「日本橋で夜景」と耳にすると、この街を古くから知る者は、著しい違和感を抱くに違いない。20世紀のはじめ、現在の日本橋が掛けられた1911年、この界隈の空は広く、三越や高島屋などの百貨店が軒を連ねていても、もちろん東京の夜景を望むようなビル群はなかった。都内の他エリアとは異なり、長らく高層ビル群とは無縁な時代が続いた。
しかし21世紀に入ると、コレド日本橋、コレド室町などに代表されるよう地域再開発がなされ、ついには地上38階を誇るマンダリンオリエンタル 東京が登場。都内の夜景を望む名所が誕生した。同ホテルの最上階に位置するオリエンタルラウンジは、古き日本橋にくつろぎをもたらす新しい憩いの場だ。
ホテルのエレベーターを降り、ロビーを過ぎ、エレガントなフロアへと足を踏み入れると、全74席を誇る非日常空間が待っている。その窓の外には、西側に東京駅周辺や、皇居方面には遠く新宿の高層街までが見渡せるモダンな光景が広がる。
ラウンジ内の「タパス モラキュラーバー」は、1日限定8人を2クールのみ案内。国内外からの舌の肥えた客に、まるでマジックを披露するかのごとく、魅惑的なコース料理と酒のマリアージュを提供する。一生に一度は体験しておきたい料理ショーだ。
もちろん、そんなプレミアムシートを予約せずとも、ラウンジは十二分に満喫できる。日中から営業しているこのラウンジの特筆すべき点は、アルコールに限定されない楽しみ方。アルコールが苦手な人はティーカップを片手に、好きな人はスタンダードのカクテルを中心に、心ゆくまで粋な時間を過ごすことができる。バータイム以外も終日、アフタヌーンティー、軽食やドリンクが愉(たの)しめ、ホテルにありがちなバーチャージを設けていない点も魅力的だ。
眺望も申し分ない。夏の夕刻にラウンジを訪れると、夕闇迫る天蓋の下、東京の街並みが徐々に夜の装いへと変貌(へんぼう)して行く様を愛(め)でることができる。21世紀の東京しか知らない人には、大きな北側のウインドウを勧めたい。秋葉原や浅草方面の北側からは、現在でもほぼ高層ビルのない、古き東京の雑多な街並みを見渡すことができる。「昭和な東京」好きをも満足させることだろう。
自慢のスタンダードカクテルのラインナップには、今流行りの「ジャパニーズジン」をいち早く取り入れており、今後は飲み比べなども企画されている。大人の愉楽の場として、頭に入れておきたいビューバーだ。