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新たに13自治体が導入、LGBTQ+のパートナーシップ制度

Hisato Hayashi
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Hisato Hayashi
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Time Out Tokyo
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2020年4月1日から全国13自治体で同性パートナーシップに類する制度が新たに始動した。2015年11月に日本で初めて発表された渋谷区と世田谷区の同制度の始動から累計すると、今回で47の自治体数に上ることとなる。その数の多さに驚く人もいるだろうか。

2015年導入は東京都渋谷区、世田谷区の2自治体、2016年に三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市の3自治体、2017年に北海道札幌市1自治体、2018年に福岡県福岡市、大阪府大阪市、東京都中野区の3自治体、2019年には多過ぎて割愛するが(*1)全部で22自治体、2020年3月までには既に3自治体と、年々その広がりに勢いを見せている。

とはいえ、そもそも法律婚で得られる権利――とりわけ、お互いの税金や財産や医療に関わる権利、不動産や住宅購入、賃貸住宅入居の際に行使できる権利などを求めている当事者たちの希望を叶えられる制度は、未だ皆無だ。

そのような状況もあるなか2020年4月に始動した制度には、公営住宅へ夫婦同様の手続きと審査で賃貸住宅への入居ができると大々的に打ち出した港区(*2)などの例もあり、少しずつではあるが、5年がかりで前進しているとも言える。

ここでは同性パートナーシップについて、2015年の渋谷区と世田谷区の例を始め7つの自治体を例に挙げ、5年間の系譜をたどってみることにしよう。 

全国に広がるパートナーシップ制度、取得に要する問題点も

渋谷区

渋谷区の例

渋谷区パートナーシップ証明書(概要版)
パートナーシップ証明に対するよくある質問
いち早く制度を導入したことで注目を集めた渋谷区。厳密には、公証役場で作成できる「任意後見契約公正証書」と「合意契約公正証書」を元に、「パートナーシップ証明書」を発行するというもの。証書の発行に手数料がかかることは意外と知られていない。「任意後見契約公正証書」の作成には手数料などを含めて約1万5000円×2人分、「合意契約公正証書」には約1万4000円の経費がかかる(*3 後者は特例の申請となる)。

世田谷区|同性パートナーシップ宣誓について
渋谷区と同時に制度を始めた世田谷区。「人権尊重」の一環を提示しつつも「同性カップルの方の気持ちを区が受け止めるという取組み」そのものが趣旨のようで、実際の生活に必要な効力の薄さは否めない。ただ、戸籍謄本の提出が必須という記載がなく、必要書類がシンプルなため外国人にも分かりやすく、受け入れに積極的な様子が伝わる(*4)。また、手数料無料という点でもハードルが低く、宣誓件数は110件と順調に見受けられる(*5)。

大阪市パートナーシップ宣誓書受領証の交付について
その件数だけで比較すると全国で1位、165件の交付を行う大阪市(*6)。必要書類は世田谷区と同じで、比較的シンプルであり、2018年7月から始動している。2年弱で165件という情報からは今後のパートナーシップ制度のより良い変化に対する伸び代にも期待ができる。

札幌市パートナーシップ宣誓制度
大阪市のパートナーシップ導入からさかのぼること約1年、札幌市は2017年6月に制度を導入している。注目すべき点は、日本で初めて「同性カップル」に限らないパートナーシップが登場するところだ(*5)。対象者の欄に「一方又は双方が性的マイノリティのお二人」と掲げており、トランスジェンダーやバイセクシュアルの排除がない、画期的な制度と言える(*6)。数字的には、渋谷区の40件の2倍以上、85組が宣誓しているため、裾野を広げた効果は十分に感じ取れる。

茨城県|いばらきパートナーシップ宣誓制度の実施について
茨城県は、2019年7月に日本初となる都道府県単位での導入を行った。それまで、市区町村単位での導入もなかった茨城は、県がダイバーシティをけん引する異例の形となった。対象者も「一方又は双方が性的マイノリティである2人の者」とし、札幌市に続いてトランスジェンダーやバイセクシュアルに対する排除が少ない文言であった。

港区|みなとマリアージュ制度
2020年4月導入の自治体。何と言っても特筆すべきは、港区の『みなとマリアージュ』だ。ついに「同性間・異性間でも、外国籍の方も利用できます」との文言が書いてあり、これほどに分かりやすく、はっきりと声明することにより、Xジェンダーや外国籍の人も安心して利用できるのではないだろうか。効力についても、名ばかりの人権尊重や確約できないメリットを連ねる自治体が多いなか、「港区が管理する区民向け住宅(世帯用)に夫婦と同様に入居申込みをすることができます」と明記されている。

ただ一方では、区営住宅以外でのメリットは確約できないため「民間住宅を探したり、賃借したりする場合に夫婦と同様に対応してもらいたいことを理解されやすくなります/病院で医療同意、付添い等をする場合に理解されやすくなります」との記載も。あくまでも効力を保証できないという現実を突き付けられはするが、これらを明記することで、そもそも住宅を探すときや医療同意などのシーンで夫婦と扱われない不便さ、理不尽さの周知にはつながるかもしれない。

