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近年、世界中の都市でナイトタイムエコノミー(夜間経済)が注目されている。都市の文化的成熟を図る上で重要であるだけでなく、観光資源の活用や経済活性化のためのキーワードとして、見過ごせない存在になっている。タイムアウトシドニーによるナイトタイムエコノミーに関する記事を紹介する。夜間の文化活動を阻害する「ロックアウト法」を抱えるシドニーが、どのように夜の街ににぎわいを作り出そうとしているかが分かるだろう。
ニューサウスウェールズ州(NSW)政府が2014年にロックアウト法(※1)を導入して以来、私たちは皆、シドニーのナイトタイムエコノミーが活気を失っているのを感じていた。数えきれないほどの店が閉鎖し、以前はパーティーが盛んだった地域もゴーストタウンと化した。キープ・シドニー・オープン(※2)のここ4年間の活動はつまるところ、街頭のにぎわいを、政府によるつまらないパーティーに変えてしまったのだ。
※1 パブやナイトクラブなどを対象に、25時30分以降の入店禁止や、27時のドリンクラストオーダーを定めた法
※2 音楽業界や芸術業界の関係者らでつくる市民団体
シドニーに住んでいるなら、これは今に始まったことではないと思うだろう。2016年11月、タイムアウトによる都市調査で、シドニーは最も退屈な都市の一つであると示されてしまった。1つの要因が、シドニーの街に、アートやカルチャーシーンなどが十分にないことだった。読者のわずか10パーセントしか、「シドニーには常に楽しみがある」と答えなかったのだ。
ではどうすべきか。同州のロックアウト法を無効にするための起死回生策もなしに、活気あふれるナイトカルチャーを作り出し、あらゆる人々が夜遅くまで街で楽しめるようにするには、何をすべきなのだろう。
ロックアウト法が施行されるずっと以前は、シドニーの当局は、もっと多様なナイトライフをつくり出そうと励んでいた。職員たちは何年もかけ、住民や小規模企業のオーナーらと協議してきた。彼らは今、街のナイトライフを再興するため、シドニー市民の意見を欲している。
副市長のジェス・ミラーは、市民は「ルールブックの変更を要求している」と語る。シドニー市役所で、タイムアウトシドニーとミラーが話し合った時、市議会は開発管理計画(DCP)の改革案を公表したところだった。「簡単に言うと、DCPの改革は、どんなことが、いつ、どこで行われてほしいのかということを、市民が議会に伝えるチャンスなのです」。
「ある地域や町でいつ何かが起きようとも、私たちは全員一緒に生活しなければならないですし、皆でうまくやっていくためには、全員が同じルールに従う必要があります。もし誰かが私の家の隣に、朝6時から深夜2時まで営業するドラムスクールを設置しようとしても、このルールブック(DCP)が私を守ってくれるのです。昼夜を問わず、子どもたちがドラムの騒音に苦しまなくてよくなるのです」。
「けれど、もし住民が『ねえ、ここは既に騒がしいから、ドラムを練習するにはうってつけの場所だよ。それに実際のところ、君はあまり騒音を気にしないじゃない』と言い始めたとすれば、またルールブックを変更するチャンスなのです」。
現在の議論
シドニー市が提案する3つのポイント
1. 営業時間の拡大
2. 空きスペースの小規模な文化的使用には、特別な承認を必要としない
3. 「騒がしい」ヴェニューと、住宅地との間の良好な関係
これらをもっと理解しやすく整理しよう。
1. より多くの店とサービスを夜間も利用できる
重要な提案の一つが、小売店の営業時間の拡大だ。もしあなたが美容サロンを所有し、夜9時、夜10時までオープンさせられるなら、それは客にとって何を意味するのだろう。あなたは、もしかしたら夜の営業に地元のミュージシャンを招いて華やかにしたいと思うかもしれない。
討議文書「An Open and Creative City」の中では、食料品店と書店、薬局、ドライクリーニング店、旅行代理店、銀行にもっと遅くまで営業する機会を与える、といったような変更案が記載されている。
これはシドニー都市圏(ニュータウンとグリーブ、ピルモント、ダーリングハースト、ポッツポイント、サリーヒルズ、レッドファーン、ウォータールー)と、市内のメインストリートで採用されることになるだろう。
