2022年にオープンした「アシッド・ブリアンツァ」でシェフとして腕を振るうのは、33歳の新鋭・児玉智也。北海道で料理人としてのキャリアをスタートさせ、フランスやデンマークの名だたるレストランで研さんを積み帰国した。フランス料理とノルディック料理の技法を融合させ、自身のアイデンティティーを料理に乗せて表現される料理は、見た目もユニークだが、口に運んだとたんに、季節の食材の新鮮な味わいと野山の香りが花開き、これまでにない味覚の世界に誘ってくれる。
店名の「アシッド」とは「酸」という意味だが、ニューノルディック料理の要でもある発酵の技法が児玉の料理の大きな魅力につながっている。一年に一度、春先に北海道の山に入り、松の新芽、クルマバソウ、若い松ぼっくり、フジの花、プラムの花、緑のサクランボや野草などを摘み、オイルや酢に漬け、オリジナルの発酵エッセンスを作り、それを一年通して料理に使っていく。
デンマークでは、森と海の香りを感じて自然の音を聞きながら、素材をどう調理するか、そのインスピレーションを大事にしてきたという児玉。例えば、コースの中で必ず供される「ガレット」は、「紀州鴨」のコンフィとクリと卵黄のソースと発酵したブルーベリーと白味噌のソースとともにガレットで巻いて味わう。ユズの香りが鼻を抜け、どこか黄身和えのような「和」の要素も感じられる。
ここでしか味わえない「東京ノルディック」という新ジャンルを開拓しているといえるだろう。