タイムアウト東京 > アート&カルチャー > 写真で振り返る50年目の舞、大道芸人ギリヤーク尼ヶ崎が新宿で公演
写真:谷川慶典
88歳の大道芸人ギリヤーク尼ヶ崎が8日、毎年恒例の新宿公演を行い、新作を含む5演目を踊り、1000人以上の観衆を魅了した。パーキンソン病や脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)などの重病を患いながらも路上で踊り立ち続けるギリヤーク。芸歴50周年を迎えた「伝説の大道芸人」の円熟の舞を写真で振り返る。
会場は開演1時間前から既に人で埋まり、周囲の階段や歩道橋にも人が溢れていた。この日は、新作『果たし合い』や代表作『念仏じょんがら』などを披露。
最初の演目は『じょんがら一代』。
津軽の瞽女(ごぜ/三味線や胡弓を弾きながら銭を乞い歩いた盲目の女)の姿を表現したギリヤークの代表作。三味線のゆっくりとした音に乗ってギリヤークが登場すると、会場からは「ギリヤーク!」「よ、日本一!」と掛け声が上がった。
三味線の音色に乗って登場すると、会場には大きな歓声が
次の演目は『よされ節』。
バラの花を加えたギリヤークが観客を誘い、一緒になって踊る賑やかな演目だ。
脊柱管狭窄症の影響で背骨が曲がり、顔を前に向けるのが困難な状態ながらも、ひょうきんな表情で会場を盛り上げた。
観客の手を取っての踊り
次は新作の『果たし合い』。
親交のある俳優 近藤正臣から借りていた刀のつばを使って作り上げた作品。おどろおどろしい音楽に乗せ、1人で決闘を表現する重厚感ある舞だ。昨年の新宿公演よりも体調は悪そうで、観客が不安げに見守る中で踊り切った。
続いて、最もよく知られた代表作『念仏じょんがら』。
情感豊かにゆっくりと踊り始め、次第に激しさを増していく作品だ。バケツで水をかぶったり、数珠を振り回しながら会場を飛び出して行ったりし、最後は路上で転げまわり、「おかあさーん」と絶叫して尽きる、狂気と情念に満ちた舞。
ギリヤークが「ねーんぶーつ、ねーんぶーつ、じょんがらー!」と声高らかに演目を読み上げると、会場からは「待ってました!」と声が上がった
会場脇の階段を上り、群衆の中を駆け回るギリヤーク。ゆっくりだが力強く歩を進め、初めて見に来た人たちからは「階段を上っているぞ」などと驚きの声も聞こえた
バケツを持ち上げ頭から水をかぶると、観客からは一斉におひねりが投げ込まれた
母の遺影を手に「おかあさーん」と叫ぶ
無事、全ての演目が終了した。するとギリヤークが口を開いた。『果たし合い』の出来に納得がいかなかったと言うのだ。
「初めて踊るのであがっちゃって。このままじゃ皆さんに申し訳ないので、もう一度挑戦してみますので、よろしくお願いします」。
ギリヤークの強い思いを感じ、会場から声援が飛んだ。
2度目の『果たし合い』
体が思うように動かなかった1回目の踊りが嘘のように、多彩な動きで観衆を沸かせたギリヤーク。2度目の『果たし合い』を終えると、この日一番の歓声が上がり、投げ銭が乱れ飛んだ。
渾身の舞を披露したギリヤークは、腰が「く」の字に曲がり、顔は下に向いた状態で、観衆に言葉を送った。
「私の見える空間は、地面だけなんです。でもみなさんが来てくれて、本当に踊って良かったと思います。私は踊ることしか知恵がない人間ですが、50年間、みなさんのおかげで...」。
嗚咽(おえつ)を漏らしながらも、「私の踊りを皆さんが喜んでくれた。こういう体になっても、幸せです」と感謝し、「(昔は)結婚もしないで独身で寂しいだけかなと思ったけど、皆さんが来てくれるので、そんなに寂しくないです」と、観衆を笑わすことも忘れなかった。
最後は、「あと2年間は街頭で踊っていきたいと思います」と力を込めて宣言。公演が終了すると、観衆が握手や会話を交わそうと、ギリヤークの周りに押し寄せていた。
会場を埋め尽くした観衆
公演が終わり、ギリヤークを取り囲むメディアや観衆
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