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日本橋兜町には、明治から昭和初期にかけて建てられた古い建物がいくつか残っている。2020年2月にオープンしたケーファイブ(K5)は、1923年に日本最初の銀行として竣工した、地下1階、地上4階建てのビルをリノベーションした複合施設。場所は東京証券取引所のすぐ裏手にある。茅場町駅からも日本橋駅からも徒歩数分という好立地だ。
「K5」という施設名は、改修前名称の兜町第5平和ビルに由来する。スペース(2〜4階)の主体を占めるのは全20室のホテル ケーファイブで、「都市における自然 との共生」をテーマに、20~80平方メートルのゲストルームを配した(宿泊料金は1泊2万〜15万円)。ホテルをはじめK5全体の建築と空間デザインは、スウェーデンのストックホルムを拠点に活躍する建築家デザインユニット「CLAESSON KOIVISTO RUNE(通称CKR)」が担当。外観にはほぼ手を加えず、内装についても、むき出しのコンクリートや寄木細工の床など、元の建物の躯体(くたい)や仕様をそのまま生かしている部分も多い。
ホテルのゼネラルマネージャーを務める中川知子によれば、CKRはホテルを手がける際、人物でそのコンセプトを作るそう。今回のプロジェクトを手がけるFERMENT社は、ホテルのイメージを「かつて金融ビジネスで働いていたが今は退職した、65歳くらいの白髪の男性。おしゃれと自然が大好きで、いつかヨットで大西洋を横断したいと考えている」と説明したという。
ゼネラルマネージャーの中川知子
この視点でホテルを見ていくと、「なるほど」うなる場所がいくつもある。例えば公共スペースや客室には、大小いくつもの植栽が置かれている。「全部で150鉢あります。100年近くの歴史ある建物を利用させてもらう中で、これから時間をかけて緑を育てかえしていこうと考えています」と中川。
エレベーター内や客室のドアには日本製の無垢の銅を使用。触ると指紋などが残るが、経年変化が楽しめるように、年月をかけて、経年変化を楽しめるようにあえて磨き上げることはしていない。客室は、「時の重なり」や「日本の伝統」を意識したタイムレスな空間をコンセプトに、 北欧の洗練されたデザインと日本の伝統工芸を絶妙に融合させた。ベッドの上に配された 、和紙のランタンや、バスルームとリビング、ベッドルームを仕切る扉に使用された杉材、このホテルのために作られた畳をコンセプトにしたカーペット(スイートとジュニアスイートに採用)などが目を引く。
外界から遮断された「静」を楽しんでほしいと、あえてテレビは置かず、全室にアナログレコードを配した
20室のうち17室には、グラデーションを施した、藍染めの麻布の天蓋(てんがい)カーテンがベッドを円形に取り囲む
「特徴を挙げるとキリがありませんが、試泊した際に特に印象的だったのが、ベッドを 360度取り囲む藍染めの麻のカーテンです。朝日とカーテンのコントラストが美しく、 このデザインのストーリーが自分のなかで腑(ふ)に落ちました。癒しの空間でした」(中川)
地下1階と1階には、複数の飲食店が構える。ニューヨークのクラフトビールメーカー、ブルックリンブルワリーの旗艦店となるビー(B)や、国籍に囚われない先鋭的な料理を提供するレストランのケーブマン(CAVEMAN)、田中開と野村空人がプロデュースする、ライブラリーバー青淵 (あお)、国内3店目となるカフェスウィッチコーヒー(SWITCH COFFEE)と、「次世代の東京を凝縮するような」店舗が勢ぞろい。全店はしごをしたくなるような、魅力的なラインナップだ。
青淵の店名は、建物にゆかりのある渋澤栄一の雅号から取ったもの。真っ赤なソファと赤い大理石のローテーブルが印象的な空間は渋澤の書斎がモチーフ
日中はティーサロンとしても営業。8種類のオリジナルカクテルにも、渋澤に由来した名前が付いている
最後に中川が「普段の生活を特別のものにする、ここにしかない場所。遠くの方だけでなく、東京にお住まいの方も、ぜひお泊まりいただき、特別な1日を過ごしていただきたいです」と話した言葉が印象的だった。新たな魂が宿り、息を吹き返した「銀行」に足を運んでみてはいかがだろう。
テキスト:長谷川あや
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