長年西麻布に店を構えるこのブラッスリ―は、これ以上ないほどにパリの雰囲気を持っている。もちろん、ウェイターにベレー帽やクラバットを着用させたり、客が入ってくるたびにセルジュ・ゲンズブールのの『ジュテーム モワ ノン プリュ』を歌わせパリ気分を出すこともできるが、ド ラ シテは本当に上手い具合に1967年ごろのパリを再現している。店には『ペルノー』や『カンパリ』、『コアントロー』のボトルが置かれ、スピーカーからはシャンソンが流れ、隅の棚には1973年から2016年までのフランス版ミシュランガイドが綺麗に順番に並べられている。
1973年のオープン以来、店の内装で変わったのは壁の色だけだ。オーナーの関根進は店を昔のまま保存すると決めている。超近代化した東京の町で、たまには21世紀の影響を受けずに、客にのんびり過ごしてもらえる静かな場所を提供したいのだ。客のなかには数十年も通い続けてくれている人もいる。
パリ3区にある伝説のビストロ、シェ ラミ ルイに強く影響を受けているド ラ シテでは、ラタトゥイユ、鶏肉のワイン煮、フォアグラのテリーヌ、ムール貝、牛肉の赤ワイン煮込みなど、ビストロ料理の定番が本場と同じ味で食べられる。ちょっと変わった料理もあり、レンズ豆のスープと食べる、柔らかくて臭みのある漆黒の鹿のブラッドソーセージはぜひ注文したい。『仔羊のクスクス』もぜひ勧めたい。北アフリカに起源を持つフレンチビストロ料理で、柔らかく煮込まれた骨付きの仔羊の肉を、野菜のシチューとハリッサ(唐辛子ペースト)と一緒に食べる。
ド ラ シテが近くにあるフランス大使館の職員たちに人気なのは当然だが、フランス人でなくとも「joie de vivre」、生きる喜びを感じられること受け合いだ。