銭湯の存在意義は「日常」から、レジャーまたはリラクゼーション的な「非日常」へと移りつつあり、そうした時代に合わせて進化する銭湯も現れてきている。長年にわたり本郷通り沿いに店を構えていた旧富久の湯は、2011年に大幅な改装を行い、ふくの湯として生まれ変わった。温泉街の旅館のような外観は、通りがかりの目を引く。
ふくの湯の男湯と女湯は、『弁財天』と『大黒天』の2種類の浴場が週ごとに入れ替わる。それぞれの壁に描かれているペンキ絵は改装時に描かれたもので、薬湯の『弁財天』には丸山清人による鮮やかな富士山が、人口ラドン温泉の『大黒天』には中島盛夫による赤富士がそれぞれ描かれている。ペンキ絵の下には、緻密に描かれたタイル絵の松もある。
また、両浴場を隔てる木製の仕切りには、ペインティングユニットGravityfreeによるポップなペイントが施されている。
脱衣所のランプやロッカー、浴室のタイル、床、間仕切りに至るまで、ここまで凝ったデザインの銭湯もなかなかお目にかかれない。改装によって客足は倍に増え、とくに若い客層が目立つようになったという。
足を延ばしても行ってみたいと思わせる魅力は、ノスタルジーとは別のところにありそうだ。
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