「チャイナタウンのヘイマーケットを見れば分かるように、異なる文化を持つ人々は、異なる夜間の捉え方をしています。ヘイマーケットでは、夜の9時から10時に夕食を取っている赤ん坊や子どもたちの姿は、珍しくはありません。これは、彼らの生活リズムを反映しているのです」とミラーは言う。
「もしあなたが正午に仕事を始め、夜8時までに終わらなければ、夜9時に食事をしたいでしょう。夜中0時くらいまで食料品の買い物もしたいでしょう。私たちは、こうしたニーズについて皆さんの声を聞きたいのです。ルールブックで、こうした様々なケースに対応できるようにしたいのです」。
2. 書類手続きの必要なく、芸術活動を行える
地元のミュージシャンや演劇集団などが、型破りなパフォーマンスでオックスフォードストリートを埋め尽くしていたら、どうなるだろうか。夏のクロス地区で、ダンスのクラスやカメラのワークショップが行われているのを偶然見かけたら、どう感じるだろうか。
イベントや活動を活気づかせるため、当局は、どんなイベントなら承認なしに開催できるのかを説明する案内書の作成を計画している。
「小規模な文化的使用」の定義には、ミュージカルや演劇、コメディー、ダンスなどのライブエンターテインメントが含まれる。また芸術作品や工芸品、デザイン、メディア、映像などの展示、制作も含む。もしあなたがリハーサルスタジオを探しているなら、それもまた小規模な文化的使用に該当する。
「こうした考え方は、ナイトタイムに関してクリエイティブな文化的・商業的アイディアを有する人々にとって大切ですし、夜間経済を支える、不規則な労働時間の人々にとっても重要なのです」とミラーは言う。「深夜営業している場所が少ないままでは、夜間の仕事も増えることはありません」。
3. 既にある音楽ヴェニューと、既にいる住民の手厚い保護
この新たな変更案のもとでは、当局が騒音の影響に対処する際には、「エージェント・オブ・チェンジ(変化をもたらす主体は誰なのか)」の原則を適用することになる。つまり、既存のエンターテインメント会場近くで新たに宅地開発を行う場合は、居住者がその会場の騒音に影響を受けないように設計されなければいけないということだ。逆に、新たにエンターテインメント会場を開発するなら、既存の住宅地を騒音から守らなければいけない。これこそ良い隣人となるための要諦だ。
「様々な人々を、特に若者を巻き込んでいくことが重要です。物ごとが彼らにとって上手く進んでいないなら、彼らは声を挙げる必要があります。私たちがそこに気付かなければ、多くを知ることができませんし、何かを修正することもできません。皆さんは、もし自分の望まないことが起きているなら、声を挙げる権利を行使する必要があるのです。その後は、私たちの仕事になります」。
影響を与える場所
改革案は、この地図に示されているシドニー都市圏に影響を与えるだろう。
市民のフィードバック
改革案は「An Open and Creative City」の中で閲覧でき、12月13日(水)まで、あなたの意見を投稿できる。文書には、改革案に賛同できるか否か、またはどちらでもないのか、3パターンを問うアンケートが用意されている。回答には10分もかからない。
「私たちは基本計画、調査、戦略を丁寧に練り上げてきました」とミラーは言う。「私たちはしっかりした理念と方向性を持っていますし、多くのステークホルダーとも対話を重ねてきました。政策と変化を実行に移す段階に来たと言えます」。
今後どうするのか
まずは待たなければいけない。改革案が承認される必要があるからだ(フィードバックが多ければ多いほど、議会は市民の考えをより理解してくれる)。市議会で採択されれば、開発管理計画は、おそらく2018年後半にシドニー大都市圏委員会に提出される。市の職員はフィードバックを勘案し、新たな開発管理計画を準備することになっており、それもまた一般公開される。
ミラーは、「じれったくなってしまいますよね。ですが、これはいわばテトリスのようなもので、ピースを正しい場所にはめ込んでいく作業なのです」と語る。「意図せぬ結果になって誰かが傷つくような事態を避け、上手に変化を生み出すことこそ大切なのです」。
長い記事で疲れただろうか
確かに、たくさんの専門用語が出てきたため読み切るのに疲れただろう。最後に、この改革案を解説するミラーとスカリーによるショートビデオを見てほしい。
覚えておこう。12月13日(水)まで意見を言うチャンスはある。回答はわずか10分だ。