緑豊かな高級住宅地、代官山の地下にある洞窟のような店で、シェフ樫村仁尊は新しい挑戦に取り組んでいる。スマートでしゃれた居酒屋のような雰囲気の店で作られるイタリアンは、ユニークで素晴らしい。起伏のある天井には木くずが貼られ、樫村とスタッフは店の中央にあるオープンキッチンで輪になって肉料理やパスタを作る。四方向を取り巻いて座る客からは丸見えだ。そして熱い1980年代ロックがBGMに流れる。
レニー・クラヴィッツやヴァン・ヘイレンの曲は激しいが、炭火焼のグリル以外はシルバー一色のキッチンの中で動き回る樫村たちは、優雅なことこの上ない。それは、細胞の中で働く核小体のように、じっくり焼かれて口の中でとろける鴨やチキン、和牛、そして店の看板メニューのイタリア直輸入のポルケッタを客に提供するための、計算された布陣なのだ。
ファロは、日本人に気軽にイタリアンを楽しんでもいたいという樫村の思いで、2016年春にオープンしたばかり。素晴らしいパスタの数々と、美しい盛り付けの料理に助けられ、狙い通りの成果を収めている。しっかりアルデンテの『ミートソース』は必食。また、竹に巻かれて出される『太刀魚のグリル』はとりわけ印象的だ。
だが、なんといっても店で一番うまいのは、塊肉を炭火で焼いてからカットする、『豚のバラ肉(ポルケッタ)』。濃厚で味つけは巧み、脂の量もちょうどよくジューシーで香ばしい。細かいところも色々工夫されているので見逃さないようにしよう。例えば、ジャスミンティーはアルコールを飲まない人が気後れしないように、ワイングラスで出てくる。それから、財布の心配はそこまでする必要はない。炭火焼の肉料理は2,000~3,800円するが、パスタと小皿料理だけにすれば、かなり手頃に食べることができる。