外食天国の東京でとんかつ一品で名を馳せようと思うと、少々難しい。チェーン店や格安店はあらゆる通りに軒を連ね、軽い食事を求めている人々をこぞって招き寄せている。どの店も味はまずまずだが、とんかつ店「燕楽(えんらく)」に出会ってしまったら、もう他店で妥協することはできないだろう。
愛宕警察署近くのビジネス街にあり、紺地にひらがなで「とんかつ」と書かれた暖簾(のれん)が目印。この家族経営のレストランは、1950年の開店当初から、レシピも内装もほとんど変わらないままで、生きた(そしておいしい)歴史の一部となっている。現オーナーの馬宝春も、昔と変わらず新橋のサラリーマンや地元の人々にジューシーなとんかつを提供し続けている。燕楽のおすすめメニューは「ロースカツ定食」。とんかつとキャベツの千切り、ご飯、クリーミーなポテトサラダ、漬物、ショウガのきいた豚汁がつく大満足な内容。脂の乗った山形県産の三元豚のロースを使用しており、とんかつソースにからしを少々つけて味わいたい。
完食後は睡魔に襲われるかもしれないが、その幸福感は午後の活力になるはずだ。かつ丼も人気で、甘みと風味が組み合わさっている。卵とかつ、煮込んだタマネギ、だし汁が、敷き詰められたご飯の上で輝いている。エビフライ定食や季節によっては単品でカキフライもあるので、飽きることなく通いたくなってしまう。