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「銭湯を日本から消さない」をモットーに、京都の梅湯をはじめとする4軒の銭湯を継業してきた「ゆとなみ社」が、SNSを通して東京進出を発表した。
東京初進出の舞台は、北区十条の十條湯。関西の銭湯カルチャーをけん引し続けてきた、ゆとなみ社の社長で、銭湯活動家の湊三次郎の弟、湊研雄(みなと・けんゆう)が出向社員として出向き、コンサルティング業務とともに番頭、店長として運営を行っていく。
創業時期について研雄に尋ねると、「記録が残っていなくてはっきりとしたことは分からないんです。ただ、この建物は1972(昭和47)年のものだと聞いています」。まもなく築50年となる建物だが、風呂場も脱衣場も清潔で、長い間、大切に保たれていた施設であることがよく分かる。
研雄が十條湯を手がけることになった経緯は、とても興味深いものだった。静岡県浜松市出身。上京後、都内を中心に銭湯に通いつめ、その銭湯好きが高じ、川口の喜楽湯で働き始める。番頭を務めながら銭湯通いを続けていた研雄は、ある日、十條湯に足を運ぶ。その後喜楽湯も軌道に乗り、自分の役割は達成したと感じた研雄は、十條湯の社長に2020年、初頭「居候させてください」と申し出た。
「ちょうど新しいことをやりたいと思っていた時期でした。その言葉が口をついた瞬間、『おい、今、令和だぞ』と自分に突っ込みを入れました(笑)。しかし、社長も女将さんも快く迎え入れてくれ、天井に頭が付く部屋で寝泊まりするガチの居候が始まりました。もちろん給料はありません(笑)」
銭湯業務を手伝いながら、浴場専門の設備屋やタイル屋で仕事を探し始めるが、新型コロナウイルスの影響で断念。そんななか、「この銭湯はもっといいものにできるのではないか」と考え、経営に携わりたいと志願する。
番頭となった研雄が真っ先に取り組んだのは、サウナ料金のプライスダウンだ。それまでは女湯で週に2、3日、サウナの利用者が一人もいない日もあったという。
「400円という料金は俺からしたら高く感じます。せっかくいいサウナと水風呂があるのに、利用してもらえないのはもったいない。昨今は空前のサウナブーム、この波に乗らない手はありません。くみ上げた地下水を利用した水風呂は、はっきり言って自慢できます!」
水曜には、サウナ大国フィンランドでは定番の「ヴィヒタサウナ」の実施をスタート。シラカバの若枝を束ねたヴィヒタをサウナに置き、これに水をかけることで、白樺の芳香が広がり、まるで森林浴をしているかのような気分が味わえるのだ。これを目当てに、東京都外からもサウナーが足を運ぶようになった。
サウナの中でも流れるBGMも洒落ている。訪れた時にはABBAが、しばらくするとオールデイズのジャズが流れ始めた。選曲は、社長が担当しているそうだ。
番台の奥に喫茶スペースのある構造も珍しく、今後、喫茶専属のスタッフと女将がメニュー開発を行っていくそうだ。現在のいちおしはクリームソーダ。サウナの後に冷えたクリームソーダを一杯、これはハマりそうだ。
コインランドリーも併設しており、「今はやりのランドリーカフェ的な展開も考えています。チラシが完成したら、ゆとなみ社の強みであるポスティングも行っていきます。アナログですが、確実にお客さんは増えるはずです」と、やりたいことは尽きない。
吉本興業に所属している芸人でもある研雄は、十條湯を地域に残すことができるのか。その挑戦を見守るべく、次の水曜は十条のサウナに森林浴に出かけてみてはいかがだろうか。汗を流した後には、ノスタルジックなクリームソーダが待っている。
テキスト:長谷川あや
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