逗子市パートナーシップ宣誓制度
こちらも2020年4月導入の神奈川県逗子市。「誰もが使えるパートナーシップ制度」を掲げている。もはや性別に関して明記すらしないスタイルについて、本来ならば当たり前のことであるが、ここでは称賛したい。ちなみに2019年導入の同県横須賀市と鎌倉市も、同じ制度を利用している。3市間での引っ越しなどで待遇が変わらない点もアピールポイントだ。 

多様化する生き方に寄り添う制度とは

Photo: fb.com/Tokyo.R.Pride

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2020年4月導入の例を含め、ここまで全47自治体のパートナーシップからいくつかをピックアップしてみた。しかし実はほとんどの自治体で、届け出自体がアポイントメント制であることや、外国人の受け入れ、戸籍上の性別など制限がまだまだ多いことがよく分かった。

2015年に始まった渋谷区、世田谷区の例からは、早くも5年が経っている。同性間での法律婚成立に向けた動きの中で、先延ばしではなく着実なステップとして認識のある自治体はどれだけあるのだろうか。この制度に対する問題には、まだまだアップデートの余地が多くある。それは、国や自治体のPRのためではなく、全ての市民が人権を侵害されないためのものとして考えなくてはならないことだ。

そして、同性間での法律婚が成立したとしても、それは全市民の人権尊重のためのほんの一部に過ぎない。また同性カップル以外にも、生きづらさを抱える人たちの存在について忘れてはいけない。以上を踏まえた上で、改めて自治体には、生き方の多様さについての制度を更新・導入してもらいたい。

<2020年4月から「パートナーシップ」に類する制度を導入する自治体>
・埼玉県さいたま市
・東京都港区
・東京都文京区
・神奈川県逗子市
・神奈川県相模原市
・新潟県新潟市
・静岡県浜松市
・奈良県大和郡山市
・奈良県奈良市
・香川県高松市
・徳島県徳島市
・福岡県古賀市
・宮崎県木城町

<2020年5月から導入する自治体>
・埼玉県川越市

※タイトル使用の「LGBTQ+」について。今ではそれなりの普及が感じられるLGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取った言葉を指すが、近年では「Q」(クィア)と「+」(LGBTに属さないトランスセクシャル、ツースピリット/トゥースピリット、クエスチョニング、インターセックス、アセクシュアル、アリー、パンセクシャル、エイジェンダー、ジェンダークィア、バイジェンダー、ジェンダーバリエント、パンジェンダーなど)が加わり、多様なジェンダーセクシュアリティを包括する言葉として使われている。

(*1)2019年中に導入した自治体は、群馬県大泉町、千葉県千葉市、東京都府中市、江戸川区、豊島区、熊本県熊本市、大阪府堺市、枚方市、交野市、大東市、神奈川県横須賀市、小田原市、横浜市、鎌倉市、岡山県総社市、栃木県鹿沼市、宮崎県宮崎市、茨城県、福岡県北九州市、愛知県西尾市、長崎県長崎市、兵庫県三田市(同年内順不同)

(*2)制度概要ページや広報物に明記されている例として港区を取りあげたが(出典元:みなとマリアージュ制度周知ちらし)、問い合わせをすれば、同様の効力を認めている自治体もある。真剣に利用を検討する方は、自身の住む自治体や、引っ越し予定の自治体へ問い合わせてみることを勧めたい。

(*3)出展元:パートナーシップ証明に対するよくある質問
2種類の公正証書は公証役場で作成することができ、正本が4枚を超える場合や謄本を発行する場合には、文中の参考金額に加え250円×必要枚数の手数料がかかる。パートナーシップ制度ができる前からあった公正証書で、公正証書の内容や手続きについては、渋谷区パートナシップ証明任意後見契約・合意契約 公正証書作成の手引も参考にしてほしい。

(*4)パートナーとして届け出る二人が、それぞれ「独身であることを証明するための書類」として、日本人の場合は戸籍謄本を使うこともできる。また、海外で婚姻をした同性カップル当事者同士の場合は、その証明も必要となる。

(*5)出典元:虹色ダイバーシティ調べ「地方自治体の同性パートナー認知件数(2020年1月20日)」

(*6)導入時期や人口が疎らなため、比べることは難しいが、現時点での「宣誓件数÷該当自治体の総人口<=%>)÷導入からの月数=人口に対しての%/月」を算出してみた。結果、渋谷区:0.00034%、大阪市:0.00033%、世田谷区:0.00022%と並ぶ(2020年1月現在)。渋谷区と大阪市がほぼ横並びの結果であった。

(*7)2015年導入の世田谷区が「同性(自認する性が同じである場合を含みます)のカップル」と定義している点については、同性カップルを前提としてはいるものの、戸籍の性別にこだわらない姿勢は感じられる。また、2016年に導入した兵庫県宝塚市が、2020年4月に「戸籍の性が同じだけでなく、自認する性が同じであるカップルや、どちらか一方が性的マイノリティ当事者であるカップルへ対象を変更」した例はある。

(*8)性同一性障害や性別違和を含む「セクシュアルマイノリティのお二人」を対象とした自治体はいくつかあるが、性同一性障害に至っては診断を証明する書類が必要なこともあるため、ハードルも高く、マイノリティの中でさらに権利を制限する項目には違いない。

テキスト:ヒラマツマユコ

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