日本を代表する稀代のMC/アーティストであるShing02。昨今の風営法やクラブを取り巻く問題を背景に、彼自らが監督し脚本を書いたショートムービー『Bustin’』が公開された。問題との向き合い方が問われる今だからこそ、ダンスの普遍的な魅力を見つめ直す大きな意義を持ったアート作品だ。
まずは全編を観てもらいたい。
踊りまくる警官とダンサーたち。この映画は、現状を憂い、問題提起を促すものでもなければ、皮肉なメッセージを発するものでもない。まして、権力との対立を描く作品でもない。純粋に良い音楽を聴く喜びや踊ることへの喜びというポジティブなエネルギーに満ちた、22分間のフィクションだ。アンチテーゼでも風刺でもないただのフィクションだからこそ、この物語は私たちを大切な場所へと導く。
2週間で仕上げられたこの作品。撮影を取り仕切ったのは仙田祐一郎。
ダンサーの役者たちには警官たちの突入はあえて知らせていなかった。Shing02は先日来日していた映像作家ヴィンセントムーンと意気投合し、ハプニングによる産物がリアリティを作り出すためにいかに重要か再認識したと言う。
風営法の取り締まりが強化され、クラブ関係者やアーティスト、クラブカルチャーに理解のある議員、弁護士らが規制の緩和や撤廃に向けて様々な活動を行ってきた。そうした取り組みが実を結ぼうとしている局面も訪れている。
しかし見失ってはいけないのは、私たちが目指しているのは敵を倒す事ではないということだ。これから変革を迎えたとしても依然として問われるのはクラブで遊ぶ人々のルール、マナー、モラルへの意識。当事者意識を持つことの重要さは対立構造を描くのでは伝わらない。人々の意識を変えるのはある意味で法律を変えること以上に難しい。
この作品に描かれている動き出したら止まらない音楽とダンスの本能的、生理的な欲求。それらを楽しむ場所、環境はどうやったら維持できるのか、今一度考えてみて欲しい。