凄いハイスキルでスポーティーなものをやる好機がきたなと
それでは、菊地さんが主催するバンド dCprGが今回発売した新作『フランツ・カフカのサウスアメリカ』についてですが、聴かせもらいまして、前作に比べてかなりソリッドというか、バンドサ ウンドがかなり固まった印象でした。客演の多かった前回に対して今回はそういったこともなく、バンドの向かう方向を固める意図が当初からあったのでしょう か。
復活後といいますかバンドの2期としては3作目、オリジナルアルバムとしては2作目で、前作『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』とはキーボーディストが丈青から小田朋美に変わりました。つまり現体制としては1作目です。 端的に言って、今作は1期の『構造と力』(2003年)以来の、作曲とアレンジメントをきっちり施したアルバムでして、それ以外の作品はすべてスタジオ セッションを編集したものなんですね。我々のライブは3時間とかあるわけでして、それだけでコンテンツオーバーになってしまうわけです。そこにどんどん新 たに作曲したものを加えると何かを捨てなくてはいけない。まあ、ロックやポップスで長く活動しているバンドには往々にしてあるストラグルというか、そうし た人たちは新たな曲の制作はミッションなわけですよ。歌詞を書いたり。だけど、これは自戒も含めですけど(笑)だいたいそのバンドのキャリアで良いアルバ ムって初期衝動が含まれているもので、せいぜいファーストからサードぐらいまでのことが多い。10枚も出してるバンドの6枚目とかヤバいじゃないですか (笑)
で、自己模倣を続けるか、潔く辞めるかとか、バンドをひとつの生命体、社会として考えたときに、うちらは1度活動休止を挟んでいて、新しいメンバー で旧レパートリーをやる、ということで4年近くもっちゃったわけですよね。『構造と力』の時っていうのは、曲をコンピューターでシミュレートして、ノー テーションして楽譜を出す、ということやったんですよ。こういうみっちり作り上げた曲というのはレコーディングのためにリハーサルというのを入念にやらな きゃいけないわけですよ。当然、構築的な作品ができる。ただ、それにも賛否があるわけで。いまだに『構造と力』が一番好きというひともいれば、エレクト リックマイルス的なドロドロとしたセッションが聴きたいというひともいた。僕らのやっているサイズのバンドでは、おおざっぱに言えばその2つのパターンし かないわけです。その両極をいっていたと。で、演奏のスキルは2期のメンバーの方がずっと高いわけです。
平均年齢も若いですね?
ええ、よくある話で若者の方が上手いんですよ。年寄りは味があるんですけど、細かいことができないんですよね。『構造と力』のときはジャズ村の先輩 方に譜面を渡してふうふう言いながらかなりの手間をかけてやったわけですけど、今はみんな相当譜面が読めるメンバーばかりなので、すぐ形になる。で、2期 になってインパルス!レコードと契約する際に、今のメンバーですべきことについてすごく悩んだわけです。つまり、新メンバーの能力をいかした作曲作品で行 くのか、それとも、能力があるからこそスタジオセッションを切り貼りしたものをやるのか。その時は後者をとったわけです。その時はヒップホップを本格的に コネクトしようとしていた時期で、SIMI LABを迎えるというのがひとつ方向性で、大谷能生も参加したりして。危険な賭けでしたが。セルフカバーが2曲で、作曲した曲はなしという内容だった。 10年間、曲らしい曲をやってなかったわけです。
で、今回のアルバムっていうのは『構造と力2』という計画で始まった。全部作曲曲で、さらに難易度の高いものをやるんだと。若くてスキルがあって譜 面の読めるメンバーがいて、とどめに芸大卒の小田朋美が入った。小田さんはいうなれば坂本龍一、渋谷慶一郎に続く、芸大の作曲科を出てクラシックをやって いない3人目の人物なんですね。桁違いに譜面が読めて、キーボードに関してはどんなに難しい曲も弾けると。僕はメンバーの能力のあり方に合わせたことをや りたいので、インプロに強い丈青がいたときはああいうかたちになったわけですが、小田さんが入って、1人変わっただけなんですがバンド全体の雰囲気がが らっと変わって。『構造と力2』をやる、凄いハイスキルでスポーティーなものをやる好機がきたなと。パソコンでシミュレーションしてスコアを出して、曲は すっきりと混沌がなく、シャープでソリッドで構築的なものが並ぶ、そういう構想が決定したんです。それで、僕が作曲した『RONARD REAGAN』、『FKA』 、『GONDWANA EXPRESS』の3曲は、アルバムに向けてライブでサーキットさせていく中で落としていってたんです。現メンバーでは1回リハをやったらすぐライブでで きますから。