寒くなってくると食べたくなる鍋。自宅でも手軽にできるが、ちゃんこや水炊きなど、鍋と言っても種類は多い。中でもシンプルかつ上品な鍋は、ねぎま鍋ではないだろうか。北池袋で、カウンター8席のみの小さく気取らない店を構えるねぎまは、本格江戸前料理のねぎまの店だ。
ねぎまとは、その名の通り、ねぎとまぐろが主役の鍋「ねぎま鍋」の略称。食品の冷蔵技術が低かった江戸時代、魚のような生鮮食品はすぐ傷んでしまうこともあり、脂肪分の多いトロの部分は捨てられていた。それを人々が工夫して、味わうようになったのが始まりと言われている。
ねぎまの鍋はコース料理の中の一品だ。かつおだし醤油で軽く味付けした江戸前卵焼きからコースは始まる。酒と一緒に頬張れば、いいスタートが切れること間違いなし。鍋料理に使う食材が乗った、美しい大皿が運ばれてきたら、店主の長橋公代がワカメや新鮮生野菜と一緒に薄味の出汁の中で煮込んでくれる。
取材時には、ハラモ(腹部)やカマトロ(えら肉)という、マグロの部位をいただいた。どちらも同じくらい食感が柔らかく、手で砕いたコショウ一振りで、味が際立つ。柔らかくなるまで出汁で煮込まれた、厚切りのネギも、今までのネギの概念が変わるほどの絶品。まぐろを味わう合間に口の中をさっぱりとさせてくれる。締めには土鍋で炊いた白米に煮汁をかける、出汁茶漬け。
ほかでは味わえない、本格江戸前料理に興味があれば、ぜひ足を運んでほしい。