目白駅前のコミュニティビルは、都内でも最高の洋食を堪能できるレストランが潜んでいるとは思えないほどごく普通の場所だろう。洋食は「西洋の」食事を日本風に解釈したもので、何十年もかかって日本食のなかに独自の地位を築いてきた。洋食の起源は日本が初めて世界に門戸を開いた明治時代にあり、旬香亭は長年の試行錯誤を重ねてでき上がった、カツレツ、ステーキ、シチューにフライといった肉中心の基本メニューを踏襲している。しかし、差がつくのはその高級感だ。使われるのは最高級のオーストラリア産と日本産の牛肉、その風味と柔らかさで名高い赤牛ビーフなど。上品な店内と美しい盛り付けが華を添える。
フランスと日本で修業したシェフの古賀の腕前が分かるのはハンバーグ(ハンブルク式ステーキ)だ。タマネギ、卵、パン粉が使われ、非常にジューシーで口どけがよい。ブロッコリー、インゲン、ローストポテトが添えられる。そのほかのメニューにはフランス、ドイツ、イギリス、アメリカ料理の影響が見られるものの、どれも程度の差こそあれ日本流の解釈の中でだいぶ姿を変えた。
また、どれも斬新かつ涙を誘発する可能性のある、ウスターソース、ディジョンマスタード、わさび、醤油、グレービーが融合した多文化的な調味料に浸かっているか、それらが添えられている。充実した種類のかき氷を食べれば、旬香亭での食事を決定的に日本的なもので締めくくることができる。