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世界を旅したシェフが極める、スパイス料理とワインの新境地

テキスト:
Miroku Hina
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押上の住宅街にひっそりと佇む一軒家。入り口から緑に覆われた小道を進むと現れるのが、知る人ぞ知るスパイス料理の名店「スパイスカフェ」だ。2003年に、世界48ヶ国を旅したというシェフの伊藤一城(48)がオープンし、日本におけるスパイス界の先駆的な存在として、奥深いスパイスの魅力を伝えてきた。

当初はインドカレーを主に提供していたが、2016年からディナーメニューを月替わりのコースのみに限定。料理に合わせてワインをペアリングする『ワインペアリング』を付けられるのが特徴だ。スパイス料理とワインの組み合わせは、世界的にも開拓されて日の浅い分野ながら、スパイスカフェではその魅惑のマリアージュを味わいに、毎月のように訪れるファンもいるという。今回、タイムアウト東京がスパイスとワインが織りなす魔法のようなコースの全ぼうを明らかにする。

庭の緑が揺れる窓際の席

ディナーコースメニュー『スパイスを楽しむ7つの皿』(5,000円)は、伊藤の「四季の旬がある日本の食材とスパイスを組み合わせた、新しい領域を探求したい」という思いから誕生した。ヌーヴェル・インディアと呼ばれるジャンルで、国内でも提供している店はわずかだ。

その料理に合わせる『ワインペアリング』では、毎月、ワインショップのインポーターや、スタッフ全員と共に思考錯誤を重ねて選び抜いた5種のワインを提供。スパイスの芳香な香りを殺さない自然派ワインが9割で、あとは日本ワインを出すことが多いそうだ。

着席したら、めくるめくスパイスとワインの物語の始まり。1皿ずつ、じっくり堪能してほしい。

1皿目 季節の野菜盛り合わせ、自家製パン 

焼きシイタケや、赤ピーマンのムースなどが並ぶ芸術的な前菜。それぞれにほのかにスパイスが香り、スペイン・カタルーニャ地方のスパークリングワイン「カバ・チャンカレ・ブリュット」が優しく包み込む。美しいオープニングが、期待を膨らませてくれる。

2皿目 アユ、揚げパン 

5種のスパイスがまぶされたアユ。長時間コンフィしてあり、骨も箸でほぐれるほど柔らかい。ビーツという野菜で鮮やかに色付けされたパンは、さながら赤い月のよう。白ワイン「ブレンド・オブ・ピノ」の豊かな香りがマッチする。

3皿目 ポークロースト、薄焼きパン 

メインのハーブ豚の肩ロース。クリーミーなチーズソースに添えられた旬のゴーヤやケールの緑が映える。上品な酸味と程よいタンニンが感じられるトスカーナ地方の赤ワイン「イポジェオ」が口を潤す。

4、5皿目 トウモロコシビリヤニ、タコと野菜 

2種のカレーとビリヤニ。取材日は、味わい深いタコキーマカレーと、野菜カレー、甘いコーンがたっぷりまぶされたビリヤニが、絶妙のコンビネーションだった。量も十分なので、ビリヤニは持ち帰る人も多い。フランス産の白ワイン「ノファサ・ブラン」の特徴的な酸味と香りが、カレーを引き立てる。

6皿目 エダマメとシンショウガのデザート 

デザートは、夏の季節感たっぷりのエダマメの冷製スープとショウガのアイスクリーム。まろやかなスープに添えられたカカオニブがアクセント。

7皿目 パッションフルーツ 

最後は、沖縄県産パッションフルーツのココナッツアイス添え。みずみずしいパッションフルーツの酸味と、ココナッツの甘みが溶け合う。ほんのり苦みを感じる沖縄産のマンゴーワインと、スパークリングワインを合わせたカクテルのフルーティーな香りに包まれ、華やかな気分でコースを終えた。 

たっぷり5種のワインと、スパイスの新鮮な発見に満ちた7皿。日本の食材と、多様なスパイスを組み合わせた料理のアイデアは、現在もヨーロッパやインドを頻繁に訪れ、ジャンル横断的に食を深めてきた伊藤だからこそ得られるものだろう。

日本人としてスパイスで何ができるかを常に考えています。四季がないインドでは、カレーに季節感を出すという概念はありません。でも、日本では四季によって旬の魚や野菜が変わる。だからこそ、コース料理では旬の日本の食材とスパイスを組み合わせ、今までにない表現を追求したい。スパイスが主役ではなく、食材に寄り添う使い方を目指しています」

スパイスの奥深さは、カレーだけでは知り得ない。ぜひ、絵画のような7皿から、まだ見ぬスパイスの世界を覗いてみてほしい。料金以上の魅力は、確実に感じられるだろう。ノンアルコール希望であれば、スパイスティーと中国茶を使ったティーペアリング(3,200円)の用意もある。

厨房で調理する伊藤

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