、プロモーションビデオを作って、コンサートをやって、商品を作って、世の中全部を動かしていましたが、ある日ある時それらが完全に飽きられて、「Napster」のような音楽を無価値にするようなサービスが現れ、そこから音楽業界も、全く変わったビジネスストラクチュアをどう再構築するかということで苦しんできた。

今は配信による利益を当てにせず、ライブでの収益に集中させるなど、ビジネススキームが変わってきています。

アートの商品化は、要するに売れるから商品化するわけであって、つまり、濃度の濃い芸術的な体験というのを、一般人が、大衆が求めているがゆえに、そういうものがどんどんと広められていっていると思います。

ですがある日ある時、それは全てが一気に飽きられてしまって、音楽産業と同じような道をたどり、そしてまた、音楽産業と同じように再構築するのではないかと思います。

ー以前、日本人はあなたのキャラクターや芸術哲学を「嫌っている」とおっしゃっていましたが、今でもそう思いますか?

現在、25歳以下の若者にとっては、アーティストは花形商売の一つに見えるようで、私のことは可もなく不可もなく、「昔から居るアートのオッチャン」として存在しているようです。嫌われている感じはないですね。

しかし、社会を動かしているのが僕と同い年ぐらいの人たちなので、その人たちが、依然私を嫌ってることには変わりありません。

ー今回は「京都市美術館開館」90周年記念の個展となりますが、ようやく日本の美術界に受け入れられ、祝福されるようになったと感じますか?

日本の公立美術館でのコレクションは「金沢21世紀美術館」と大阪の「国立国際美術館」だけかと思います。国際的な活動と比較して、現状はどうかと言うと、冷遇されていると言えると思います。

自分自身の発想力と工房の限界突破が今回のテーマ

 ーこの展覧会のために準備したことを教えてください。同展で達成したいことは何でしょうか?

150点の新作絵画をゼロから制作しています。自分自身の発想力と工房の限界突破が今回のテーマです。

同展の実質的なキュレーションをした、「京都市京セラ美術館」の事業企画推進室ゼネラルマネジャーの高橋信也さんから「京都の歴史をえぐってほしい。まずその手始めに、岩佐又兵衛の『洛中洛外図』をテーマにした作品を作ってくれないか」と言われ、その心はと聞くと、「今ある観光都市・京都と、リアルな人々が生きていた魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する京都というもののコントラストを表現するんですよ!!」と、力説される姿に心打たれて、制作を開始しました。

岩佐又兵衛の作品には2800人ほどの登場人物がおり、もちろんそのほかに動物や馬や籠(かご)や筵(むしろ)、木々などがあって、アイテム数は4000を超えています。それをフォローするだけでも大変でした。

当時の風俗を表現するために、某超有名大物漫画家のアシスタントをしている4人の方に手伝ってもらい(ちょうど大型連載が終了して、次の作品までの間があったという幸運に恵まれて!!)、所々抜け落ちている絵の時代考証も助けてもらいました。

京都と私の歴史というものが高橋さんの中でミックスされたものが、今回の展覧会のテーマです。

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ーあなたがスーパーフラットを芸術運動として構想してから20年以上が経過しました。このムーブメントは現在どのような進化を遂げましたか? また、将来はどのように拡大していくと思いますか?

僕は、いまだに寿命が尽きていないキャッチフレーズであると思っています。

というのは、ソーシャルメディアの発展によって、社会そのものがスーパーフラットになり、その果てに、怒りやエゴが膨張し、それらがアンコントロールになっていき、今やダークサイドの方にどんどん向かっております。その意味で、スーパーフラットダークサイドみたいな、もしくは、スーパーフラットマイナスみたいな状況が起こってますけれど。

要するに、あと10年か20年ぐらいは、このようなSNSによる、社会のスーパーフラット化が進むと思われ、近未来にこそ必要となる言葉ではないかと思っています。

ー2016年にタイムアウト東京が行ったインタビューで、技術が進歩した未来に役立つかもしれないという理由で、自身の髪の毛や爪を集めていると話していましたが、今も続けていますか?

その後も順調に収集され続けており、結構な分量になってきましたので、僕が死んだ後、美術館などに展示すると、皆がウエ〜と思って、楽しく見てくれるものになってると思いますよ。

村上隆

1962年東京都生まれ。アーティスト、キュレーター、コレクター、映画監督、有限会社カイカイキキ創業者と、さまざまな顔を持つ。「スーパーフラット」セオリーの発案者にして、同セオリー代表作家である。

「SUPERFLAT」(渋谷パルコ、ロサンゼルス現代美術館など巡回)、「Coloriage(ぬりえ)」(パリカルティエファウンデーション)、「Litle Boy」(ニューヨークジャパンソサエティ)の三部作となるキュレーション展を行う。ラストとなったLitleBoy展は、全米批評家連盟(AICA USA)によるベスト展覧会賞を受賞した。

2016年にはテレビアニメ作品「6HP」(Six Hearts Pincess)の放送が始まる。現在、実写映画監督作品「めめめのくらげ2」を制作中

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