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2020年。何かと取りざたされることの多い年であるがゆえに、「2020」という文字面にすでに食傷気味の向きもあるだろうが、この年は1970年の日本万国博覧会(大阪万博)から50周年のメモリアルイヤーでもあることを思い出してほしい。寺田倉庫が文化事業を展開する天王洲エリアにあるT-ART HALLでは、万博50周年を記念した『大阪万博50周年記念展覧会』を2020年2月15日(土)から24日(月)まで開催する。同展に関連して、地上波のバラエティー番組では知名度が低いらしいDOMMUNEが、例によって興味深い番組を放送するとのことで注目が集まっている。
天王洲の展覧会では、万博当時の様子を記録した貴重な資料のほか、西野達、蓮沼執太、そしてDOMMUNEを主宰する宇川直宏ら、万博から影響を受けたというクリエーターによる作品も展示する。実際の大阪万博にも展示された作品としては、岡本太郎による『マスク』、およびフランソワ・バシェによる音響彫刻『勝原フォーン』(復元)が登場。点数こそ少ないが、これらの作品を起点に万博を振り返ることが同展の醍醐味となりそうだ。
言わでものことながら、大阪万博のテーマである「人類の進歩と調和」を象徴する展示のチーフプロデューサーを担当したのが岡本太郎だ。フランス留学時代に文化人類学者マルセル・モースの講義にも出席していた太郎が、「人類」を表現するべく世界中の民族に伝わるさまざまな「仮面(マスク)」を集めたコレクションは、今も万博記念公園に建つ国立民族学博物館にとって一つのルーツになっている。ちなみに、「雪の科学者」として知られる中谷宇吉郎の実弟、治宇二郎が太郎に先んじてモーセに師事しており、縄文時代についての研究を行っていたことも、昨今の縄文ブームとともに広く知られてきたところである。
一方のフランソワ・バシェの音響彫刻は、「鉄鋼館」という日本鉄鋼連盟によるパビリオンで展示された作品。モダニズム建築の旗手、前川國男の設計による同館は、武満徹が音楽プロデューサーを務めており、大阪万博が前衛音楽の実験の場でもあったことを物語るパビリオンだ。当時の最先端の技術を駆使した音楽ホールとして建てられた同館は、現在では「EXPO’70パビリオン」として公開されているものの、万博以降に音楽ホールとしてはろくに利用されてこなかったことを晩年の武満自身が嘆いてもいる。ともあれ、建築やデザインとの関連で語られることの多い1970年の大阪万博を、音楽の視点からも振り返ろうという意図が、今回の展覧会の一つの提案として読み取れることだろう。
その意味で興味深いのが、冒頭でも触れたDOMMUNEのプログラムだ。アーカイブ作成にも力を注いできた大阪万博ではあるが、現存する約19万点もの資料全てをデジタル化できているわけではないという。今回の展覧会開催に当たり、DOMMUNE代表の宇川と音楽評論家の西耕一が音源リストを精査したところ、未デジタル化の貴重な資料がいくつも見つかったという。武満をはじめ、黛敏郎や秋山邦晴、松下真一、高橋悠治など、錚々(そうそう)たるメンバーが参加していた大阪万博だけに、昭和の現代音楽フリークの西らがどのような資料に注目したのか楽しみにしたい。
DOMMUNEの開催は2月7日と16日の2回開催。7日は、新たに生まれ変わった渋谷パルコにできたSUPER DOMMUNEを会場に、宇川と西のほか、映画監督の樋口真嗣、樋口尚文に加えて、大阪万博の参加アーティストでもある一柳慧が登壇する。フルクサスなど、音楽以外のジャンルのアーティストとも交流の深かった一柳は、万博では「テーマ館」や「お祭り広場」「タカラ館」「ワコール・リッカーミシン館」など、数多くのパビリオンに携わっていたので、生々しい裏話が多数飛び出ることが期待される。16日には美術評論家の黒瀬陽平を迎え、天王洲のT-LOTUSMにて開催。2日間を通して、貴重な音資料のどれほどが再生されるかは不明だが、登壇者のトークも併せて大いに期待が高まるところだ。
現代に続く芸術文化の花咲く、まさに百花繚乱の季節として存在した1970年の大阪万博。その一方で、戦前の1940年に東京オリンピックとともに開催が予定されていた「紀元二千六百年」を記念した万国博覧会の、ある意味では弔い合戦としての性格も帯びていたことは揺るがし難い事実だ。ナショナリズムについて考えさせられることの多い「2020」に、華やかなりし大阪万博を多方面から振り返ることも無駄ではないだろう。